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クロード・ガニオン×岩井俊二 プリミティブな映画談義。

2013.01.22

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日本を舞台にした数多くの名作を生み出してきたカナダ出身の映画監督、クロード・ガニオン。日本を代表する映画監督として国内外で高い評価を得ている、岩井俊二。俗に言うエンタメ路線とは距離を置きながら、丁寧な人間描写に定評のある2人は、映画というフォーマットを使って何を表現しようとしているのか。純朴な2人の濃厚な対話から映画の魅力を紐解いていきます。

Photo_Miri Matsufuji
Edit_Hiroshi Yamamoto
※この対談の模様は「岩井俊二映画祭」でもご覧頂けます。

クロード・ガニオン
1949年生まれ。カナダ・ケベック州出身。映画監督。1970年に初来日。1979年に長編作品『Keiko』を発表。その後も『リバイバル・ブルース』や『KAMATAKI-窯焚-』など、日本を舞台にした作品を制作。1987年には足の無い少年を題材にした『ケニー』で、モントリオール世界映画祭のグランプリを受賞。そして沖縄を舞台にした最新作『カラカラ』が1月19日(土)より新宿ピカデリーほか全国にて公開中
www.bitters.co.jp/karakara

岩井俊二
1963年生まれ、宮城県仙台市出身。映画監督。1995年に『Love Letter』でキャリアをスタート。代表作として『スワロウテイル』や『リリイ・シュシュのすべて』などがある。2011年にはオフィシャルサイト「岩井俊二映画祭」を開設し、様々なコンテンツを配信している。なお、3月20日にはカナダで撮影した最新作「ヴァンパイア」のDVDが発売される。
iwaiff.com

クロードさんの作品が僕の人生を変えたんです。

岩井俊二(以下、岩井): 最初に申し上げますと、僕はクロード・ガニオン監督の大ファンなんですよ。こういう貴重な場を設けていただいたのは、ありがたいのですが、同時にとても緊張しています(笑)。

クロード・ガニオン(以下、ガニオン): それはとても光栄なお話しですね。

岩井俊二: 初めてクロードさんの作品に出会ったのが高校3年生の頃になります。1979年に公開された『Keiko』という作品。この作品を観たことが、僕にとって大きな転機になりました。

ガニオン: なるほど。高校3年生に『Keiko』はかなり刺激的な内容だったかもしれないですね。

岩井俊二: 実は初めて観たときはピンときませんでした。それが、1ヶ月を経っても頭から離れなくて、3ヶ月後にはなんだか物凄い好きな作品であることに気付いてしまい......。それまで観てきた映画とはあきらかに異なる刺激を受けたんですよね。

ガニオン: 当時から映画監督を志していたんですか?

岩井俊二: 映画は好きでしたけど、さすがに監督になろうとは思ってもいませんでした。それが『Keiko』を観たことをキッカケに、映画を撮りたいという衝動が芽生えてしまい...。「映画は人が撮っているんだ」と実感させられたというか。

ガニオン: つまり映画監督になるキッカケを作ったのが僕だと?

岩井俊二: その通りです(笑)。『Keiko』を観て映画を撮りたくなって、大学で作品作りに没頭するようになっていって、今もこうやって映画監督として仕事を続けています。実はこの対談の前に『Keiko』を見返したんですが、監督として少なからず経験を積んだ今の僕からしても、この作品の自然な演技には驚かされました。どうすればこんな演技を導き出すことができるんだろう、と。

ガニオン: そもそも僕自身が興味を持っているのは、人間の心ですからね。その心を表現するには、ドラマチックな一瞬を演出することよりも、日常における感情の起伏を丁寧に描くことが大事になってくる。僕の映画には、スペクタクルやエンターテインメントは必要ないんですよ。

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岩井俊二: 『Keiko』が公開された1970年代当時は、まだ映画全体にナチュラルな演技を目指す傾向はあったと思うんです、国内外問わず。今では邦画と洋画ではあきらかに方向性が変わってしまった。作品によっては現代劇と時代劇くらい違いを感じることもあります。ちなみに『Keiko』に出演されている方々は、本職の役者さんなのですか?

ガニオン: 当時、演劇などで活動していたアンダーグラウンドな役者ばかりではありますけどね。それでも納得のいく配役ができたのは、ケイコ役を演じていただいた若芝さんのおかげなんです。彼女の演技も素晴らしかったし、彼女の意向を重視したキャスティングによって、すべてのキャストが自然な演技をできる環境が整いましたから。

岩井俊二: 最新作『カラカラ』では工藤夕貴さんが主演されています。

ガニオン: 僕にとって大事なのは、彼女の知名度ではありません。僕がイメージする役とマッチしているのか。そこを重視した結果、工藤夕貴という役者に辿り着いたんです。

岩井俊二: なるほど。物語の冒頭で彼女が出てきたときに、工藤夕貴であることどころか、作品における重要な人物であることさえも、気付かなかったんですよね。良い意味で、女優らしさが皆無なんですよ。とにかく自然に映像に溶け込んでいる。それがとてもクロードさんっぽくて、観ていて嬉しくなってしまって。『Keiko』の頃から変わらない、クロードさん独特の世界観というか。

ガニオン: 映画作品として「売り」にしにくい部分ではあるんですけどね(笑)

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