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FEATURE|東京カリ~番長の水野仁輔がスパイスを届ける理由。

東京カリ~番長の水野仁輔がスパイスを届ける理由。

Original Curry Spice At Your Home

東京カリ~番長の水野仁輔がスパイスを届ける理由。

近年、スパイスからカレーづくりに挑戦するひとが増えてきた。関連書籍も充実し、街のスーパーでもスパイスコーナーの品揃えには目をみはるものがある。それでもなお、深遠なスパイスの世界を前に、戸惑い、諦めるひとも少なくない。そんななか、数々のユニット活動を通してカレーの魅力を普及させてきた水野仁輔が、満を持してレシピ付きのスパイスセットを届けるサービスを2016年よりスタート。これを機にサラリーマン生活に終止符を打ち、独立も果たした。カリ~番長は、なぜスパイスを届けるのか。実際に「AIR SPICE」でカレーをつくりながら、話を聞いた。

  • Photo_Ari Takagi
  • Text_Satoru Kanai
  • Edit_Shinri Kobayashi
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「AIR SPICE」
毎月1種類、4人分のカレーをつくるために必要なスパイスとレシピが自宅に届くサービス。1ヶ月分のみのスパイスが届くお試し版(¥980)をはじめ、3ヶ月コース(¥2,940)、6ヶ月コース(¥5,880)、12ヶ月コース(¥11,760)から選ぶことができる。スパイスにまつわるこぼれ話、テクニックの考察、インド旅でのできごとなど、スパイスライフを楽しむためのジャーナル付き。

いまだになくならないスパイスの悩みを解決するために。

水野 仁輔
AIR SPICE代表、カレースター。1999年結成の出張料理集団「東京カリ~番長」調理主任。2008年に「東京スパイス番長」、2015年に「欧風カレー番長」を結成。カレーに特化したコンテンツ創造プロジェクト「イートミー計画」を主宰。取材時に着ていたTシャツは、「肩書きがなくて困っている」と糸井重里さんに話をしたところ「カレースターがいいんじゃないか」という話になり、勢いでつくったもの。

—読者のなかには、水野さんがサラリーマンと兼業で「東京カリ〜番長」をはじめ、さまざまなユニットで活躍してきたことを知らない人も多いと思います。あらためて、独立したきっかけを教えてください。

水野: 17年間、カレーの専門家としてさまざまな活動を行ってきましたが、特に注力したのはライブクッキングと出版活動。これまでに40冊ほどのカレー関連の書籍を出していますが、ガイド本はその内の5冊くらいで、あとはほぼレシピ本です。東京にいるとお店もいっぱいあって、食べ歩く人が目立っているけれど、全国的に見ると自分でつくりたいひとのほうが多い。

ぼくが7年くらい前に使いだした「スパイスカレー」という言葉も浸透し、ここ2、3年で関連本もたくさん出るようになりました。最近になって、スパイスに興味のある人が増えたのを顕著に感じるし、世の中的にもスパイスでつくるカレーが注目されている。

ただ、いろんな人から聞くのは、相変わらず「面倒くさそう」、「レシピに書いてある通りに買ったけど、残ったスパイスはどうするの」というマイナス意見ばかり。せっかく興味を持っても、ハードルが高くて離れてしまうひとが本当に多いんです。じゃあ、みんなが面倒な部分をぼくが代わりにやろうと。

そうしてはじめたら、イベントで会った人から「『AIR SPICE』でつくりました」って聞くわけですよ。本の場合は写真とレシピしか届けられないけど、これはスパイスを直接届けている。長年活動してきて、初めてカレー好きの役に立っているという実感を得たんです。それなら本格的にやってみようというのが、いちばんのきっかけですね。

水野流カレーのつくり方 その1
「料理教室で『もし余裕があったら鶏もも肉の皮をキレイに伸ばしてください。ちなみに僕はこれをやっているときがすごく幸せなんです』って話をしたら、何人かに『あの人おかしい』って言われました(笑)」

—このサービス名にもその思いが込められているのでしょうか。

水野:元ネタがエアギターですからね。エアギターってギターを持っていないのに、さも持っているかのように弾きますよね。「AIR SPICE」も、自宅にスパイスをストックせずにカレーがつくれる。その説明をあまりちゃんとしていないから、「インドからスパイスを空輸するから、エアーなんですか?」と言われることもありますけど(笑)。

カレーがあらたなコミュニケーションのきっかけになる。

—水野さんの原動力であるスパイスカレーの魅力は、どこにあるのでしょう?

水野:やっぱり香りですね。カレールーも香りはいいけど、複数のスパイスを組み合わせてつくったほうが圧倒的に香りは立ちます。もちろん専門店に行けば近い体験はできるけれども、その圧倒的に香りが立つという体験を、ほとんどの人がまだしてない。

なによりも、これまでの活動で体感したのは、たくさんの人がいるときにカレーは盛り上がりやすいということ。給食で人気ナンバーワンだとか、キャンプに行くと必ずつくるとか、カレーは人が集まる場にすごくふさわしい料理なんです。

たまに「ひとり暮らしなので、1度に4人前できちゃうと困ります」って言わるので、ぼくは「AIR SPICE」パーティをおすすめしています。つくるところからみんなでやればより楽しめるし、3カ月くらい待って何種類かを大人数でつくるというひともいますね。そうして、カレーがコミュニケーションのきっかけになるんです。

水野流カレーのつくり方 その2
「生肉のまま入れちゃってもいいですよって書いてあるんですけど」と言いつつも、この日は焼いてから投入。皮から焼くことで、余分な脂を出し切れる。

友だちの衝撃発言もきっかけのひとつ。

—「東京カリ~番長」は、同じカレーは1回しかつくらないというコンセプトでしたが、「AIR SPICE」も毎月あたらしいレシピが届くんですよね。

水野:基本のチキンカレー以外は、各月の限定です。ゆくゆくは、いつ購入しても1号目からはじめられる入門コースをつくろうとも思っています。

というのも、友だちにこのサービスの話をしたら「スパイスって何種類か混ぜるとカレーになるの?」って質問されたんです。こっちはその質問の意味が分からなくて…。もしかしたらと思って、「カレー粉が取れる木っていうのはないからね」って言ったら、すごく驚いていたんですよ。

その友達はカレーに興味のあるタイプではなかったけど、“スパイスを何種類か混ぜるとカレーになる”っていう言葉だけで感激する人がいるわけだから、実際に自分で混ぜて、だんだんカレー粉になる過程を楽しんでもらったら、もっともっと多くの人がスパイスを使うプロセスを楽しめるかもしれないですよね。

自宅キッチンのスパイスコーナーは、さすが圧巻の品揃え。スーパーでも充実しているが、よりマニアックなスパイスを買い求めるのなら、アメ横の「大津屋」がおすすめとのこと。

—たしかに、スパイスからカレーができると言われても、ピンとこない人は多そうです。

水野:みなさん、固形のルーでカレー人生をスタートしていますからね。あれは、入れた瞬間にカレーができるという魔法のツール。日本が世界に誇る素晴らしい発明品です。ただ、スパイスには、魔法のような力はありません。まず、どこからどうブレンドしていいか分からないし、何を買って、どれくらいの量を使うのかが分からない。

サイト上に「1回でスパイスの天才になれた」と書き込んでくださった方がいて、それがすごくうれしかった。ぼくは1回で天才にはなれなかったクチなので、その気持ちがよく分かるんです。見たことのない粉を混ぜていったらカレーになった。しかも本格的な味というのは、すごい感動体験だと思います。

水野流カレーのつくり方 その3
スパイスと、玉ねぎ、トマト、にんにく、しょうがを一緒に炒めて、焼いた鶏肉を追加。

目指すのは、カレーのオープンソース化。

水を入れて煮込む。

—これだけスパイスに興味を持つ人がいながら、「AIR SPICE」のようなサービスはなかったのでしょうか。

水野:レシピ付きのキットはスパイスコーナーにも置いてありましたが、自宅に届くサービスはありませんでした。供給側は、いいスパイスを入手して、棚に並べることで精一杯。受け取る側も、レシピ本を読むくらいしかスパイスの使い方を知りようがなかった。だから、詳しいひと以外がスパイス棚の前に立っても、棚は何ひとつ語りかけてきません。

ぼくは、ライブクッキングや書籍などのさまざまな経験から、両者の間をつなげる立場にいると思ったんです。

水野流カレーのつくり方 その4
煮込み終わったら、最後にパクチーを入れて完成。

—「AIR SPICE」は、各スパイスのグラム数も細かく書かれています。スパイスの分量こそがキモでありながら、あえてオープンにする意味はどこにあるのでしょう。

水野:「AIR SPICE」の最終地点は、スパイスを売ることではなく、スパイスを使って料理をする楽しみや喜びを届けること。

ぼくは、このサービスを通して、カレーのオープンソース化をしたいんです。ネット上のサービスや製品は、オープンソース化することでどんどんアップデートされますよね。レシピの中にスパイスの分量を書いておくことで、「水野さんのレシピはこうだけど、私ならこうします」とアップデートされていく。そうして、カレーの楽しみ方を広げていきたい。

水野流カレーのつくり方 その5
カレーに合う米は?という質問に対しては、“おいしいお米”とシンプルな回答。「ご飯を硬めに炊くといいと言いますけど、僕は反対です。カレーのときだけ硬めに炊くといいなんて、おかしいと思っている派です。好みはありますけど、基本はいつも通りにおいしく炊いてくださいって言っています」

—さまざまな分野で「これからは体験を売る時代」と言われているなか、「AIR SPICE」もまた、カレーをつくるという体験を売っているということですね。最後に、今後の展開を教えてください。

水野:入門編ができたら、全国の小学校を回って、お父さんと子どもでスパイスからカレーをつくるワークショップをやりたいなと考えています。そうすると、お母さんは日曜日に家でゆっくりできるでしょう。それに、スパイスカレーづくりを通して、お父さんが子どもにカッコイイ姿を見せることができますからね。

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