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Think About Running 1人の中年ランナーのマラソンに関する戯言。

2014.06.20

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「人生はマラソン」なのか? たかがマラソンを壮大な人生に置き換える時点ではなはだおかしい。しかし、それでも、わざわざ映画のタイトルにしてしまった作品が存在する。2012年にオランダで公開された『人生はマラソンだ!』だ。なぜ、これほどまで仰々しく"人生はマラソンだ!"と言い切れてしまうのだろうか。同作品の日本での公開を記念して、自らマラソンに親しむ『SHOES MASTER』編集長及びフイナム ランニング クラブ♡の部長を務める榎本一生が綴る、人生とランニングの関係性。

Text_Issey Enomoto
Edit_Hiroshi Yamamoto

「人生はマラソン」なのか? 文:榎本一生

走り始める理由は人それぞれ。「運動不足解消のため」という人もいれば、「マラソン完走のため」という人もいる。「まわりが走り始めたから、自分も」というミーハーな人もいれば、「異性にモテたいから」という邪な理由で走り始める人もいる。

一方で、走り続ける理由はだいたいみんな同じだと思う。それは「自分がアップデートしていく感覚」が得られるから。できなかったことが、できるようになる。やればやっただけ、自分が変わる。走ることを通じてこの感覚が得られた人はその後も続けるし、得られなかった人は走ることをやめてしまう。

自分はちょうど2年前からそれなりに本格的に走り始めた。理由ははっきりとはおぼえていないけれど、「痩せたい」とか「ビールをより美味しく飲みたい」とか、そんな程度だったと思う。まあ、よくありがちな話。でも幸いにして「自分がアップデートしていく感覚」を得ることができた。だから続いた。

当初は2、3キロ走るだけでゼーゼー言っていたのが、続けているうちに平気で5キロ走れるようになり、それが6キロ、7キロ、8キロ......と徐々に距離が伸びていき、そのうち息を切らさず10キロ走れるようになった。体重は約半年で10キロ減。大会にも興味が湧き、フルマラソンに出ることにした。最初は42.195キロを走るなんて想像もつかなかったけれど、結局2年のあいだに計5回完走し、タイムが徐々に縮まっていくことにちょっとした快感をおぼえた。いまでは走ることは完全に習慣化し、雨の日以外はほぼ毎日走っている。

オランダで大ヒットを記録したという映画『人生はマラソンだ!』を観て、走り始めた頃の感覚を思い起こした。

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主人公はロッテルダムで自動車修理工場を営むギーアと、そこで働く3人のさえないメタボなオヤジたち。マラソンはおろかスポーツと無縁の生活を送っていた彼らは、経営危機で倒産寸前になっていた自分たちの工場を救うスポンサー集めの手段として地元ロッテルダムマラソンの完走を目指し、走り始める。その理由は「家族や仲間のため」と言えば聞こえはいいけれど、平たく言えば「お金のため」。邪なことこのうえない。

でも、理由が邪であるから続かない、ということにはならないことを彼らは証明する。一念発起した彼らは元マラソン選手のコーチのもと本格的なトレーニングを始め、「自分がアップデートしていく感覚」を着実に得ながら、フルマラソンという目標に向けて距離を積み重ねていく。途中、前哨戦としてエントリーしていたアムステルダムマラソンの前日に痛飲し、スタートに間に合わないなどのヘマを犯しつつ(気持ちはよくわかる)。

実際のロッテルダムマラソンで撮影されたという大会当日、物語は意外な展開を見せながらクライマックスへと向かっていく。さえない中年オヤジだった彼らが立派なランナーに成長し、ゴールへ向かっていく姿は感動的ではあるけれど、自分にとってはそこに至るまでの過程、つまり「自分がアップデートしていく感覚」を得ながら徐々に変わっていく姿のほうが心を打たれたし、自分がランナーだからというのもあって、共感できるところが多かった。

「マラソンは奇跡が起こらないスポーツ」と知人が言っていた。大会当日は"発表会"のようなものであり、日々の積み重ねがすべてである、と。まったくその通りだと思いつつ、それはマラソンに限ったことではなく、人生のあらゆることに当てはまるような気がする。何か新しいことを始めて、それなりに結果を出そうと思ったら、「自分がアップデートしていく感覚」を得ながら、日々コツコツと続けていくしかない。理由はなんだっていいし、なんなら後付けでもいい。もちろん、奇跡なんて期待しちゃいけない。そういう意味ではたしかに「人生はマラソン」なのかもしれない。

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『人生はマラソンだ!』(原題:DE MARATHON)
監督:ディーデリック・コーパル
脚本:マルティン・ファン・ワールデンベルグ、ヘーラルト・ムールダイク
出演:ステーファン・デ・ワレ、マルティン・ファン・ワールデンベルグ、フランク・ラマース、マルセル・ヘンセマ、ミムン・オアイーサ
2012年/オランダ映画/113分/
字幕監修:金哲彦(プロランニングコーチ)/日本語字幕:浅野倫子/
後援:オランダ王国大使館
賛同:オランダ政府観光局 www.hollandflanders.jp/
協賛:KLMオランダ航空/(株)グリーンフィールド
配給:ザジフィルムズ
www.zaziefilms.com/marathon/
© 2012 Eyeworks Film & TV Drama B.V.

6月21日(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー!

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