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服の求道者たち ~「E」の系譜~ 第三回:The FRANKLIN TAILORED デザイナー 板井秀司

2013.04.22

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デザイナーなんて、おこがましいですよ(板井)

中室: それにしても、お店に三時間とかいてさ、お客さんと話しをして、きちんとこっちの思いも聞いてもらって、それで買い物をしてもらうのって、今もうなかなかないから、貴重だよね。こないだ『BRUTUS(注:751号「Life,Style」)』で、対談みたいなことをしたんだけどさ。そこで対談したスタイリストの(高橋)ラムダさん、バイヤーの田村(貴之)さん、信國(太志)さん、みんなどういうお店で買い物してたかっていうと、ここみたいなお店なんだよね。あそこの人と仲良くなりたいとか、あの人に認められたいとか、それでお店に飛び込んでいってさ。いい具合に洗脳されていくんだよね。洋服にもやっぱり買い方ってあるからさ。だから、ここみたいなお店で買い物をしてくれる人がいるっていうのは、うれしいよね。

板井: うん、すごくうれしい。この狭い店内でさ、接客順番待ちみたいなことになるんだよ。

中室: えー、俺手伝いに行きたいなぁ。

板井: ホントにお願いしたいよー。でもさぁ、「ニットが欲しいんですけど、これってどういうものなんですか?」って聞いてきてくれてさ。で、糸の話からこれはね...、ってやってるとどんどんお客さんが来るわけよ。で、帰るのかな?って思ったら、「待たせてもらいます」って言うの。そのとき一人だったから、お茶も出せないしさ。「だいたい一時間くらいで大丈夫になると思うんですけどね」、なんて言ってさ。

中室: いや、そんなお店ないよ!笑 このお店って自然発生的にこのスタイルになったの?

板井: お店の考え方としては、自分のものづくりに賛同してくれている生産者たちに対する俺の誠意なんだよね。結局、卸ベースで始めると、じゃぁ卸つかなかったらどうすんだ?みたいなさ。自分はそこはリスクを背負ってお店をやりますっていう風にしたんだよね。

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中室: そういや、一番初めの頃に言ってたね、そんなこと。それは「É」のショップスタッフだったり、バイヤーのときにはなかった考え方だよね?

板井: もちろんそう。気づかないよ。

中室: 工場の人だったり、職人さんだったりと話すうちにこうしなきゃなってことでしょ。

板井: うん。やっぱりやってもらってる感が強いっていうのがあるからね。

中室: 真面目だねぇ。

板井: 俺の中の、"粋の精神"って言ったらなんだけど、自分なりに考えてこの形に収まったというか 笑。それで将来的に自分の物作りに関わってくれた方々に恩返しできたらなーと。

中室: うーん、いいねぇ。今回、だいぶいい話、出てきてるね。今までの回もホントによかったんだけど、なんかこうフリみたいに効いてくるよね。最後でちゃんとオチてるっていうか。

板井: あ、そう? いや、でも今までのも読ませてもらいましたけど、よかったよね、それぞれ!

中室: 山口淳さんとかもさ、生前すごく褒めてたよ。「〈フランクリンテーラード〉の板井くんって、元々中室さんと同僚なんでしょ?がんばってるよねぇ」って言ってくれたしさ。

板井: あぁ、淳さんとは最後結局会えなかったなぁ。自分がお店にいないときに来てくれたみたいなんだよね。。

中室: 俺も淳さんとの、今までのメールのやりとりとかを思い出してさ。そういえば、ここのシャツのこと話してたなって。「こんな自立するシャツなんて見たことないよ」って。それがすごく印象的だったんだよね。ああいう方にも愛される洋服だよね。

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板井: 淳さんに書いて頂いた文章で「板井くんが作ったシャツを、ブルックスとかトム・ブラウンが見たらどう思うんだろうね?」っていうのがあってさ。なんかすごくありがたかったね。。洋服っていう文化にすごく憧れがあって、ルーツはきちんと大切にしてるんだけど、それを再構築して新しいボタンダウンを作るっていうね。オックスフォードの定義も捉えてます、さらにいいシャツの定義っていうのが7つあるんだけど、それも捉えてますと。でも、縫製だけはヨーロッパの、イタリアのものがいいなっていうことを言っていて。機械的に合理性だけを追い求めると、やっぱり機能性を損なってしまうっていう。でも、アメリカの一番いいところっていうのは、何度も言うんだけど、アバウトな部分。それはやっぱりかっこいいなって思うんだよね。だから、そのどっちだよ!?っていうのが俺の服であって、それが実はすごくかっこよかったりするんだよね。

中室: うーん。これは本人にも話したけど、コモさんの洋服もそれにちょっと近いような気がするんだよね。コモさんってフレンチワークみたいなところの人だけど、ワークウェアとかミリタリーウェアって大量生産のものだから、そういうものっていい意味でのラフさがあるじゃない。平面的なパターンにある良さっていうかさ。そういう雰囲気のものを"ちゃんと"作ることでのアンバランスさっていうね。コモさんの服って、どこかこうふんわりしてて。全部が全部立体的じゃないんだけど、素材にはすごくいいものを使ってるみたいなさ。きちんとその服に見合う縫製を考えてたりとかさ。

板井: なるほどね。

中室: 今はそうやって見れるけど、当時は感覚的にしかわからなかったからさ。このへんの感覚をもっと多くの人に気づいて欲しいなって思うなあ。

板井: そうだね。さっきも言ったけど、日本でのものづくりって絶対的に先細りだからさ。で、俺はそこに気づいちゃったから、何ぁをしないといけないんだろうって。だから、お店をやってがんばるっていうのは、周りから見たら無謀だなって見えるよね。ブランド始めます、お店やります、で、どういう人が作ってるんですか?って言ったら、企画もパターンもやったことないです、ってなったら、もう何なの!? みたいなさ。

中室: うんうん。

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板井: でも、今までに企画だとかそういうことをやってこなかったから、自分の感覚的な部分でものづくりができてるって思うんだよね。さっきも言ったアルマーニさんの話を知ったときに、自分にすごく近いなと思ったんだよね。テーラーにも職人にも、崩せない、譲れない部分っていうのが、もちろんあるんだけど、でも「いや、ここはこうしたいんです」っていう素人的な発想から、新しいものが生まれるっていうかさ。概念としてはそれまでにないものだから、大丈夫か?ってなるんだけど、俺の中では見えたものだからさ。もしこれを縫ってもらえたら、すごくいいものになるなっていうね。だから、俺はデザイナーっていうことではないんだよね。日本人が作る洋服で、いいものを作ってますっていう共同作業の先頭に立って旗を振ってるだけっていうさ。デザイナーなんて、おこがましいですよ。

中室: じゃぁなんて言う? 肩書き何にするよ? 肩書きフランクリンさんにする? あ、店主?

板井: 店主...。 うん、それだ! 店主は粋だね。

中室: じゃぁ、デザイナーはこのブランドにはいないんだね。でも、"呉服屋の主人"は、別にデザイナーではないもんね。

板井: うん、ほんとそう。着物も京都じゃない。天皇陛下が着るものと、庶民が着るものって全然違う人が作ってるしさ。それって、反物を下ろしてもらえるかどうかだけからさ。だから、俺も自分の考え方でこう作りたいってあるんだけど、でもやっぱり考え方としては店主に近い。いや、店主だね。

中室: 今、店主になりました 笑。

板井: ありがとうございます、なんか 笑。

というわけで、三回に渡ってお届けしてきたこの企画。デザイナーさんが普段考えてること、メディアでなかなか話す機会のない志、信念のような部分を、色々と聞き出すことができたのではないでしょうか。文中にも幾度か出てきていましたが、日本のものづくりは今危機的な状況にあります。そんな中フイナムは、盲目的にメイドインジャパンを礼賛するわけではありませんが、真摯に日本でものづくりをしている人たちを、今後もずっと応援していきたいと思います。長いインタビュー、最後まで読んでいただきありがとうございました。
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