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小西康陽×坂本慎太郎 対談"音楽のはなし"--前編

2013.01.09

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やっぱり坂本さんの音楽って言葉がまず入ってきちゃうんですよ。(小西)

ーところで、坂本さんは先日小西さんがプロデュースされた八代亜紀さんのジャズアルバム『夜のアルバム』をよく聴かれているそうですね。

坂本:あのアルバムは発売された後にすぐ新宿のディスク・ユニオンで買って、その足で行きつけの焼き鳥屋に行ってそこで掛けてもらったんですよ。赤提灯のカウンターだけの店なんですけど、聴きながら焼酎飲んでたらすごい合いましたけどね。

小西:すいません、最高のお言葉を。

坂本:(八代さんの声は)やっぱり焼き鳥に合うんだなあ、と。こぶしの入った「オーヴァー・ザ・レインボー」がすごく良いっすよ。

小西:八代さんは生の声聴くと最高ですよ。

坂本:でしょうねえ。

小西:僕も、坂本さんの新しいシングル『まともがわからない』をいただいて聴かせてもらったんですけど、素晴らしかったです。

坂本:ありがとうございます。

小西:特にインストゥルメンタルの劇伴。あれはちょっと、やられました。僕も劇伴の仕事が多いんですけど、「ああ、こういう風に作れば良かったんだ」って思ってしまうくらい、見事に坂本さんの音楽なんですよね。

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坂本慎太郎『まともがわからない』

坂本:本当ですか? 分かんないですよ、自分では。良いのか悪いのかさえ分からない。ドラマのサントラなんてやったことなくて。ドラマだから物語に合うように、自分がどうこうするっていうのはほぼなくて、手探りでやってたんですけど、それはそれで作業としては面白かった。

小西:正直僕がそうなので、もしかすると坂本さんもそうなのかもしれませんが、こういう劇伴とかってふと誰のために作ってるのか分からなくなる瞬間がありますよね。

坂本:ああ、でも、今回のケースは稀だって言われたんですけど、割と早い段階で映像が上がってたので目的がハッキリしてたんですよ。だから、この映像にどういう音を付ければもっと面白くなるかなっていう感じでやったんで、そういう迷いはなかったかもしれません。

小西:それは珍しいですね。僕なんかテレビの音楽の仕事をやる時って、脚本とキャスティングだけ見せられて、遂には1回も映像は観ないまま作り終えますからね。

坂本:ああ、でもそういうのが多いらしいですね。

小西:もう少し聞きたいのですが、僕の個人的な主観で聴いた印象を言うんですけど、やっぱり坂本さんの音楽って言葉がまず入ってきちゃうんですよね。これは僕もそうで、歌詞がない音楽とか、アレンジだけの音楽とか、そういうのを仕事でやる機会はあるんですけど、でもやっぱり、結局は言葉が自分の音楽の中心だなあって思ってしまう。坂本さんの音楽にもそれをすごく感じるんですよ。日本のロックとかポップスの音楽をやってる人で、そう感じる人はすごく少ない。たとえば、ブルーハーツには感じる。でも、他のたいていの人には感じない。きっと、詩は後から付けてるんだろうなあとか、そんなことを考えてしまう。坂本さんはどちらですか?

坂本:僕は後で、詩からってことはないんですよ。小西さんは同時にできるって仰ってましたよね。

小西:そうなんです。同時っていうか、おそらく本当にまず言葉があるんだと思うんですよね。最初にスタジオに入る時に歌詞はすでにあるんですか?

坂本:ないです。最後まで歌詞もタイトルもなかったりして。歌詞に関しては、特に自分の曲だとすごい時間がかかるんですよね。なんですけど、去年初めて人の曲の作詞を頼まれてやってみたら、(人の曲だと)すごく簡単にできるっていうことに気がついたんですよ。

小西:本当ですか? 僕はその逆で、やたら人の曲に詩を付ける仕事をやっていた時期があって、苦手でしたね。すごく苦労しちゃう。

坂本:なんか、すぐできるイメージが勝手にあるんですけど。

小西:自分の曲は詩で苦労したことはないんですけど、人の曲はダメですね。リズム感が慣れないというか。一番苦労したのは田島貴男さんの曲に歌詞を付けるという作業で、たぶん2日くらいかかりました。

坂本:自分が唄うとなるとまた違うんじゃないですか?

小西:僕、自分が唄うということに関しては15歳くらいからずっと考えてるんですけど、絶対にダメ。昨日も考えてました。ある本を読んでいたら、"喋るように唄うスタイルを身につけた人"っていう言葉が出てきたんですよ。それはホテルのラウンジでジャズを唄ってる人の話だったんですけど、その人は若い時に喋るように唄うスタイルを身につけて、「ああ、僕にそれができたらいいなあ」と思ってベッドの中でちょっとやってみたんです。でもやっぱりダメでした。坂本さんは自分の声は好きですか?

坂本:えっと、好きではないですけど。はい、好きではないですね。

小西:でも、すごく特徴的というか、常に音楽の中心になってますよね。

坂本:親父に「お前普段何言ってるか分かんないけど、CD聴くと分かるな」って随分前に言われたことならありますよ。

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ー坂本さんの日本語感覚のルーツって何なのでしょうか?

坂本:そうですね、えーっと、色々考えてはいるんですけど、でもやっぱり、基本的には子どもの頃に聴いていた歌謡曲の影響が大きくて、ロックの歌詞うんぬんというよりは、作詞家の人が日本語で普通に作った詩をシンガーが唄ってるとか、そういうのをずっと昔からやりたいのかもしれませんね。

小西:以前から時々、女性のヴォーカルをフィーチャーした曲があるじゃないですか? ああいうのは、そういう影響から来るものなんでしょうか?

坂本:まさにそういうのをやりたいんですよ。なんというか、職業作家みたいなことはできないんですけど、良い曲だけ作って、もっと自分よりも歌が上手かったり、良い声の女性シンガーに唄ってもらって、それをただ聴きたいっていう。多分、自分で唄っても、人が唄っても同じくらいの満足感が得られるような気はしてるんですけど。

ー例えば、そういった場合の坂本さんにとっての理想のヴォーカリスト像ってどんな方でしょうか?

坂本:ヴォーカリスト像ですか? いっぱいいると思うんですけどねぇ。女性シンガーだったら、普通に真っ直ぐ唄う感じで歌が上手い人がいいんです。R&Bみたいな歌い上げ系じゃなくて、かといって、素人っぽい感じでもなく、癖のない感じで。誰かいませんか?

小西:そうですねえ。ちょっと昔の方なんですけど、小川知子さんという歌手をご存知ですか? ある時、彼女のレコードを聴いていて、本当に歌が上手くてビックリした。作曲家とかアレンジャーによって微妙に唄い方を変えてるんですけど、全部良いんですよ。で、いわゆるR&B系でもないし、歌謡曲としか言いようのない唄い方なんですけど、もうとにかく上手さを感じさせないというか。なんか、ああいう歌手の方ってなかなか今いないんですよね。

坂本:聴いてみたいですね。でも、そういうタイプって本当にいないですよね、普段目に入る歌手だと。

小西:少し気になっていたことがあるんですが、ゆらゆら帝国の時ってほとんどの曲がヴォーカルはシングルですよね? でも、こないだのソロ・アルバムはダブルトラッキングじゃないですか? その違いはデカイなって思ったんですよね。

坂本:正直、どっちがいいですかね?

小西:どっちもアリですよ。

坂本:やっぱり音楽作るのって昔からそうなんですけど、自分で聴きたいレコードを作りたい、みたいな気持ちがあって。

小西:僕も同じです。

坂本:そうした時に、自分の声がシングルだとすごく生々しく聞こえてしまう。もうちょっと肉体性がない感じにしたいっていうところで、ダブルにすると薄くなるじゃないですか? それで前回のソロ・アルバムの時はダブルを多用したんですけど、本当はシングルでイイ感じ唄えればそれもいいんですけどね。

小西:だから、ゆらゆら帝国の音楽を聴くと本当にギターと歌が一体になっていて、強烈に肉体を感じる音楽だったなと思うんですよね。

坂本:そうかもしれませんね。でもだんだんと、もっとうすーいのが聴きたくなってきて。それで、薄くしたくなっちゃったんですよ。

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