- ーこちらの対談の際にも伺いましたが、山田さんと今野さんは、高校の同級生なんですよね。
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山田:そうですね。高校1年の時から知ってます。自分は卒業以来ずっと大阪で、いまの会社(デサント)に勤めています。ただ、今野くんと再会して仕事をするようになったのは、ここ数年の話なんです。
- ーこないだ取材させていただいたのは、2年前くらいでした。今回が3作目ということになります。
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今野:はい、2作目はピローケースになるインナーダウンでした。
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山田:あれはいまだに欲しいって言われますね。
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今野:確かに。また作りたいね。
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山田:今回来ていただいた〈吉田カバン〉さんの松村さんは、今野くんから紹介してもらったんです。
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今野:僕は〈吉田カバン〉では10年以上桑畑さんという方にご担当いただいていました。今回の〈オルテライン〉に関しては、同じく企画部の松村くんに担当してもらうことになったんです。〈吉田カバン〉はプロジェクトによって企画の担当が変わることがあるんです。
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松村:そうですね。〈ネクサスセブン〉さんのコラボレーションアイテムは、他の企画スタッフが担当させていただいています。僕はお二人とは世代が少し離れているのですが、上司の桑畑としては、自分が定番で企画しているアイテムが、〈オルテライン〉のものづくりにわりと近しいものがあるだろうということで、このプロジェクトの担当にしたんだと思います。
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今野: 最初に、ダウンの中に付ける付属品のベースとなるカバンを選びに〈吉田カバン〉の本社に行ったんです。それでいくつか選んだんですが、それが偶然松村くんが手がけたものでした。
- ー松村さんのものづくりの方向性とはどういったものなんでしょうか?
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松村:あまり自分で意識はしてないのですが、よく“ソリッド“とは言われますね。〈オルテライン〉とのプロダクトは、山田さんの思っていることをどういう方法で形にするか、というのを常に考えています。
- ー〈オルテライン〉と〈吉田カバン〉は、今シーズンで何回めの取り組みなんですか?
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山田:3回目です。最初のきっかけは、今野くんと一緒に作ったダウンで、そのときからご一緒するようになったんです。それが15年の秋冬でした。
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山田:16AWで発表したトートバッグに関しては、〈吉田カバン〉さんで製作していただいた内装の各パーツをウチの水沢工場でシームシーリング加工をし、最終的にまた〈吉田カバン〉さんで仕上げてもらったアイテムです。
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松村:両社の生産背景を使っているという、別注のなかでも稀な例です。まさにコラボレーションと言える仕様だと思いますね。基本的に別注アイテムは、デザインをいただいて、ウチの生産背景で仕上げるという流れが多いので。
- ーそもそも〈オルテライン〉というブランドはいつ始まったんですか?
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山田:2012年の秋冬なので、今シーズンで4年目です。
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今野:もっと長く感じるけど何気にまだそれしか経ってないんだね。
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山田:今野くんの15年っていうのもすごいけどね。
- ーそれでは、実際にプロダクトを見ながら解説していただければと思います。その前に、元ネタとなる「モンスターパーカ」についてフリーバイヤーの栗原道彦氏に事前に解説していただきました。
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フリーバイヤー 栗原道彦
Photo_Shinji Seizawa
- —あらためて「モンスターパーカ」について教えて下さい。
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栗原:アメリカ軍の特殊部隊用のアイテムで、「PCU(Protective Combat Uniform)」に属しています。それに対して、一般兵用は「ECWCS(Extended Cold Weather Clothing System)」と呼ばれます。両方とも、レベル1からレベル7まであるんですが、「ECWCS」のレベル7が通称ハッピースーツのようなショートタイプしかないのに比べて、「PCU」の方はショートとロングの2種類が作られているんです。特殊部隊ならではですね。
- —とにかくサイズが大きいですね。
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栗原:そうですね。バックパックを背負った上からでも着られるように、とにかく大きいんです。〈セクリ〉というメーカーが作っているものがあるんですが、それだとXXSでもすごく大きいですね。
Photo_Shinji Seizawa
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今野:とにかく大きいので、これまではフリマで見つけても買わなかったんですけど、コヨーテのカラーになってからはわりとサイズ感もこなれてきましたね。といっても、これでXSなんですが。
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栗原:モンスターパーカの第二世代であるこのタイプは、だいぶ形も改善されています。これは〈ビヨンド(BEYOND)〉というメーカーですね。自分でも2年くらい前からアメリカで仕入れるようになりました。最初は売れるかな?という感じだったんですが、最近のオーバーサイズ流行りもあって、すぐに完売して、いまでは日本で売れる値段で仕入れられなくなってしまいました。
- —いくらくらいなんですか?
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栗原:アメリカでの定価が450ドルくらいだったんですが、去年値段の変更があって、550ドルくらいに上がりました。米軍への正規納入品は一般の方は買えないんですが、この〈ビヨンド〉は普通に自社のWEBサイトから買えたんです。〈セクリ〉も一時期自社のWEBで買えたはずです。ともに今は生産されていないようです。
- —なるほど。
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栗原:「ECWCS」はすごくいろいろなメーカーが作っているんですが、「PCU」は作っているメーカーがものすごく限られています。〈セクリ〉、〈ビヨンド〉〈ORC〉、〈パタゴニア〉ぐらいでしょうか。
- —これ自体はいつごろのものなんですか?
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栗原:00年代終わりぐらいだと思います。〈セクリ〉が作っていたときはアルファグリーンしか作ってなかったんですが、〈ビヨンド〉が作るようになってから、コヨーテも作られるようになったんです。コヨーテは海兵隊用で、アルファグリーンはその他の軍用という違いがあります。
Photo_Shinji Seizawa
- —なんでも米軍最強アウターというふうに言われているらしいですね。
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今野:そうですね。強そうな「モンスターパーカ」という名前の由来は、着た感じがモンスターっぽいからだと思うんですが、ネーミングもかっこいいですよね。
- ーということなんですが、実際に今回のものを作るにあたって、どのように進めていったのか教えてください。
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今野:これまでやらせていただいたコラボレーションは、レギュラーものをベースにミリタリーバージョンへアップデイトするやり方だったんですが、今回は15周年ということもあったので、少し違うアプローチで作りたいなと思ったんです。水沢ダウンといえば、“最強アウター”を目指しているブランドですし、それになにを組み合わせたら本当に最強のアウターになるんだろうと考えたときに、すぐに思い浮かんだのがこの「モンスターパーカ」でした。ただ、最初は「モンスターパーカ」の名前を出さずにやり取りをし始めたんです。いきなりフル別注ってやっぱり言いにくいじゃないですか(笑)。だから、まずは「スタンドカラー」っぽいのあったよね?ぐらいから初めて。僕のゴールは最初から「モンスターパーカ」だったんですが(笑)。
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山田:最初はそんな感じで〈オルテライン〉にあるインラインのアイテムをベースにしたやりとりだったんですが、結局は随分変わってきましたね(笑)。
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今野:はい(笑)結局、モンスターパーカにしてもらいました(笑)。
各¥140,000+TAX
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今野:前出の栗原くんのコメントの通りで、元々、モンスターパーカはレイヤードしてから着るオーバーパーカなので、単体だと内寸が大きいんです。ダウンって、身体とダウンの間に空間ができてしまうと、そこに冷たい空気が入ってしまうので、一気に保温性が低下してしまいダウン本来の機能性を失ってしまいます。それをふまえて、何度も修正を繰り返して、このシルエットを作りました。さらに「モンスターパーカ」を踏襲しつつも、使用している生地からダウン、中の構造などすべてに踏み込んで作りあげて完成したのが今回のプロダクトです。
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山田:最初に元ネタを見たときは、どうしようかな…と思いました。袖の作りとかアメリカ的でドスンという感じなので。
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今野:そうなんです。確かに機能的かもしれないんですけど、着たときのシルエットが綺麗じゃないんですよね。とにかく試行錯誤を繰り返しながら、何度も何度も直してもらいました(笑)。
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山田:ちなみに、展示会の評価はどうだったの?
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今野:ものすごくよかったよ。今回初めて水沢ダウンを使用したアイテムの卸をやるんです。一着15万くらいするにも関わらず、業界の方や古着マニアも含めてかなりのオーダーを頂けました。ただ申し訳ないことに水沢工場の都合もあり両色全サイズ合わせて100着限定での販売にはなってしまいます。
- ーこの規模のフルモデル別注って、なかなかできることではないですよね?
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山田:そうですね。あまりやってないです。まずは一回サンプルを作ってみたんですけど、やっぱり「モンスターパーカ」とは全然違うものになってしまいました。スタンドカラーは一緒なんですが、ぼくらが作ったのはもっとタイトなものだったので。なので、でき上がったものが面影はないよね。
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今野:そうだったね。
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山田:最初に作ったものは、まだベースにしたモデルの面影はあったんですが、そこから修正が何度か入ったので、もうこれはこっちに来てもらった方が早いなって。
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今野:大阪に修正依頼と土下座をしに行きました(笑)。
- ー前回の対談のときにも伺ったんですが、改めて〈吉田カバン〉側とのやりとりについても教えてください。
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今野:最初に〈オルテライン〉とコラボレーションをやりましょう、となったときに“ミリタリー”で串を通したいなと思ったんです。そう思ったときに、裏地はオレンジにしたいなと思いまして。それで、表が黒とオリーブで、裏地がオレンジとなると、〈吉田カバン〉しか思いつかなくなって(笑)。そこで、桑畑さんに連絡を入れさせて頂いたんですが、その時点では脱着式のものを作りたいという、それくらい漠然としたアイデアでした。
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山田:そこで、仕様のミーティングのために、〈吉田カバン〉の本社に行ったんです。
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今野:最初は無謀なアイデアもいくつか出ました。
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松村:自分のキャリアで、洋服になにかを付属させる仕様をやったことがなかったので、いろいろ話し合いました。あとは取り外したときにも機能的でなければ、ウチがご一緒させていただく意味がありませんし。そのなかで、脱着式のポケットが付属しているバッグのシリーズを見ていただいて、「このアイデアいいね」となったんです。そこからはそれをベースに考えていきました。
- —なるほど。
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松村:ダウンの内装に付属させるわけなので、どれくらいの重さに耐えられる仕様にするべきなのか、そして着脱のしやすさ、あとは着たときにポケットにモノの出し入れがしやすいか、といった部分を細かく調整していきました。
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山田:最初は、内装につけるので本当に大丈夫?っていう意見もありました。
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今野:そうだね。唯一〈PORTER〉のブランドロゴが入っているバッグが裏側にきてしまうので、表に〈PORTER〉のロゴを出した方が売れるんじゃないかという意見も上がりました。ただ、〈オルテライン〉のコンセプトである “ミニマル”という部分はきちんと活かしたかったんです。そうなると、ウチのネームもそうですが、〈PORTER〉のネームも表に出ない方がいいのかなと。一度桑畑さんに相談したら「いや、ない方がいいよ」って仰ってくださったので、その声に安心して進めることができました。
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松村:あとはトラベル的なコンセプトもありましたよね。飛行機とかに乗ったときに、ポケット部分を取り外して手元に置いておくというような使い方も想定しました。
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今野:ダウンって室内に入ったら、絶対と言っていいほど脱ぐじゃないですか。そこからそういう発想も生まれました。脱着式ポーチに貴重品を収納させておけばダウンは預けたり、別の場所へ置いてもポーチだけを外して手元に置いて、着用する時にまた付ければすごくスムーズに動けます。あと今回作ったアイテムが素晴らしいのは、外から見たときにポケットの部分のシルエットが崩れない点です。
- —確かに。このポケットは、どのようにもつけられるので便利ですよね。利き腕によっても、快適な付け方が変わるような気がします。
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今野:実際に、旅行中にこのギミックはかなり重宝しました。
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山田:こういうコラボレーションって“変えがち”じゃないですか。でも、最初のダウンのときにすごくいいものができたので、変える必要ないよね、と。
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今野:そうだね。だから前のダウンを持ってるかたは、ポーチも4つ付けられます(笑)。
- —オーセンティックなスタイルだった前回のダウンとは、また違う魅力を持った一着に仕上がりましたね。
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今野:そうですね。自分が実際に着ていて、米軍最強アウターと称される「モンスターパーカ」のここがさらにこうだったらよりいいなという部分すべてに改良を加えて、完全にアップグレードしています。ものづくりの基本はまず愛着のある元ネタがあって、これがもっとこうだったいいなということを足し算、引き算しながら積み重ねていく作業だと思うので、今回のプロダクトは、そういったものづくりの原点にも返らせてくれた気がします。