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ceroとその周辺。『Obscure Ride』と共鳴するもの。聞き手:九龍ジョー

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本人たちの意図に関わらず、確実に彼らが“シティポップ”の中心地点であることに異論はないだろう。ceroは、今年5月にサードアルバム『Obscure Ride』をリリースし、そのLP盤を12月16日に発売。ブラックミュージックを取り込んだこの作品は、“シティポップ”という枠だけに収まらず、周辺リスナーを取り込み、その外側へとオープンな広がりを見せた。この作品はもちろん、ceroとその周りのミュージシャンとの関わり、漫画や映画の読み取り方、この夏のライブやLP版に対する想いなど、さまざまなヒトやコトとの関わり方について話を伺った。聞き手はceroと親交も深い、九龍ジョーさん。時に鋭く、時にやわらかく、随所にceroらしさが感じられるインタビューとなりました。

Photo_Shin Hamada
Text_Kowloon Joe
Edit_Shinri Kobayashi

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左から橋本翼、髙城晶平、荒内佑。Contemporary Exotica Rock Orchestra 略してcero(セロ)。2004年に髙城、荒内、柳で結成。2006年頃橋本が加入。様々な感情、情景を広く『エキゾチカ』と捉え、ポップミュージックへと昇華させる。5月に3rdALBUM「Obscure Ride」発売。各所初回盤が即座に売り切れ、オリコンウィークリーで8位を記録した。全国17箇所のツアーも各地大盛況。ファイナルのZEPP TOKYO公演も完売。そしてFUJIROCK2015ではWHITESTAGEで素晴らしいライブを展開。ベストアクトの呼び声多数! 2016年2月には初となる待望のライブ映像作品『「Obscures」〜Live at ZEPP TOKYO & Obscure Ride Tour Document〜』のリリースも決定した。
FM802にて髙城のレギュラーラジオが始まるなど、今後のリリース、ライブが常に注目される音楽的快楽とストーリーテリングの巧みさを併せ持った、東京のバンドである。

※インタビュー内容は、6月と12月LPリリースでの収録時のものです。

更新されていく、新しいカタチのバンド。

ー(九龍ジョー、以下省略)サードアルバムの『Obscure Ride』、すごい反響ですね。

髙城:どうでしょ? でも、さすがにオリコン8位(6月時点)はビビりましたね。

ーどのあたりが世間に届いたと思います?

髙城:「語りやすい」っていうのは、ひとつあるかも。いま人気が出たり、注目されたりするものって、わりとみんなが“語りたい”作品だったりするケースが多い気がするんですよ。そこにフィットしたのかなって。

荒内:ぼくは、けっこう叩かれたり、賛否両論になるかなと思ってたんですけどね。わりと評価されているのが予想外でした。

髙城:ま、叩かれてもいるけどねぇ(笑)。

荒内:でも、目に見える範囲ではそこまででもないでしょ?

ーリリースから少し経ったことで、ちょっと距離を置いてアルバムと向かい合ってみていかがですか?

髙城:自分らでも、音源として聴くことで、『Obscure Ride』に対する解像度が上がってきたところはありますね。これで、さらに次に進めるようになったっつうか。

ーアルバムの音楽性についてはかなりの数のインタビューで話題にされてきたでしょうから、今回はもう少し周辺の話を聞いてみたいと思うんですね。それで、まず聞きたいのがサポートメンバーのこと。2011年のファースト・アルバム『WORLD RECORD』のリリース後にドラマーの柳(智之)くんが円満脱退します。その後は、髙城、荒内、橋本の3人がコアメンバーってことになると思うんですけど、そこに次々と仲間が加わっていきます。その出会いが、そのままバンドの進化に繋がっていますよね。

橋本:たしかに、みんな出会うべくして出会ったっていう感じですね。

髙城:とくに今回は、みっちゃん(光永渉)※01と(厚海)義朗さん※02の存在が大きかったですね。でも、それってよくよく考えてみると、すべてあだ麗(あだち麗三郎)なんですよ。

※01 ドラム、コーラス担当。チムニィ、Lantern Parade、Alfred Beach Sandalなどでも活動。
※02 ベース、コーラス担当。OishiiOishii、藤井洋平&TVSCOT、厚海義朗トリオなどでも活動。

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ー「東京アンダーグラウンドなヤツはだいたい友達」で知られる、あだち麗三郎(笑)。

髙城:そう、そう(笑)。まず音楽の才能ありきの話ですけど、その上で、あだちくんって、嗅覚というか、スカウトマンとしての才能もすごいんですよ。いまのオレたちの音楽性や楽曲に合わせてメンバーを呼んでくるスタイルって、言ってみれば、あだ麗が先駆けとしてやっていたことなんです。例えばあらぴー(荒内)が参加していた旧・あだカル(旧・あだち麗三郎クワルテット)だって、あだ麗が当時、装いたいと思っていた音楽に合わせて、メンバーがコーディネートされていたわけですよ。結果、あらぴー(荒内)が呼ばれ、チムニィからみっちゃんが呼ばれ、名古屋から東京に出てきたばかりの義朗さんにも声がかかり……っていう。で、オレたちはいま、そのあだ麗の人脈をそのまま継承しつつ、少し違った舞台で土壌を深めてみるっていうことをやっている。そうなったらそうなったで、あだ麗はまた新たな「あだカル」をコーディネートして、次のアルバム(『ぱぱぱぱ。』)に向かったわけで。

ーたしかにファーストのリリース前にMC.sirafu※3が加わったときは、まだ柳くんを含めて4人のceroにサポートメンバーが入るっていう構図でしたけど、柳くんの代わりにあだちくんが加入したあたりから、集団の作り方が根本的に変わりましたよね。

※3 片想い、ザ・なつやすみバンド、うつくしきひかりを主軸に活動するMC、ミュージシャン。

髙城:いわゆる「バンド」っていうカタチではなくなりましたね。当初はあだ麗に正式メンバーになってもらおうか? って話もあったんですけど、いつのまにか立ち消えて、もう正式メンバーとかサポートメンバーとかそういうことにこだわらなくなっていきましたよね。でも、オレらより少し若い人とかでもそういう人たちが増えてきたような感じがするんですよ。遠いプロをサポートで呼ぶっていうよりは、同じ土壌で育ったプレイヤーと出会って、とっかえひっかえっていう。そういうムードがありますよね。

橋本:いま、それを聞きながら、早い時期に誰がサポートプレイヤーとしてそういう役割を担ってたかな?っていうのを思い返してみたんですけど、パッと出てきたのが、「おとぎ話※4を手伝うあだち麗三郎」っていう。

※4 「日本人による不思議でポップなロックンロール」をコンセプトに活動する4人組バンド。若き俊英・山戸結希監督の映画『おとぎ話みたい』の主題歌も担当。

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髙城:やっぱ、あだ麗か(笑)。あだ麗は、かつては俺こん(俺はこんなもんじゃない)※5に所属したりもしていたけど、ブライアン・ジョーンズっていうか、ブライアン・イーノっていうか、プラス・アルファの雰囲気はずっとあったよね。

※5 2001年くらいから活動するインディーズバンド。メンバー変更を経て、現在は9人で活動。

ー一時期のMC sirafuも、昆虫キッズだったり、oono yuukiだったり、いろいろサポートしてましたよね。

髙城:ああいう動きがずいぶんと風通しをよくしてくれたと思いますし、それが今日まで続いている感じかな。しかも、PVなんかをつくるときも、VIDEOTAPEMUSICみたいに、ずっと一緒にやってきた人たちがやってくれるっていう。

ー『Obscure Ride』のアートワークを手がけた写真家の竜ちゃん(鈴木竜一朗)も、デザイナーのつんちゃん(惣田紗希)も昔からの知り合いですしね。

髙城:もともとオレらがシャイで、外の人とコミュニケーションをとるのが少し苦手だからっていうのもあるんだけど、でも、結果としてそういう親密さが意味のある状況を生んでくれたのかなっていう気もする。ただ、それってもう作品のどこかに影響がっていうレベルじゃなくて、もっと本当にマジで土台のところですよね。長い退屈なおしゃべりとかを通じて、そういう土壌を育んできたっていうのが重要だったと思います。

次ページは、ceroと共鳴するカルチャーについて。

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