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WHO ARE YOU? 謎に満ちた詩人・菅原敏の正体。

2014.02.26

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詩って何? 詩人って一体? フイナム読者にとってはあまり馴染みの無い「詩」。そんな詩の世界に身を置きながら、僕らが思い描く詩人とは異なる活動を続けている菅原敏。そんな彼が2014年の幕開けから取り組んでいるのが、毎夜YouTubeに投稿されている「詩人天気予報」です。詩と天気予報、思わぬ組み合わせは如何にして誕生したのか。そしてその意図とは。菅原敏自ら語っていただきました。

Photo_Satomi Yamauchi
Text_Go Suzuki
Edit_Hiroshi Yamamoto

菅原敏(すがわらびん)
詩人。2011年に詩集『裸でベランダ/ウサギ と女たち』をアメリカの出版社PRE/POSTよりリリースBEAMSやスターバックスコーヒーなど異業種とのコラボレーションから、ラジオ・テレビでの朗読、雑誌や新聞への寄稿、講演、ナレーションまで、その活躍の場を広げている。
sugawarabin.com
twitter.com/sugawara_bin

「詩人・菅原敏」とは一体何者なのか。

-菅原さんにこんなことを伺うのは失礼かもしれませんが、そもそも詩って何なのですか?

菅原: 簡単に言ってしまえば私的な言葉だと思います。作った本人が詩と決めれば、それは詩になる。僕自身、詩人として生きていくと決めたときから、詩人と名乗っているんです。俳句や短歌のように定型が無いので、定義が難しいんですよね。自由ゆえの奥深さは魅力ではあるんですが、明確な答えが無いからこそ伝えにくい部分もあります。

-一般的に詩に馴染みの薄い人の方が多いと思うんです。そういったなかで詩人・菅原敏の特徴を簡潔に教えてください。

菅原: 僕の場合は詩を書くだけではなく、自ら朗読するのが大きな特徴ですね。その他にもファッションブランドとコラボレーションしたり、ナレーションや講演、フイナムでは〈ナイキ スポーツウェア〉のアイテムに対して詩を綴ったり。より多くの人に詩を知ってもらうため、他業種と積極的に携わるようにしています。

-そんな菅原さんが影響を受けた詩人を教えてください。

菅原: 日本人だと金子光晴と山之口貘ですね。金子光晴は文壇の世界でも高い評価を得ている地位のある方なんですけど、詩の内容がとにかく破天荒で。一方の山之口貘は、沖縄出身でとにかく貧乏。だからこそ味わい深い詩を書くんです。ともに故人ではありますが、激烈な実体験から生まれてくる詩の数々は、時代を超越した魅力があります。正直、今読んでも胸が熱くなります。

-菅原さんはなんでまた詩人という特殊な職業を志したんですか?

菅原: もとを辿ると祖父の影響かもしれません。僕の祖父は営んでいた工場に人を集めて、詩の朗読会を開催していたんです。アメリカの詩人に手紙を出して、返事が来たことを自慢気に語っていたこともありました。若い頃には戦争に翻弄されて抑圧せざる得なかった文化的な欲求を、年を重ねてから発散していたんですよね。ようは変わり者です。そんな祖父を、幼少の頃の僕は冷めた目で見ていたんですけど...。

-詩の朗読会を冷めた目で見ていた少年が、なんで詩人になってしまったんでしょうか?

菅原: 学生時代から始めたジャズバンド活動がキッカケですね。音楽から歌詞に興味を持って、その意味を紐解いていくとビートジェネレーションに辿り着いて。彼らがまた格好良いんですよ。言葉のチョイスもスタイルも。サルトルの実存主義へのオマージュとして、黒のタートルネックを着ていたり。インテリジェンスがあるんだけど不良。ぼくにとってロックスターのような存在が詩人だったんです。

-とはいえ、普通は自ら詩を書こうとはなかなか思わないですよね。

菅原: バンド時代に作詞・作曲を手がけていたので、その延長で詩は書いていました。試しにライブの合間に詩を読んでみたら、演奏するよりもウケが良くて。ジャズのライブなのに笑いが起きたんですよ(笑)

-お客さんの「笑い」から詩に目覚めたわけですね。

菅原: ジャズのライブって笑いが起きるような状況では無いですからね。演奏ではリアクションが少ないのに、詩を読むと様々な反応が出てくる。そのギャップが堪らなく面白かったんです。

-それで徐々に詩への比重が大きくなってきたわけですね。実際に詩人として活動する以前は何をされていたんですか?

菅原: 新卒で広告代理店に入社して、その後はフリーのコピーライター、何もしない1年を過ごしたりしながらも、、2008年頃からはヤフージャパンに勤めていました。その間、詩人としての活動は続けていましたが、実際に腹を決めて独立したのは一昨年なんです。

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菅原敏が「詩人・菅原敏」になった経緯。

-つまり、詩集「裸でベランダ/ウサギと女たち」を出版した2011年はヤフージャパンのスタッフだったわけですね。

菅原: そうです(笑)。徐々に詩人としての仕事も増えてきて、どこかで区切りを付けないといけないなと常に思っていて。一念発起して、詩人として独立したんです。

-独立の決め手といえる詩集「裸でベランダ/ウサギと女たち」の、発売までの経緯を教えていただけますか。

菅原: バンド仲間だった友人が、日米を股に掛けたパブリッシャーとして活躍していて。彼が僕に声を掛けてくれたんです。「朗読してきた詩を書籍としてまとめてみないか?」と。

-実際に自著を発売して、反響はいかがでしたか?

菅原: 本って出しただけじゃ売れないんですよ、しかも版元はアメリカ。だから、最初は反響なんて皆無。反響を得るためには自分で動くしかありませんでした。あらゆるツテを利用して、たくさんの方にお会いして、本を手渡して、読んでもらう。簡単に言えば営業ですよ。そこでユトレヒトの江口さんが面白がってくれて。ラジオで"今年1番キザな書籍"として「裸でベランダ/ウサギと女たち」を取り上げてくれたんです。そこから徐々に反響を得られるようになって、仕事のオファーの幅も広がっていきました。

-まさに詩集が名刺代わりになったわけですね。仕事の1つとして朗読というのもあると思うのですが、詩人・菅原敏にとって朗読する意味は何なのでしょう?

菅原: 朗読こそ、僕の詩の醍醐味だと思っています。自分で摘むいだ言葉を、自分の声で、自分のテンポで、表情や仕草も交えて伝えられる。あくまでも詩集はガイドで、朗読を通してその都度、そのときの心情で詩がアップデートされていく。詩集は製本して完成ですけど、朗読には完成形が無いんです。読んでいる僕自身も、常に新しい発見がありますし。

-正直、詩の朗読会に対してとても地味な印象があります。アナウンサーの方がお堅い作品を感情的に読んでいるような。

菅原: 確かにそういったイメージは強いかもしれないですね。ただ、僕の場合は来てくれた方々に静かに聞いてもらうよりも、一緒に楽しんでもらいたい。そのためにバンド時代の経験を活かして、よりエンタテイメント性の高い朗読を心がけています。

次のページでは話題沸騰の「詩人天気予報」について語ります。

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