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話題の"熟成肉"って本当に美味しいの?

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2014.04.17 19:30

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"一晩寝かせたあの美味さ"。ってカレーの話ではなく、今、熟成肉ブームが日本を席巻中です。テレビやグルメ雑誌でも特集が組まれること数多。肉食男子はもちろん、肉食女子からも熱い視線を浴びている熟成肉ですが、そもそも普段食べている肉と何がどう違うのか。というわけで、熟成肉を一躍表舞台に引き出した名店、中勢以の出浦さんに訊いてきました。


Edit_Jun Nakada


見た目は腐った肉。最近よく耳にする熟成肉って一体ナニ?


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----熟成肉って何ですか?


「熟成肉は、その名前の通り肉を熟成させたものです。またの名を"エイジドビーフ"とも言いますが、長期間一定の環境下におくと何とも美味しくなるんです。熟成が進むと、タンパク質は分解されて旨み成分のアミノ酸へと変わり、肉自体の持つ酵素の働きによって肉質は柔らかくなります。それこそ魚の干物と同じで、余分な水分が抜ける分、旨みが凝縮されるんですよ。これまで肉のおいしさは脂の旨味と捉えていた方は、その概念が覆されると思いますよ」


----なるほど、そう言われると食べてみたくなりますね。


「そもそも熟成肉は今に始まった話じゃないんですよ。『ギャートルズ』って漫画ありますよね? お父さんが家族のために狩りに行ってマンモスを捕まえてくる。それを解体して焚き火を囲んで食べるわけですが、マンモスは大きいからとてもじゃないけど全部は食べきれませんよね。で、岩の上なんかに置いておくと、ハゲ鷹が持って行く。それでも残った肉はビーフジャーキーになったりして......(笑) でもまだ食べきれないぐらい余るわけで、それを盗られちゃいけないと洞穴の中に運んでいたのでしょう。氷河期だから洞穴の中の方が外よりも暖かい、でも水は凍る温度。いってみればひと昔前の冷蔵庫と同じです。0℃に近い温度で高湿な状態。つまりそこに置いておいた肉が熟成肉になったのかもしれません。多少語弊はありますが、考え方としては一緒です。ただ、衛生管理がどうとかっていう時代じゃないので、カビが生えるともう食べられないって思うわけで、でも本当は熟成肉になってたんです。熟成した肉ではなく、熟成された肉。"熟成肉"と謳わなかっただけで、きっと実際はあったんですよ(笑)」


カビの生えた肉なんて誰が買う? すべてはそこから始まった。

----確かに言われてみればそうですね。でもその熟成肉がここまで注目を集めるようになったのは何か理由があると思うのですが。


「それは難しい質問ですね。正解かどうかは別として、熟成肉が勝手に一人歩きしていたわけではなくて、ブレイクするように肉屋さんとメディア、そして食べる人が密にコミュニケーションを取れたからじゃないかと思います。僕が最初に中勢以を始めたのがちょうど5年くらい前。田園調布の住宅街のド真ん中にオープンしたんです。もう最初はカビの生えた肉を"生鮮食品です"って出しても、知らない人からしたら"ナニコレ?"って感じでした。だから、お客さんのいる前でカビだらけの肉の解体ショーをやったり、試食してもらったりして、知ってもらうきっかけをたくさん作ってきました。丁寧にコンサルティングしないと売れなかったわけです。そうやって積み重ねてきたものが、5年経ってようやく広く認知されるようになってきたのかなと思います」


----突発的な流行りではなく水面下でずっと温められてきたものがようやく開花したと。でも巷では高級な食べ物で、なかなか食べれないという認識が高いようですが。


「そんなことないですよ。正確には"気持ちとして味わって食べて頂きたい肉"と呼ぶ方が正しいかもしれません。中勢以では牛一頭まるごと熟成をかけるんですよ。"枝肉"と言って、よくテレビとかで吊るされているのを見るじゃないですか。熟成肉は旨みが凝縮するのと同時に肉のサイズも凝縮してしまうのです。これは乾燥によって水分が減ることと、出来上がった熟成肉のカラカラになった表面をトリミングするためです。牛一頭あたりの販売できる量は従来の牛肉を100%とすると、熟成肉は約70%くらいになるので、確実にロスが多くなります。熟成期間や設備のランニングコストも考えると非常に手間がかかる肉と言えます。でも熟成をかけたからって2倍の値段で売ることは出来ないんです、みんなが買ってくれないので。なので熟成をかけていない肉と比べてどれだけ高いかと言われるとそんなに変わらないってことです。だからこそ、"味わって食べて頂きたい"んです」


----需要と供給のバランスが大事だと。ちなみに家でも作れるんですか?


「やめた方がいいと思います。通常お店で小売りにされている肉は、その日に買い手が一番美味しく食べられる状態で売られているわけです。最適な状態で小売りされた肉というのは、多かれ少なかれ熟成肉とは言いませんが、すでに切ってあって"どうぞ今日食べてください"という状態なので、やめた方がいいですね。それを熟成するとなると、それは単に腐敗させることと同じです。絶対無理とは言いませんが、やめた方がいいと思います。一般家庭でやるようなことではないですね。それよりも薫製とか塩漬けを作る方がいいと思いますよ」


ステーキにして食べるだけじゃ芸が無い。

----おすすめの美味しい食べ方は?


「好き嫌いがあるのでひとつに絞れないのが本音です。寿司屋がよく"仕事をする"と言うように、鯛の切り身を昆布締めしたり、水分量を調節して旨味を持たせるように手を加えますよね。でも必ずしもそれが100%美味しいかというとそうでもなく、おろしたてを刺身で食べるのが好きな人もいるわけで。つまりその時の気分、料理の仕方で変わりますね。熟成肉はひとつのジャンルでしかなく、それがすべてではないと思ってます。だけど肉も素材だから、ステーキにして食べるだけじゃ芸が無いじゃないですか。熟成肉にしたりハムにしたり、色んなバリエーションがあっていい。時代によって求められるものも違うと思うから、その時々で肉をひとつの媒介にしながら世の中とコミュニケートしていくんです。肉を熟成肉としてリポジショニングしてあげることで、色んな美味しいを知ってもらいたいですね」


----最近六本木にオープンしたウルフギャング・ステーキハウスは行かれましたか?


「まだ行ってないです、肉屋が肉屋に行くっていうのもね(笑)。でも興味はあるので機会があれば是非行ってみたいです」


ファッションの世界から鳴り物入りで肉の世界に。

----なぜ熟成肉を生業にしようと?


「昔、ファッション関係の仕事をしていたことがあって、その時に地元の肉食の習慣に出会って。もう衝撃でしたね。肉が大好きで、よく肉屋に行っていたんですが、"これ、ステーキにカットしてくれ"って言うと"いつ食べるんだ?"って店員が言うんですよ。それで"明日だ"って言うと、奥から別の肉を出して来て"明日食うならこの肉にしろ"って言うんですよ。一番最高な状態で食べて欲しいっていう思いが強いんですよね。そういう心意気に惚れたというか、この美味しさをもっとたくさんの人に知ってもらいたいと思ったからですね。で、どんな肉屋を作ろうかと思ったときに、ヨーロッパに探しに行ったんです。パリにイヴさんという熟成肉界の重鎮がいて、彼の肉への思いを参考にさせてもらいました。売り手と買い手との在り方から肉自体、そして肉のバリエーション、見せ方、そのすべてが新鮮でした。間違いなく世界のトップに君臨するお店ですね」


----今後熟成肉はどうなっていくんでしょうか?


「常にリアルであるために、時代との距離感を考えてやっていかないといけないない、味も変わって行かないとだめだと思います。熟成肉自体は大きく味が変わらないから、料理のメニューや調理の仕方等でチャレンジしていくことです。よく来られるお客様に"やっぱり中勢以は変わらず美味しいね"って言われるように頑張っていきたいです。そもそも同じことやってもつまらないし。時代によって役割があると思うので。でも食のトレンドって移り変わりが早いし、定着することは難しい。なので、手を替え品を替え、熟成肉という新しい文化をどこまで定着させられるか、楽しみながらやっていきたいと思います」


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サカナの中勢以
住所:東京都中央区日本橋室町2-3-1 COREDO室町2
電話:03-6262-3232
www.naka-sei.com

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