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ceroとその周辺。『Obscure Ride』と共鳴するもの。聞き手:九龍ジョー

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映画、アニメ、小説…ceroと共鳴するものたち。

ーいまのceroって、そういう親密さのサジ加減が面白くて、例えば『Obscure Ride』は「Roji」(髙城の実家のバー)って曲名にもなってますけど、聴いた人が行こうと思えば行ける場所じゃないですか。

髙城:そうですね、入れ子構造というか。でもサザンだって、曲に湘南の地名を盛り込んだりして、そこが名所になったりしますよね?

ーでもサザンにかぎらず「湘南」という地名の持つポピュラリティと、「Roji」という固有名詞のピンポイントさは別次元のものだと思いますよ(笑)。

髙城:まあ、しかも曲のトーンがけっこう暗いですからね、「Roji」は(笑)。ああいう現実の場所を使ったフィクションって、妙なひずみが生まれるというか。それが面白いなと思ったし、タイトルをつけるときに、「“Roji”としか言いようがないなぁ〜」と思って。

ーそういう現実とフィクションの関係というか、現実がフィクションを追い抜いてしまったり、逆にフィクションに現実が脅かされたりっていう緊張関係が、いまいろんなジャンルでも見られると思うんですけど、意識したりしますか。

荒内:映画『バードマン』(『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』)をアルバムができてから観たんですけど、ちょっと通じるところを感じました。劇中の音楽、九割近くがドラムのみなんですよ。で、これはあくまでぼくの見立てなんですけど、このリズムが支配してるときっていうのは、マジックがあまり起こらないリアリティの状態なんです。で、主人公は俳優で、たまにレイモンド・カーヴァーの戯曲を使った劇中劇が入るんですけど、そこではちょっと和音とかが流れたりする。つまりリアリティから少し遊離するんです。ぼくの勝手な解釈ですけど、『Obscure Ride』でリズムを強固にしていったっていうのも、いままで作ってきたフィクショナルな世界じゃなくて、リズムを使ってフィクションを現実に引き寄せることで、最終的には現実を二重化させてしまおうっていうところがあって、構造が似ているのかなって。

ーなるほど。橋本くんも、そういう作品があったりします?

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橋本:僕は人から薦められたものを見ることが多いんですけど、最近、自発的に見て「これは!」と思ったのが、『21エモン』(藤子・F・不二雄によるSF漫画、アニメ)。

髙城:自発的に見てみようと思ったんだ(笑)。

橋本:谷村有美のオープニング・テーマが昔から好きで、でもちゃんと観たことないなと思って。

髙城:たしか未来で旅館をやってるんだよね。

橋本:そうそう、宇宙人とかも泊まりにくるの。登場するキャラクターたちのコンプレックスがけっこう根深いんですよ。21エモン自身も親と仲が悪いし。で、いまの話につなげると、脳をクラウド化することでどこへでも行けるようになって、身体とかもういいやって、みんなが身体をベルトコンベアに載せて巨大なゴミ箱みたいなところに捨てちゃう、みたいな回があるんです。でも、けっきょくそれは危ないことだって21エモンがみんなに言うんだけど、あまり聴く耳を持たれない。気づいたときにはもうやばいぞっていう。

髙城:超先見の明だ(笑)。さすがだね、F先生。身体を捨てちゃおうってやばいでしょ? 『Obscure Ride』でも、ビートが最後まで途切れずにつづくっていうのが意外とミソっていうか。「身体なんて捨て去ってさ」(「FALLIN'」)っていう誘惑があるなかで、そこに抗い続けて朝を迎えるっていう。「Narcolepsy Driver」あたりで途切れそうになるんだけど、でもぎりぎり人間の繰り出すビートが続いている。さっきの『バードマン』じゃないけど、ビートが続いてることが重要なんですよ。

ーアルバムのプレス資料で髙城くんがテッド・チャンの短篇小説『バビロンの塔』から「生まれてはじめて、夜の正体を知ったのだ。夜とは、大地そのものが空に投げかける影であることを」という一節を引いてますよね。ぼくもあの小説を収録している『あなたの人生の物語』(早川書房)が昔から好きなんですけど、デッド・チャンなんかも、設定はハードSFだけど、人間の愛おしさとかどうしょうもなさとか、そういう現実から微分されうる誰もが持ってる感情とかを書いてるので、すごく現実的な手触りがある。

髙城:そう、オレらも、別に逃げ込みたくなるようなファンタジーを作ってるわけじゃないんですよね。単純に、この世界と同じくらい温かくも冷たくもあるフラットな世界がもう一個あるっていう、ホントそれだけ。で、その二つが干渉しあっていたり、ときにはどちらかに流れ込んでしまうこともある感じなんです。

次ページは、知ることで生まれる「Obscure Ride」の面白さについて。

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