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服の求道者たち ~「E」の系譜~ 第三回:The FRANKLIN TAILORED デザイナー 板井秀司

2013.04.22

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洋服に対してここまで意識が高い国って他にないよね(中室)

板井: で、話逸れちゃったけど、札幌店が終わるってなったときに、声をかけてもらって東京に来ることになったんだよね。当時は4人で出てきたのかな。

中室: うんうん。札幌からセンスのいいやつが来るっていう話は聞いててさ。で、すぐにバイヤーになるんだっけ?

板井: いや、最初に渋谷店にいて、次にファイヤー通りにあった「M」に移転になって。

中室: あっ、そうなんだ! あの伝説的な。。「M」は、今あればなーってみんなに言われるよ。

板井: そう。そこで、店付きのバイヤーみたいな感じで始まったんだよね。

中室: なるほどね。ちなみにさっきの色の話なんだけどさ。「金」とか「青」とかって、あくまでも「É」のフレンチ感じゃない。でも、「レクレルール(L'ECLAIREUR)」とか「アナトミカ(ANATOMICA)」とかさ。あのへんって色で言うと、「黒」「グレー」っていう感じでモノトーンだったと思うんだよね。

板井: 確かにね。俺もパリっていうと、「黒」っていうイメージが強いんだよね。

中室: でしょ? で、そのファイヤー通りの「M」は黒を前面に打ち出したお店だったんだけどさ。その辺って、秀ちゃんにも影響を与えたんじゃない?

板井: うーん。たぶん根底にはあるよ。パリってさ、、いやまぁ、フランスに限らずどのヨーロッパもイギリスを見ていたわけなんだけど、イギリス人がフランス語を英語に訳すときって、どこかこう皮肉ってるところが非常に多くて。

中室: というと?

板井: 例えば「フレンチカフ」ってあるじゃない。ダブルカフのシャツのことを言うんだけどさ。昔はハードカラー、カフスが主流で、1920年代を境に今日のソフトカラーに移り変わったとされているんだけど、フランス人がソフトカラーじゃ心許ない的な解釈でカフスを二枚仕立てにしたとされるダブルカフスを、イギリス人が皮肉って「フレンチカフ」って呼ぶようになったみたいな。イギリスが発信していない洋服の型やディテールは、イギリス魂として許せなかったんだろうね。でも、「フレンチカフ」は今日では最もクラシックなディテールを残しているというシャツで正装、礼装、クラス感のある人が着るシャツにもなってるよね。〈シャルベ(Charvet)〉が言うところのフレンチらしいシャツっていうのは、ダブルカフスにショートポイントカラーだと...。その意味がフランス発信のシャツディテールが所以なのかもね。

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中室: そうだね。今でもそうだけど、テーラーとか、そういう伝統的なイギリスの洋服を見てるとさ、こうじゃないといけないっていう部分がたくさんあるじゃない。でも、フランスって"ボヘミアン"っていうぐらいだからさ、色んなものが入ってくるしね。いいところは取り入れるし、その他の部分はすごく自由で柔軟っていうか。だから今、秀ちゃんが言ってたフランスの良さって、そういうところにあるんじゃないかなって思うよ。コモさんも、そんなに意識的じゃないかもしれないけど、そのテイストを表現してたと思うんだよね。で、俺も無意識的にそこに魅了されていったっていう。

板井: 結局「フレンチって何?」っていうのをそこまで懇々と教えられてないし、それぞれの解釈の中で表現していたっていう。でも、それが面白いなって。

中室: スナップとか見てても全然違うもんね。ミラノともロンドンともニューヨークとも。なんかこう、たばこ臭い感じっていうか。ジタンとゴロワーズの匂いがすごい、みたいな。でもどこか洗練されててっていう。

板井: うん、そうだね。

中室: いや逸れるねぇ、話が。でも、バイヤーになってからの秀ちゃんとはそこまでがっつり話をしたことがなかったね。時折、秀ちゃんらしさを感じさせるバイイングもしてたけどさ。

板井: あ、そう? ていうか、仕入れに関しては色々思うところはあったよね。結局さ、これサンローランも言ってるけど、30年代以降"新しい"ものってないわけじゃない。スタイリングの中で提案していく、っていうことであればあるかもしれないけどさ。俺もファッションに携わって15年になるけど、ものとして"新しい"ってなると、正直見たことないし。そんななかで、直属の上司だった人にはバイイングってのは「0か100か」だと。売れても売れなくても、提案することができればいい、っていうバイヤーとしての美学を教えられてさ。当時の「É」はある種混沌としてたから、やっぱりダイレクトに好きなものだけを仕入れることはできなかったし。

中室: うーん、そうだね。

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板井: 当時の上司には「お前には似合うけど、万人には受けないよ」みたいな話もよくされたんだけどさ。もちろんそれはわかってますと。何も1000枚、2000枚やりたいわけじゃないんだと。でも、来てくださるお客様に対して、選択の幅を持たせてあげたいっていう気持ちがあったんだよね。だから、メジャーなナショナルブランドがどうっていう話ではないんだけど、俺の中でセレクトショップでのファッションっていうのは、常に新しいものをやるべきだっていう思いがあってさ。かっこつける部分と実を取る部分はまったく違うことで、脳も真逆なことを考えないといけないし。

中室: うんうん。

板井: バイヤーをやらせてもらって良かったなって思うことが二つあって。もちろん世界の色々な洋服に触れられたこともそうだけど、世界ってさ、いわゆる"ファッション"に対して興味がある人の割合ってすごく少ないじゃない。中心地以外はすごくカオスっていうか。そういうのを見れたのがすごく良かったと思うんだよね。自分で洋服をやろうって思うようになったきっかけって、それが一つと、あと一つは海外で「あっ、これいいな!」って思うものはだいたい日本製だったんだよね。

中室: わかるよ。ファッション業界以外の人がここまで洋服に対して意識が高い国って他にないよね。

板井: ない。それはもうホントにない。

中室: だってさ、ちょっと地方の田舎の方でも気にしてるじゃない。アメリカのカントリーサイドの人なんて、肉食うことしか考えてないかもしれないよ 笑。木こりの人とかさ。でも、彼らのファッションってすごくリアルなんだよね。それを俺らがアメリカンカジュアルのファッションとして昇華するっていう。だいたいどの国も内陸はどこかちょっと洗練されてなくて、沿岸側はその逆っていうパターンが多い。でも日本は狭いし、内陸と沿岸の差がそんなにないんだよね。情報の伝達スピードも速いと思うしさ。ファッションに関しても全国的に水準が高いよね。

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板井: ほんとそう。日本人って洋服に関しては、1を10にも100にもするのがうまいし、どこの国の良さも取り入れるしね。海外でテーラードのことをやってる人は、それしか知らないし。そう考えると、自分がもの作りをするときってかなり無茶なことを言ってると思うんだよね。

中室: 例えば?

板井: シャツにしてももっと運針数を細かくしてくださいとか、手付けでしてくださいとか、もっとキレイに縫製してくださいとかとか。。ウチのシャツって、9割の工場に断られるところまで突き詰めたクオリティなんだよね。

中室: うん、そうだろうなとは思うよ 笑。細かいことまではわかんないけど。

板井: そう。だから、すべてが"ライン"の中でものができていって、パーツパーツで人が分かれてるっていうのが当たり前の中で、ウチのチノパンに関しては一人の縫子さんがカッティングから縫製から全部やるし、さらにカジュアルパンツではあんまりやらない"中アイロン"までを入れるっていう、いわゆるテーラードの考え方でできてるんだよね。でね、話飛ぶけど、洋服って時代背景とすごく関係してるじゃない?

中室: うん、そうだね。

板井: こないだ「kink」さんで接客させてもらってるときに、「今っぽいって何ですか?」みたいな話になってさ。で、それは"細い"ってことだと。じゃぁ、なんで"細い"のが今っぽいかというと、市場にそういうものしかないからじゃないかと。でも、洋服というものを知れば知るほど、それこそ用尺っていう部分で考えていくと、"ムード"がなくなっていってしまうんだよね、細い洋服っていうのはさ。

中室: うんうん。でも、こういうシルエットのことって洋服をとにかくたくさん着たり、すごくきちんと考えないと気づかないところだよね。細いのがシュッとしてて、かっこいい、あとモテるみたいなことで捉えられがちだけど、ジャケットの肩の後ろのあたりとか、パンツとかには本来"ゆとり"がなきゃいけないんだよね。ドレープもなにもないスーツとかって、一見キレイなんだけど、なんか味気ないっていうかさ。。

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