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ファクトリーを持ち、実店舗を持たないパンツ専門ブランドのチャレンジと未来。

Featuring Make Sense Laboratory

ファクトリーを持ち、実店舗を持たないパンツ専門ブランドのチャレンジと未来。

2018年の2月にスタートしたばかりの〈メイクセンスラボラトリー(Make Sense Laboratory)〉は、ボトムスのみを扱うブランド。春夏、秋冬といった通俗的なシーズンごとのコレクションに縛られることなく、3ヶ月に1度のペースで新作を発表し続けることを目標に掲げています。そして最大の特徴は、実店舗を持たないECサイトのみのショップ展開です。なぜ、メンズファッションにおいて認識と実際のサイズやシルエット感が、もっとも異なりやすいパンツのみをインターネットで販売するのか。その服を着た自分の姿が見えないと、買いの一歩を踏み出しにくいこのカテゴリを試着なしで勝負するには、確固たる理由がありました。今はまだその準備段階に過ぎませんが、ものづくりへのこだわりを追求し、新しい接客の価値観を作り上げたいと願う「トリプルアーチワークス」の代表、鈴木さんのヴィジョンを覗いてみました。

  • Text_Masayuki Ozawa
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経験から実感した、実家のものつくりのレベル。

鈴木さんの考えるものつくりの基盤は、創業92年にもなる実家の工場です。1926年に設立された「第一被服」は、もともと服飾全般の生産を請け負っていましたが、高度成長期を境にパンツ専門としての道を切り開きました。三越や高島屋といった、多くの人がご存知の高級百貨店からジャケットの組下、つまりスラックスの発注が増大したことが理由です。もともと、設備や機械もパンツが最も整っていたこともあり、取引先からの評価を集め、専門性を高めていきました。工場を持つ埼玉県の草加市は、もともと繊維工場が多かったエリアですが、いまでは「第一被服」を含めても、数える程度しかありません。生産背景を労働賃金の低いアジア諸国に移すなどして薄利多売が主流になってしまったこの時代において、人件費のかかるメイド・イン・ジャパンはひと昔と違って、意志のある選択肢になりました。

しかし鈴木さんにとっては、パンツを作り続ける肉親と職人の姿は、幼少期から当たり前のこととして染み付いています。現在、職人の数は6人。皆、「第一被服」が最も栄えていた1970〜80年代から、パンツの縫製に人生を捧げてきた人たちばかりです。1990年代になって、自ら社会に出てアパレルに携わるようになった鈴木青年は、アメカジ文化やインポートの洗礼を受けた世代。ショップスタッフやバイヤーを経験し、海外を飛び回るようになり、改めて日本製の細やかさや丁寧さ、そこに対する深いこだわりを実感したそう。それは、何気なく見続けていた、生活のすぐそばにある「第一被服」の仕事ぶりの素晴らしさに気づいたということです。

「海外製のものは素材こそよかったのですが、縫製技術は日本の方が優れていると、90年代の頃から思っていました。インポートにたくさん触れてきて気づいたことは、その魅力はあくまで舶来ものである、というストーリー。それを海外へ行き来するうちに当たり前のことになると、次に欲しいと思う服が見つからなくなってきたんです。そして育った環境の影響が大きいのですが、ストーリーよりクオリティを重視するようになりました」(鈴木)

クオリティが導く、シーンに追従するパンツ。

〈メイクセンスラボラトリー〉のコンセプトは「SCENE」を切り取ること。それは定番という名品を生み出すことに専念していた〈スタジオ オリベ(STUDIO ORIBE)〉時代からは方向を180度転換し、もう一歩踏み込んだスタンス。鈴木さんは、商品だけでなく、着る人を気遣うことができるパンツが必要だと感じました。「第一被服」がずっとこだわってきたことに「縫いやすさ」があります。

「縫いやすい」パンツとは「穿きやすい」とイコールの関係です。穿きやすいとは身体のラインに沿っていること。点と点をつなぐパンツのパターンに、無理なカーブがあると当然シルエットは不安定になってしまう。そうしたパンツは個性的ではあるものの、縫いにくく、着用者にとって快適ではなくなってしまう。それぞれのシーンに相応しい穿き心地を提供するためには、あらゆるパターンを駆使する必要があり、それを可能にするのが、職人のこだわり。鈴木さんは、時代のニーズを何とか自分たちの強みである、職人の手仕事と結びつけることを考えました。

ファーストデリバリーは5アイテム。細々とした小物に煩わしさを感じずにいられる「TEBURA」、あらゆる人にとっての居心地の良い場所にフィットする「IGOKOCHI」、ドライブやフライトを快適に楽しむ「NOMADO」、ちょっとしたドレスコードを求められる場所にぴったりな「OYOBARE」、映画館や美術館など、静かにおしゃれを楽しむ「HAIKARA」。コットン、ウール、ポリエステル、特徴の異なる生地を、どうシーンにフィットさせるか。それぞれの持つ意味やこだわりを深く伝えることで、消費者は納得した買い物ができる。そう考えた結果、たどり着いた最善の伝達方法は、インターネットでした。

「まず前提として、トップスに比べるとパンツは自分にとっての定番を作りやすく、それを常に穿いてしまうスタイルが魅力的に映ることもあります。しかし、オケージョンに対して洋服を変えられる人はやはりおしゃれだし、その行為を純粋に楽しんでいると思う。ファッションは義務ではなく楽しいものだから、多くの人にライフスタイルそれぞれのシーンを想起してもらい、ふさわしいパンツを選んでもらいたい。シーンを視覚化することは、接客でも難しいことです」(鈴木)

シルエットよりも素材とディテールでシーンへのフィットを導いているのが、このブランドの特徴かもしれません。選び抜かれた生地や素材は、基本的に全てクオリティの高い無化粧のもの。つまり無駄な加工を施すことなく、経年劣化に耐えられるものが前提。そしてプライスにも敏感。店舗を構えたり、卸中心になると、どうしても上代にその分のコストが上乗せされてしまう。納得のいく生地を使って、適正価格で提供するためには、実店舗を持たずに、接客は自分の言葉と文字のみで完結させるインターネットという判断は、ある意味今日的な理に叶っています。

もちろん、立ち上がってすぐの今日で実現し得ないことも多々ありますが、今後は情報を一方的に発信するだけではなく、ユーザーの声にも耳を傾けられるシステムを取り入れていくとか。現段階のサイトは、まだプレオープンだと思っておいた方が良さそうです。ちなみに現在ラインナップされている価格は、どれも1万5000円前後。メイド・イン・ジャパンでこのプライスは、月並みな言葉ですが、企業努力の他にありません。

インターネットで購入するというデメリットを理解しつつも、それ以上に伝えられるメリットを増やして勝負する。そのためには発送や返品のインフォメーションや対応も現代は重要になってきます。早いことと丁寧なことを両立させ、かつリアリティを与えられるかどうか。これからのネット販売の課題になってきます。

〈メイクセンスラボラトリー〉のネット販売は、後ろ向きな決断と見る人もいるかもしれませんが、サイトの透明化と直接的な販売を狙ったチャレンジングな姿勢です。自分が信じるファクトリーの腕を、いかに多くの消費者に届けることができるか。対面的な交渉をせず、出せる情報を出せるだけ出して秘めたる想いを伝え、ユーザーフレンドリーな対応をし、手間とロスを感じさせない心地よい商品の受け渡し。これらをリアル店舗よりもダイレクトに感じることができたとき、このブランドの、ひいてはドメスティックブランドの未来が見えてくるかもしれません。とはいえまずは、パンツのクオリティと価格のうれしいアンバランスから注目してはいかがですか?

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