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服の求道者たち ~「E」の系譜~ 第三回:The FRANKLIN TAILORED デザイナー 板井秀司

2013.04.22

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一番難しい"ベーシック"をやらないと嘘だなって思った(板井)

板井: ウチの洋服はドカジュアルなんだけど、テーラードがルーツになってるし、洋服作りで一番モットーとしてるのは、"温故知新"ってことなんだよね。まず古いものを知って、その反動で生まれてくるものを大事にしているっていうか。だから、アルマーニさんとかすごいよね。彼は医学部出身で、元々バイヤーを経てデザイナーになってる人なんだけど、彼が生み出したいわゆるソフトスーツっていうのは本当にすごいと思う。

中室: うんうん。

板井: 王道とかルーツは変えずに、今の時代とか着こなしに合ったものとは何だ? それは柔らかいものだと。で、彼はどうしたかっていうと、中身を変えたわけじゃない。だから、毛芯を据えないとか、アンコンのスーツとか、80年代に彼が作ったことは革新的だったよね。イギリス人からすると、もう意味わかんないっていう感じだったと思うけど、今はもう受け入れられているわけで。そういう色々なものを取り入れるイタリア人の物作りは素晴らしいよね。

中室: うん。イタリア人はすごいよ。彼らは本当に感覚的な人種だし。色彩感覚とかは独特だもんね。。うーん。いやー、でもそろそろ〈フランクリンテーラード〉の話も聞かなきゃね。

板井: そうだね 笑。

中室: そもそもね。俺、秀ちゃんがブランド始めるって聞いて、そんなには驚かなかったのね。別に企画の人しか服を作っちゃいけないってわけじゃないし、洋服が作りたくて周りの環境とかが整うんだったらやった方がいいって思ってるんだけどさ。でも、たぶんこういうのだろうなっていうイメージはあったのよ。いつもの秀ちゃんの着てる服とかを想像すると、わりと主張が強いものが多かったからさ。柄とか色とか。だからその線のものを作るんだろうなって思ってたら、思いのほかベーシックでクラシックだったから、びっくりしたんだよね。えっ!こっち!?っていう。

板井: ふふ。びっくりしたでしょ 笑。

中室: 秀ちゃんの友達の展示会に来ちゃったのかな?って思ったもん。俺、DMの説明文ちゃんと読んでなかったかな?って 笑。そもそもこういうのをやりたいっていう気持ちはあったの?

板井: うーん、あのね。やっぱりオレの根底にある好きなスタイリングはトラッドなのよ。結局、柄とか色とか、形とかって小手先でいくらでも変えられるからさ。そこじゃなくて、もっと本質的な部分って何だろう?って考えたときに、一番難しいベーシックをやらないと嘘だなって思ったの。一番最初にやったのが、パンツ、ジャケット、ニット、ベスト、シャツみたいな感じだったんだけどさ。それで、2年前にスタートして。

中室: 2年前か。。もっと前のような気がしちゃうね。

板井: いやぁ、まだまだ。このお店ができて1年半ぐらいだもん。今でも売れてるものはそのときに作ったベーシックな3型だよね。

中室: なるほどね。。

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板井: 俺の中でのこだわりはもうホントにたくさんあるんだけど、まず"粋"っていう文化があるじゃない。和装にある"粋"みたいな部分。その考え方を洋服に落とし込むことを念頭に物作りを考えていこうと。日本人が提案する洋服をね。例えば5ポケットパンツのスレーキ部分をシルク100%にしたのね。色々考えはあるけれど、シルクってどこか特別だし、シルクが持ってる上品な光沢質感はやっぱり素晴らしいよね。和装にも用いられていることを考えれば日本人にとって特別な物だと思うのね。主観だけど、和装着物は日本人らしさを表現した最高傑作だと思ってて。例えば反を形にして、縫製を戻すとまた反に戻るっていうさ。

中室: はいはい。

板井: 日本人の"もったいない文化"、そういう国民性は我々のDNAに根付いていると思う。やっぱり和装って奥が深いなって思うよね。で、そのへんをどんどん掘り下げていくとなんか自分と通づる部分があるんだよね。いまどの国も自国でものづくりができなくなってきてるじゃない。どうしても生産を第三国にしたりっていう現状があるなか、俺はそれじゃ納得できないんだよね。だから、まずは変わらない、不変的なものを洋服で日本人が再構築できたらいいなって思ったんだよね。

中室: 最初見た時、みんなどんな反応だったの?

板井: びっくりしてたよ、色々な意味で。それまでの板井のイメージがあったと思うので、「ここいったんですか!」的なご意見は本当に沢山頂きました。やっぱりみんながこれまで目にしてきた、普遍的でベーシックなものを再構築したものってわかりづらいし、ものを作る側の人間でないと批評をすることってなかなか難しいと思うしね。ただ、その"もの"の存在感は感覚的に皆さんに伝わったと思うよ。とにかくこの"もの"を作り上げている人達がすごいからね! 縫製工場さん、パターンナーさん、付属屋さん、全部「É」をやめてから一から探したところなんだけどさ。現地に行って、ものを見せてくださいってお願いをして、そのクオリティを見せてもらってから、実はこういうものを作りたいんですけど...っていうやりかただよね。

中室: どんな人たちなの、その工場とかにいる人たちは?

板井: もう職人さんよ。「なんかよくわかんないけど、変なやつ来たな」みたいなさ。みんなでも、けっこう若いかな。

中室: えっ!若いの?

板井: まぁ若いって言っても50代とかだけどね。

中室: あぁ...、やっぱそうか。

板井: そうそう。それぐらいの歳はものづくりの世界においては若いってされるんだよね。で、「それ、売れんの?」とか言われて。

中室: なんて答えたの?

板井: 「売れると思います」って答えるよ。「僕はデザインをしたことがないけれど、ただ、世界の色んな服を見てきました。そんな中、今一番見ないといけないのは自国の文化なんじゃないでしょうか」ってさ。結局のところ"洋"服っていう形でやってる以上、英、仏、米で認められるジャパンメイドの洋服を作らないといけないと思うんだよね。もちろんまだまだなんだけど、できるだけ納得のいくものづくりをしていこうって。しかも、今はそういうことができてるかもしれないけど、10年後はできないかもしれないし。本当に職人がいないし、どの産業も空洞化だよ。そんな中、ウチの洋服は本当に時間もかかるし、その分工賃も高いっていうのは、すごく当たり前のことだからさ。でも、それが売れていくっていうのは、正直ハテナだったよね 笑。

中室: 自分で作っておいて 笑。

板井: だってさ。。この日本で、手付けのオックスフォードのシャツを作りました。語るところはたくさんあります。でも、日本製のシャツで3万6千円って他にないだろうと。デザインされているシャツだったらあるかもしれないけど、ベーシックなもので、この値段っていうのは他に無いんだよね。

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中室: 最初どれくらい売れたの?完売?

板井: 完売だよ、最初は。1反使ったから、40枚くらいかな。

中室: 卸も合わせて?

板井: 卸もなくはないけど、基本はこのお店だよね。ファーストシーズンからここでやってるから。

中室: すごいね。。

板井: すごいでしょ?

中室: だから、作っといて「すごいでしょ?」はないけどね 笑。

板井: 今、シャツは2万円台のものと2型あるんだけど、お客様とじっくり話すと、みなさん3万円台の方を購入されるわけさ。そうなると洋服のお話を沢山することになるんだけど、だいたい最低3~4時間は話を聞いてくれるよね。

中室: あー、もうホントにテーラーみたいだね。。

板井: いやいや、テーラーとはおこがましくて言えないんだけどさ。

中室: 言っちゃってんじゃん。〈フランクリン テーラード〉って 笑。

板井: いや、それはフランクリンさんが作るテーラードっていう意味なんだよね。

中室: あ、それも聞きたかったんだよね。ブランド名の由来。

板井: それはねぇ。。じゃぁまずテーラードの方から。洋服っていうと定義が広くなりすぎてしまうんだけど、自分のこだわりとして、「洋服とは"テーラーリング技術(ルーツ)"を理解し、咀嚼したカジュアルウェアである」っていうのがあって、そういうものを作りたいということから来てるのね。

中室: うんうん。

板井: で、フランクリンっていうのはさ、元々俺が古着で持ってるツナギで、アメリカの30年代の〈フランクリンガーモント〉っていうブランドがありまして。「ガルモン」って、モルモン教徒の洋服っていう意味なんだけどさ。

中室: ガーメントの語源、由来みたいなものかな?

板井: だと思う。で、元々の(?)フランクリンさんが作ってた〈フランクリンガーモント〉っていうのが、当時のワークウェアにしてはすごくセンスが良くてさ。さっき言ったツナギっていうのはここのキッズなんだけどね。で、当時フランクリンさんがやっていた洋服屋を俺が継承するっていう形にしようと。フランクリンさんが「おっ、お前やってみっか?」って言ってくれたとしたら、日本でこんなことをやるっていうさ。

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中室: オフィシャルではないよね 笑。

板井: はい。オフィシャルではないです 笑。アンオフィシャル。ま、解釈だからさ。

中室: フランクリンって日本でいうと、山田みたいな超メジャーな性だよね。そこが良いなって思ったんだけど。

板井: そこね! 俺は洋服に対して新しい価値観を皆様へ提案したいし、普遍的なものを最高のジャパンクオリティで提案したい。と当時に、「なんとなくいつもここの服着ちゃうんだよね」というような洋服を作っていけたらと思ってるから、洋服屋さんに向けてじゃなくて、洋服を生業にしていない世界の人達に提案したいと思ってるわけ。

中室: なるほどね。

板井: そう。世界に数パーセントしかいないファッショニスタに向けた、デザイン性の高い洋服作りはしたくなかったの。っていうと語弊があるけどね。ファッショニスタとは逆サイドの人達に、自分が考える安心感のある物作りを提案できれば良いなと。...安心感のある洋服っていうか、心地の良いカジュアルウェアっていうのをお客様に提案していきたいんだよね。

中室: うんうん。いや、いい名前だね。。

板井: いい名前でしょ? 自分で言うのもなんだけど。

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