ファッションの歴史は映画を"見て"で学ぶ。
ー〈バーバリー・ブラックレーベル〉のミリタリーコートをご覧になっていかがですか?
ミリタリー系は、〈バーバリー〉の専売特許ですもんね。言うことないですよ。今シーズンは、さっきのダウンと相反して、"重いけど格好いいものが欲しい"っていう人が増えましたよね。軽いのは、持っているから2着目としては、よりデコラティブなものを選ぶようになったのかな。今季は、第一次世界大戦のときの軍服をモチーフにしているメゾンが多いですね。フィールドジャケットみたいなものではなく、セレモニーや凱旋の時に着るものがベースの。〈バーバリー〉は、細かい部分まですごくしっかりと作っていますよね。こういうミリタリーコートを古着で探すとどう着てもダサイくて野暮ったいので、新品を買うのがいいですよ。
ー今季は、なぜミリタリースタイルが注目されているんでしょうか?
つい最近まで細身のジェンダレスなスタイルが流行っていたから、アンチマスキュリンだったその時代の反動なんじゃないかな? 前に出したものを否定して新しいものを出していくのがこの業界の常ですから。そういう意味でいうと、一番距離感があるサイドチェンジがきいているように見えるからなんじゃないかな。
ーアメリカやイギリスには伝統的なスタイルがありますが、こうガラリと旬なスタイルが変わるのって日本だけなんでしょうか?
日本だけというか、ファッション業界の人だけじゃないですかね。街は、そんなにがらりと変わらないし、そんなことどうでもいい人のほうが多いでしょ。それより、なんで広末涼子とキャンドルジュンが結婚したかのほうが気になるっていう人のほうが多いはずですよ(笑)。
ーそうですね......(笑)。ミリタリーコートを着るときの右近さん流の着こなし方はありますか?
ミリタリーコートは、礼服的なものと野戦的なものがあるので、礼服的なものは、ドレス的に着るんですが、キメキメになるのがはずかしいので、靴はスニーカーにしますね。N3Bみたいなものは、あえてジャケットにネクタイを合わせたり。基本ミリタリー系のアウターは、気合いを入れたオシャレの時に着るようにしています。でも今季は、本当デコラティブな第一次世界大戦前のコートをモチーフにしたデザインをよく見ますね。
ー第一次世界大戦前のデザインになっているかは、どういうところでわかるんですか?
第二次世界大戦頃になると飛行機や戦車が出てきたり、戦い方が全く違うので、シンプルで機能性重視なんですよ。だから、今季多くリリースされているようなドレッシーなデザインのものは、第一次世界大戦以後は、発達してないんですよね。
ー勉強になります。
ミリタリー系のコートは、ダッフルコートや〈バーバリー〉が第一次世界大戦前に作ったトレンチコートなどイギリス発祥のものが多いですよね。でも映画『さらば青春の光』で少年達が着ているモッズコートは、アメリカ軍のM−51なんですよ。実際イギリスにいた60年代の若者は、自分の国のものより、他の国のものがかっこよく見えていたんですかね。
ーおもしろいですね! 今上げていただいた『さらば青春の光』のように、そのミリタリーコートの歴史がわかるような映画は他にもありますか?
『ナヴァロンの要塞』という戦争映画の中でも名作と呼ばれているものがあるんですが、グレゴリー・ペックとその戦友たちがベレー帽にダッフルコートを着ていて、かっこいいんですよ。今よりはちょっとダボダボな感じかな。もともと北欧の漁師が着ていたものをイギリス軍が軍服に採用したので、荒い毛布のようなウールに、ただトグルをつけただけという粗野なものだけど、それがオリジンだし、映画自体もおもしろいので、見てみるといいかもしれないですね。ピーコートは、ジャック・ニコルソンの『さらば冬のかもめ』とか。あとトレンチコートは、たくさんあるんですけど、アメリカのハードボイルド系の映画で『さらば愛しき女よ』っていう映画で、ロバート・ミッチャムという"Theマスキュリン"みたいな俳優が主演なんですが、その人が着ているトレンチコートはかっこいいですね。あと、『ピンク・パンサー』に出てくるクルーゾ刑事も、役柄自体は間抜けだけど、エレガントですよ。
ートレンチコートって男らしくてセクシーな印象ありますね。
男だけじゃなく、女性が着ているのもいいんですよ。マスキュリンなアイテムなので、女性が着るとそのギャップでキュートさが際だつんですね。『ティファニーで朝食を』のオードリー・ヘプバーンも着ているし、日本映画では『銀座の恋の物語』の浅丘ルリ子さんが、本当かっこよくてかわいいですよ。
ーそういう映画を見ると着ているのが楽しくなりそうですね。
僕らの時代はそういうのしかないし、海外のファッション誌も入ってこないから、映画がファッションの教科書になっていたけど、今の人はそんな風に思わないんじゃないかな。今は、ネットでその映画のストーリーを見なくても画像だけ見れちゃう時代だからね。でも実際映画でロバート・ミッチャムが眠そうな顔でシャーロット・ランプリングみたいなものすごいいい女を口説いているから、かっこいい訳で。検索画像だけで満足しないように!
ーですよね。今回は、映画の画像はあえて掲載しません(笑)。 色々とお話を伺いましたが、最後に右近さんが考える〈バーバリー・ブラックレーベル〉のアウターを着ることのアドバンテージを教えてください。
〈バーバリー〉には、絶対的な歴史があって、そのアーカイブを基に足したり引いたりして商品が生まれているので、他のブランドのものとは上がってくるものが全く違うと思うんですよ。その中でも〈バーバリー・ブラックレーベル〉は、その最大公約数的なレーベルだと思うので、"外套(がいとう)といえば、バーバリー"といわれるように、〈バーバリー〉を着ていることに対する絶対的な安心感はありますよね。でもそれにあぐらをかかずに、そのシーズンに合わせたアイテムをリリースしているのがすごいですよね。大きな分母からきちっとした分子をつくって提供しているという。今後も楽しみですね。
ーたくさんの楽しいお話ありがとうございました。
〈バーバリー・ブラックレーベル〉一押しのミリタリーコートをチェック。「細かいところまで、しっかりと作ってますね。このエポレットにも意味があるんですよ」と様々なお話をしてくださいました。
「こういうリアルなカーキ色は、マスキュリンな印象で今年っぽいですね」ということなので、要チェックです。
実際に試着。ダンディーに着こなしていただきました。お似合いです!