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FEATURE|大北幸平がSALT AND PEPPERをオープンした理由。

大北幸平がSALT AND PEPPERをオープンした理由。

Behind the thought of SALT AND PEPPER

大北幸平がSALT AND PEPPERをオープンした理由。

妥協なき服作りと肩肘を張らない雰囲気、確固たるブランドの世界観など、今や押しも押されぬ人気ブランドへと成長した〈ヴァイナル アーカイブ(VAINL ARCHIVE)〉。そのデザイナーである大北幸平さんが、渋谷と恵比寿の中間くらいのエリアに、ショップ兼ギャラリー「SALT AND PEPPER」をオープンしました。とはいえ、ブランドの旗艦店という立ち位置ではなく、あくまでそれとは切り離したものに。インラインのアイテムをメインにはせず、ショップ用のスペシャルアイテムや、世界各国からセレクトしたzineなどを取り揃え、ギャラリーとしては、写真家の小浪次郎さんの写真展”Straight No Chaser”を開催したりと、大北さんが偏愛するものが溢れたお店になっています。では、どのような思いで「SALT AND PEPPER」をオープンさせたのか。大北さん本人が語ります。

  • Photo_Haruki Matsui
  • Text_Maruro Yamashita
  • Edit_Jun Nakada
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主観を入れない店づくり。

ー事務所兼店舗の様なスペースを借りたいという話は、結構前からされていましたよね。構想自体はいつ頃からあったんですか?

大北:実はずーっと言ってたんです。元々、20年くらい前に、当時勤めていた会社でお店をやらせてもらっていたこともあって。その頃にアートや写真を好きになったけど、そういうものってなかなか売れないから、他人の会社でやるのは難しいっていうことが分かって、お店への気持ちも薄れてきたんです。その後〈ヴァイナル アーカイブ〉をスタートさせて、しばらくはアートや写真から離れている時期があったんですけど、2010年か11年にイラストレーターのNoritakeくんと出会って、初めて自分以外にグラフィックをお願いしたんですね。その頃、彼はまだユトレヒトにいて。久々にメジャーな本屋ではなく、ストイックな本が置いてあるお店を見て、また興味がどんどん湧いてきて、そっからずーっとやりたいって言ってたんです。でも、実際にお店をやるってなると、当時はまだブランドを回している段階だったので、なかなか実現出来なくて。その間もちょこちょこ期間店をやったりしながら、いつかいつかが今になった感じです。

ーそういうストーリーがあったんですね。では、店名となった「SALT AND PEPPER」の由来は?

大北:柔術道場で会う方が、僕の頭を見て、白髪混じりが塩コショウっぽいからなのか、Instagramで#SALTANDPEPPERってハッシュタグを付けていて。ちょうどお店の名前を考えていたんですけど、なるべくお店自体を、自分の主観だけを打ち出すのではなく、もう少し俯瞰で見れるようなお店にしたかったんです。自分が好きなことはもちろんやるんですけど、他の人ともセッションしたいっていう気持ちが強くて。だからお店の名前も、あまり自分が普段取り組まないような名前、他人の主観を取り入れたら面白いかなと思って、「SALT AND PEPPER」を使わせてもらいました。

ーお店の名前にすら、大北さんの主観が入っていないんですね。

大北:そうですね。お店のロゴもステファン(ステファン・マルクス)に頼んだけど、それも、こっちを意識しないで、ステファンの感じで良いってお願いしたし。zineのセレクトも他人にお願いしてるんだけど、軽くセレクトの提案をもらった際にその感じが良かったからそれ以上に言う必要ないし、そういう具合が良いなって。着地がなんとなく見えているから、その間を縛ることがお店をつまらなくするんじゃないかと思っていて。責任者は僕だけど、皆の指揮を執るっていうタイプでもないし。今回の小浪次郎くんの写真展(現在開催中)に合わせて、「SALT AND PEPPER」から写真集も出したんですけど、それも皆である程度写真をセレクトして、デザイナーさんに委ねる形にしたんですね。以前に彼の写真集を出したときは、〈ヴァイナル アーカイブ〉から出版したから、写真のセレクトもページ構成もほぼ自分でやったんですけど、そこもやめたくて。でも、オープンするまでに、着地はなんとなくは見えていたから。でも、未だに未知数なところも多いです(笑)。

アンダーグラウンドでもオーバーグラウンドでもない立ち位置。

ー年末に話を伺った際に、インラインを敢えて扱わないとおっしゃっていましたが、とても面白いし、アプローチ的にも正しいんじゃないかなと思いました。ただ服だけを扱うのではなく、様々なことをやれる空間、場として間口が広まっている方が、色々と面白く出来そうだなって。

大北:ね。少しあるんじゃないかな。実際にオープンしてみて、お客さんを見ていると、インライン置いたら売れるんだろうなとも思うんですよ。置かないんですか? って聞かれることもあるし。自分としては、置かないって決めつけている訳ではなくて、このカバンは合いそうだから置こうかなって思うときもあると思うんです。でも、なるべく足を運んで欲しいから、あまりルールを作りたくなくて。全部用意しなくちゃいけないじゃないですか、今って。それが悪いとか良いとか、それすらも分からないけど。でも、こんなお店があっても良いんじゃない? って。僕が単に情報が薄い店が好きだからかもしれないけど(笑) 経営している以上、お金が欲しくない訳でも、変にアンダーグラウンドっぽいことをしたい訳でもなくて。今僕が出来る最大限の広さがこれなだけで、お金あればもっと広いとこでやりたかったし、出来る範囲でしかやっていないって感じです。

ー大北さん的に、現在出来る範囲内でやれることというのが、現在のギャラリー兼ショップだったんですね。ギャラリースペースを持ちたいという願望は、お店をやりたいという気持ちと並行してあったんでしょうか?

大北:両方ありましたね。本当のことを言うと、そこにカフェスペースもみたいな。よくあるけど、あんな感じが良いなって。なるべく自分ぽさを出そうとすると、〈ヴァイナル アーカイブ〉のインラインのみを置くっていうのは想像つかなくて。僕の中では展示会をやっている時の服の見え方が〈ヴァイナル アーカイブ〉のお店なんですよね。なんとなく、それだけだとつまらないなっていうのが、自分の中にあって。

ー大北さんの中で、自分の好きな作家さんを、〈ヴァイナル アーカイブ〉のお客さんにも見てもらいたい、紹介したいと言う気持ちがどこかしらにあったということでしょうか?

大北:ありますね。変に切り分けないで、そこをフラットにしたかったんです。アートを好きだから格好良いってのは無いし、あの人のあの作品を知ってるからどうこうとか、そういうのは苦手で。ただ“いいものはいい“というのと、自分が個展や本屋さんを見て自分で購入したりワクワクした感じを、自分の好きな場所でやってみたかった。あとは自分の中でのモヤモヤがずっとあって、服の人が、今アートが盛り上がっているからアートを無理やりコネクトするっていうのも嫌だし。逆にアートの人たちの中には、消費されることに嫌悪感を抱く人たちもいるけど、自分はそこに対してリスペクトとそんなことねーぞって気持ちで物を作っている。もちろん、それが全てでは無いけど、消費されないと全てが回らないからっていうのを、この「SALT AND PEPPER」という場所で自分自身解消したかったのかも。

ーなるほどですね。

大北:以前は僕も、どうやったら他人と違って見えるのか? ということをよく考えていたんですけど、服もアートも結局は他人に見てもらうものなのかなって思う。だから結局、自分が意識するのは作風というより、その人の好きな世界感のなかで、どれだけ完成度を高めることが出来ているか、だと思うようになりました。人に見せるものとしての完成度って、何と無く人となりが出る気がするんだよね。その完成度を高める場所作りとしては、今はこれがベストな気がしています。これからやっていくにつれて、売上とかの悩みは出てくると思うけど、それをどう耐えてどう面白く出来るかなっていうのが楽しみです。

ー「SALT AND PEPPER」に来るお客さんは、服ももちろん見ていますけど、展示内容やzineもチェックしているお客さんが多いですよね。それって実は、凄いことだなって思います。

大北:お客さんと会えるのは本当に嬉しいことですね。自分が思う、服とアートへの思いがフラットになれて良かった。〈ヴァイナル アーカイブ〉でもテキスタイルはoristaくんで、DMとかでコンセプトメッセージを伝えるところはNoritakeくん、ヴィジュアルとして見えるものや、服に使う写真は小浪次郎くんにお願いしているんだけど、新しい人をどんどんブランドに入れていくと、ブランド自体がぼやけてしまう。不思議だけど、それだけ絵や写真には力があるんだと思う。だから、自分はミーハーだし、気になる作家さんは沢山いるけど、それをブランドで表現するというより場所で表現したいなって。その辺の線引きをちゃんとしたかったっていうのもありますね。

突発的なアイデアを〈ヴァイナルアーカイブ〉名義でつくる。

ー既に「SALT AND PEPPER」限定アイテムがリリースされていますが、ここではどのようなアイテムを展開する予定ですか?

大北:〈ヴァイナル アーカイブ〉のコレクションって、自分の中では本を作るような起承転結があるんです。でも、ここでは、そこから少し外れるけど、やってみたいことを〈ヴァイナル アーカイブ〉のネームで作ってみようと思っています。セットアップのジャケットとか、トレンチコートとか。消費者までのプロセスがあり過ぎて響かないけど、そこを抜きで、本当だったらこれ良いのになっていう見方で置いてみたいっていうか。自分で確かめたいっていうのもある。色々生地を見てると、やってみようかなと思ったりするし。それ以外にも、〈インディヴィジュアライズドシャツ〉や〈スタビライザー ジーンズ〉の別注とか、ああいうのをやりながらかなって考えてます。このお店らしい色ってこういうのかなっていうのは見えているので、その点はディレクション的な強さが出てきていて、面白いっていうか。でも、本当に申し訳ないけど、漠然としてます。本当に何も決まっていないから。決めたくないんだろうね。

ー一般的には、すべて決めてから動き出しますよね(笑)。

大北:けど、面白いことをやるのって、そんなに前から考えられなくないですか? フッと浮かんだり、人に会って出来ることもあると思うんです。zineで知ったアーティストのコラージュで急にTシャツを作って、これ誰? ってなったりとかが良いんですよね。着地点が、自分がまず楽しめて人に見てもらう完成度が感覚的に満足できそうなら、それで良いんです。

ー分かってくれっていうパッケージングをしようとすると、自分の中でもつまらなくなって来ますよね。

大北:そうなんです。誰かに合わせたり、落とす必要も無いですからね。むしろそういうのをやるのってしんどいし(笑)。多分、30代でやってたらまた違ってたと思います。40代で始めたから出来たのかもしれないですね。

お店とブランド、それぞれが向かう先の話。

ーでは、一方、〈ヴァイナル アーカイブ〉のこの先はどのように思い描いていますか?

大北:このお店もそうですけど、ブランドもこうしていかなきゃいけないって決めるのが出来なくて、正直あんまり考えてないんです。もちろん1年後、2年後を見据えてはいるけど、売り上げを作るためだけに何かをしたりっていうのはやるつもりがなくて、綺麗ごとかもしれないけど。どうしても歪みが出るから。このブランドと生きていくと決めているからやっているけど、今後状況が良くなったり悪くなったとしても、ブランドを続ける為に今のペースを崩すことはしたくないですね。もちろん自分の為でもあるけど、高価なものを買ってきてくれたお客さんに後悔させてくないし、今まで一緒にやって頂いた人をがっかりさせたくない。

お店もそうだと思うんです。絶対、良かったらどっかで落ちるし。そのジェットコースターみたいな状態を楽しめるんだったら続けるし、それも多分一人じゃ出来ない。僕は自分自身、服のデザイナーというより、アートディレクターに近いと思っているので。この人にこれをお願いして、この生地屋さんにお願いしてとか、ページ数のことを考えてデザインをまとめるみたいな感じでブランドにしているから。お店って、今回やってみて思ったけど、またちょっと違うんですよね。今は経営者でもあって、ブランドのデザイナーでもあって、お店のディレクションもしたり、今が一番良いバランスな気がしてる。だからインラインをメインで置かないって言ったのかも。今話をしていて思いました(笑)

ー何はともあれ、大北さんが〈ヴァイナル アーカイブ〉と共に歩んできたことの集大成的なものが出来上がりましたね。

大北:そうだね。ホッピー片手に夢を語っていたのが、まずカタチに出来たかなって思います。

SALT AND PEPPER
住所:東京都渋谷区恵比寿西2-5-2 imamura Bldg 2F
定休日:不定休
時間:12:00~18:00
vainlarchive.tumblr.com
写真展「Straight, No chaser Jiro Konami」
会期:~4月13日(金)
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