ESSAY
2016年サマー、アグネスラムを知らない世代が着こなすヒップなレインスプーナー。

 いまや「アメカジ」は「ラーメン」や「オタク」と同じぐらい世界でも通用する日本語になりつつある。東京に訪れるインバウンドアメカジ好き外国人たちは、大手のセレクトショップだけでは物足りずにネットで事前に場所やセレクト具合を調べて、渋谷のキャットストリートにある「トラベルズ」など、ツウ好みのアメカジショップでメイドインUSAをお買い物して帰るらしい。

 でも『Made in U.S.A catalog』で育ったワレワレに言わせたら、インバウンドアメカジ好き外国人の着こなしはまだまだである。こちとらアータ、昭和の昔っから、えんえんとアメカジ学習してきてるんだかんね。

 しかし、そんなワレワレにも唯一苦手のアメカジアイテムがあった。ハワイアンシャツである。特にテロテロしたレーヨン素材のやつね。あれはジョニー大倉にしか似合わない。ロケンローラーになっちゃう。でも着たい。だってハワイはアメリカだもん。でも似合わない。

 そんなワレワレのハワイアンシャツ問題をイッキに解決してくれたのが、1979~’80年の第一次プレッピーブームに日本にやってきた〈レインスプーナー〉である。

 〈レインスプーナー〉は、これまでアメカジ好きが苦手だったレーヨン素材のテロテロハワイアンシャツと違って、コットンにポリ混のすぐに乾くドライな素材に、派手なハワイアン柄のプリント生地をあえて裏返しに使った「スプーナークロス」というシックなデザイン。そしてなによりもワレワレが食いついたところが、衿がボタンダウンでプルオーバーというところである。おー、これってプレッピーじゃん。これなら安心して着こなせる。

 ちなみに’80年代のプレッピーは、プルーのラハイナセイラー柄の〈レインスプーナー〉に、ファーラーのグレイのフレアパンツにトップサイダーを履いて、ボートハウスの正ちゃん帽というのが鉄板のコーディネートね。

 これがサーファーになると微妙にまた違って、ピンクのラハイナセイラー柄の〈レインスプーナー〉に、パンツはリーバイスの646のサックスブルーのコーデュロイパンツで靴はクラークスのワラビー。で、ヘアスタイルはジェリーロペスカットというのがお約束である。

 当時、バカ大学生だったいであつしはどっちの “スプーナー” だったかというと、サーファースプーナーになりたかったんだけど耳に水が入っちゃうとすぐ外耳炎になっちゃうもんで、やむなくプレッピースプーナーであった。バカヤロコノヤロ、昔も今もサーファーはモテっから。

 そんなわけでオレが選んだ〈レインスプーナー〉は、まだ銀座にオープンしたばかりのシップスで買ったマドラスチェックのやつ。もちろんポリ混だから色落ちしない。しかしその色落ちしないマドラスが逆になんか気になって、バイト先のディーンフジオカ似の青学生の先輩にあげちゃったんだよなぁ。ああ、いま思えば青学のディーンフジオカなんかにあげなきゃよかった。マドラスチェックの〈レインスプーナー〉なんてアータ、あれ以来見たことない。しもたぁー、モッタイナイことしたぁー。

 見たことない〈レインスプーナー〉といえば、昔、『Begin』で渋谷にあったラブラドールリトリーバーで1日店員をやったときに初めて見たのが、ノーブラのタグのスプーナーである。今回見せてもらった資料によると、あのタグは「ヌードタグ」といって’70年代に流通していたらしくて、当時のデパートの担当者からクレームがきてブラをつけてるバージョンに変更になったらしい。

 ナルヘソー。そうだったんだ。なにしろ昭和のアメカジはああいう手の込んでるタグに弱いですからねぇー。しかも〈レインスプーナー〉のタグは、アグネスラムみたいな巨乳のフラガールときたもんだ。当時のアメカジ日本人たちは、あのフラガールのビキニの下をどんだけ見てみたかっことか。ようやくその夢が叶ったのが渋谷のラブラドールリトリーバーなのであった。なんだそれ。

 あれから二十数年たった2016年のサマー。アグネスラムを知らない日本のヒップな若者たちがどんなふうに〈レインスプーナー〉を着こなすのか楽しみである。きっとインバウンドアメカジ外国人には思いもつかないハワイアンな今どきアメカジをやっちゃうんだろなぁ。



いであつし(コラムニスト)
ATSUSHI IDE

1961年静岡生まれ。中学2年生のとき、本屋で『Made in U.S.A catalog』を立ち読みしてアメカジに開眼。雑誌『POPEYE』にエディターとして参加し、現在はコラムニストとして『Begin』を始め、メンズファッション誌やTV誌で執筆している。

CLASSIC LINE

「クラシックライン」は、伝統的なデザインを踏襲したオーセンティックなものを展開。ハワイ製のシャツの他、ライセンス商品もラインナップしている。主要なセレクトショップや百貨店などで販売。各15,800+TAX

MODERN LINE

「モダンライン」は、若者たちを意識したコンテンポラリーなデザインのものがそろう。シャツは、「スプーナークロス」を使ったものを始め、コットン素材のものもある。カジュアルショップなどを中心に展開。シャツの他、バッグやキャップなどもラインナップ。左 ¥16,800+TAX、中と右 ¥15,800+TAX

ORIGINAL PRINT PATTERN

創業から作り続けている〈レインスプーナー〉の柄は2,000種類にも及ぶ。その中からほんの一部の代表的なものを紹介する。

左 Looking Glass
右 Nahele

左 Seaside Palms
右 Diamond Head Floral

左 Chambray Palms
右 Pineapple

左 Kealia
右 Palani Kapa

左 Missionary
右 Raiatea Bound

左 Bubble Biscus
右 Cariba

左 Uluwehi
右 Daisy Patch

左 Aloha Biscus
右 Kalalea

左 Summer Commemorative
右 Country Hibiscus

伊藤忠ファッションシステム
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