映画『ムーンライズ・キングダム』公開。監督ウェス・アンダーソンの魅力とは? 友人・野村訓市さんの視点で眺めてみます。
2013.02.20
2月8日から全国公開中となっているウェス・アンダーソン監督最新作『ムーンライズ・キングダム』がとにかく素晴らしい。それは2012年のカンヌ映画祭のオープニング作品にも抜擢され、興行成績においてもウェス作品史上最高を記録したことでも実証済み。観る者の感性と心を揺さぶる作品を生み出し続ける"異才"の人物像と今作の魅力を友人である野村訓市氏の視点からひも解く。オフィシャルでは知り得ない、野村氏ならではのエピソードたち。
photo_Koji Sato[tron]
edit_Ado
-ウェスってどんな人ですか?
野村訓市(敬称略/以下野村): とにかく細かくて意見をはっきり言う人ですね。同時に普段は浮世離れしているところもある。面白い人ですよ。すれてなくて、変わってる(笑)。
-野村さんが感じるウェスの面白みとは?
野村: 大きな映画も撮るから当然ファンも多いし、商業的な部分も持ち合わせている監督だとも思うんですけど、やっぱり映画が本当に好きで撮っている人なんですよね。話していてもまったく裏を感じないというか。
-素直な人なんですね。
野村: 変な色気はまったく出さないですね。みんなが期待していることの逆を行こうとか自分の見せ方を計算したりしない。純粋に映画が好きで、アイディアが浮かんだから作りたいと思ってる。ただそれだけなんじゃないかな。
-そもそも野村さんとウェスとの出会いは?
野村:
ソフィア(コッポラ)と仲良かったんですよ。彼女は自分の友達が日本に来る時によく「会ってやってくれ」とか「遊びに連れてってやってくれ」と僕に頼むんですけど、ウェスの時はたまたま「友達が今度日本に行くから(野村さんの)メールアドレスを渡していい?」みたいな連絡がきて。そしたら一言「僕ウェスっていうんだけど、日本にいくことになったから会えない?」ってすごく短い文章が送られてきた。誰だかよく分かってなかったんだけど、いいよって返事したんです。当日、仕事抜けて待ち合わせしたホテルのロビーにふらっと行ったらなんか変わった感じの空気の人がいて(笑)。
そんなに寒くなかったんだけど真っ白なマフラーを巻いて首からさげてるから「たぶんこいつだろ」って思った。「よ、オレが訓だ」って言ったら「僕がウェスだ」って。それで2人で出かけて色々話してる途中で「あ、ウェス・アンダーソンなんだ」って気づいたんですよ(笑)。
-衝撃ですね(笑)
野村: 僕はあんまり人の職業とか気にしないので、ソフィアの友達でまた何かやってるヤツぐらいに思ってたんですよね。ウェスと分かってからは、ロマン(コッポラ)<※ソフィア=コッポラの兄>と仲がいいって言うから、ロマンと飲みにいった店に行ったり。普段からよくメールし合うのでお互い同じ国にいるタイミングのときは一緒にご飯食べに行ったりしてますね。
-純粋な友人としての付き合いなんですね。
野村: 僕は映画の人間でもなんでもないからね。
-そんなウェスの映画『ムーンライズ・キングダム』はどうでした?
野村: ボーイスカウトにまた戻りたいな、って思いましたね(笑)。
-ボーイスカウトだったんですか?
野村: 中1の夏休み前から4ヶ月位入ってました。当時なぜかすごくボーイスカウトのキャンプに憧れてたんですよ。入隊しないと連れてってくんないって言うから、キャンプに参加してすぐに辞めた(笑)。
-主人公たちと同じぐらいの年齢ですね。
野村: そうですね。主役の子みたいに彼女とかはいなかったですけど。
-子供の頃の遠い記憶とリンクした部分もあったんじゃないですか?
野村:
家出する場面で、これから必要になるであろう荷物を色々考えて詰め込んでたでしょ? ああいうのは似たような体験があって、ぐっときましたね。旅行に行く時ってあんな感じで、これも必要なんじゃないか、旅先でこんな本を読もうかとか考える。でも、実際は読まなかったりするんですよね。なんでこんな重い本を持ってきたんだろうとあとで後悔したり。
あの女の子は、今の私には本当にこれが必要だ、と真剣に悩んで持っていくべき物を選んでた。その感じがすごくよかったな。今はもう大人になって経験値があるから、旅先で必要なものと、そうでないものが分かるようになっちゃったけど。