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FEATURE|マイケル・タピアと八木沢博幸。17年目の出会い。

マイケル・タピアと八木沢博幸。17年目の出会い。

MICHAEL TAPIA ×  HIROYUKI YAGISAWA

マイケル・タピアと八木沢博幸。17年目の出会い。

2017年2月22日、「キャシディ ホームグロウン(CASSIDY HOME GROWN)」という名の小さなお店が建物の老朽化を理由に閉店し、その機能を「原宿キャシディ(HARAJUKU CASSIDY)」へと移すこととなった。このお店の店主である八木沢博幸さんは大のアメリカ好きとして知られ、ベーシックなアイテムを品よく、そしてチャーミングに着こなすセンスの持ち主。そんな彼が惚れ込んだデザイナーのひとりが〈タピア・ロサンゼルス(Tapia LOS ANGELES)〉のマイケル・タピアだ。長きに渡って良好な関係を築き上げてきたバイヤーとデザイナーが、今回初めて顔を合わすことになった。対面の瞬間、うれしさと緊張が入り交じった表情を浮かべる八木沢さんと、いつも通りの振る舞いを見せるタピア氏。これは、そんなふたりの出会いの記録だ。

  • Photo_Shinji Serizawa
  • Text_Yuichiro Tsuji
  • Edit_Ryo Komuta
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ーおふたりは、ショップとブランドいう関係を長い間キープされていますが、実際に会うのは初めてなんですね。なんだか意外でした。

タピア:「キャシディ ホームグロウン」というお店のことは知っていたんですが、それがどんなお店で、どんな人がバイヤーをしているのかは知りませんでした。今日会えて本当によかった。こうして長いあいだ誠実に買い付けを行なってくれるお店は、我々のようなブランドにとってすごく大事な存在なので。

八木沢:ぼくがあなたのことを知ったのは、雑誌の記事がきっかけなんです。それは2000年の記事で、あなたがまだ若い頃のときのもの。当時はパンツだけのコレクションをつくっていましたよね。チェスターバリーという伝統的な仕立て屋さんでつくっているのが意外だったし、なによりもパンツだけのコレクションということにすごく驚いたのを覚えています。

タピア:90年代にぼくはニューヨークのヴィンテージショップで働いていました。当時、70’sのイタリア製のパンツを集めていて、それを自分でリメイクして穿いていたんです。街を歩いていると「そのパンツはどこの?」と声をかけられることが多くて、それがパンツのみのコレクションをつくるきっかけになりました。その後ドイツへ渡って入念なリサーチを行ったあとに、パリで自分のコレクションを発表したんです。

2000年に発行された『MR.HIGH FASHION』の記事。その年にタピア氏が発表したパンツのみで構成されたファーストコレクションについて書かれている。八木沢さん自ら記事をコピーして持参してくれた。

ー当時、八木沢さんはまだ「原宿キャシディ」にいらっしゃったと思うんですが、そのパンツのコレクションを取り扱っていたんですか?

八木沢:いいえ、そのときはまだ。ですが、自分のなかでマイケル・タピアという存在にすごく興味を持ったんです。その数年後にニューヨークへ買い付けに行った際、「ジェフリー」というお店であなたのコレクションを発見しました。それは本当にシンプルで上質なボタンダウンシャツでした。ひと目見て心を惹かれ、自分のお店でもやりたいと感じたんです。それが自分のお店で扱うことになったきっかけですね。

ー八木沢さんは、タピアさんのつくる服のどこに魅力を感じていますか?

八木沢:素敵なベーシックなんです、タピアさんの服は。デザインがニュートラルで誇張しないのに、圧倒的なクオリティーがあって人を惹き付ける。アイテム自体はベーシックなのに、特上なんです。ぼく自身があなたのファンなんですけど、お客さんにもやっぱりマイケル・タピアが好きという人が多いですね。買い付けの際はいつも、全部売り切れるようにバイイングしたいと思ってます。

タピア:ショップとそのカスタマーが長く付き合うのは重要なことです。あなたと我々が長いあいだ良好な関係を結んでいるように。

八木沢:ぼくのお店では、若い方からご年配まで幅広いお客さんがいます。そのなかで年に一回来られる方もいれば、毎週のように来ていただくお客さんもいます。原宿という立地もあるんですが、本当に多くのお客さんがここへ訪れてくれるんです。そのなかでタピアさんの服が好きという人は、あなたがつくる“スタイル”を求めているように思います。

ースタイルというのは?

八木沢:うまく表現するのが難しいんですが…、なんというかエイジレスかつタイムレスなスタイルなんです。タピアさんのつくる服は、若い人が買っていったかと思えば、60代のお客さんも買っていかれたりして、すごくエイジレスなんです。なおかつ流行にとらわれることなく、ずっと長く着ていられるタイムレスなアイテムでもある。そして、どれだけ長く着ていてもクオリティーに遜色がないんです。

八木沢:旬のデザイナーは買ったときが頂点で、数年後におなじ気持ちで着ることができません。でもぼくは、自分で買ったものは長く着たいと思ってます。だからあなたのつくる服は魅力的なんです。

タピア:本当にうれしい言葉をどうもありがとうございます。クオリティーというのは本当に大事で、毎シーズン、ベストなものをつくりたいと心掛けています。縫製、素材、パーツ、パターン。すべてにおいてベストを尽くす。それをするにはやはり、入念なリサーチが物を言います。それはぼくのデザインフィロソフィーのひとつでもあります。

ー「キャシディ ホームグロウン」では〈タピア・ロサンゼルス〉のどんなアイテムが人気なんですか?

八木沢:定番の「ドヒニージーン(Doheny Jean)」がとくに人気です。マイケル・タピアの入門みたいな感じで、はじめての人はだいたいこれを買っていきます。フィット感がすごくいいので、穿いて帰りますというお客さんも多いほどです。

タピア:いま、ぼくが穿いているのもドヒニーです。これはちょっと特別なパターンを引いていて、ヒップとウェストの比率が独特なんです。ある意味では、パンツづくりのセオリーを壊しているかもしれない。でも、それがこのフィットのポイントなんです。

八木沢:このアイテムを最初に買って、次はシャツ、その次はジャケットといったように、どんどん買い足していくお客さんが多いですね。ぼく自身も、展示会を訪れるたびにワクワクした気持ちにさせられています。

ーいま八木沢さんが話されたように、常に多くの人を魅了させる秘訣はどこにあると考えていますか?

タピア:ぼくのクリエーションは流動的でエモーショナルなんです。デザイナーとして、そのときの感覚や関心のある物事をモノづくりに反映させることを心掛けています。日々の生活を送るなかで我々は常に変化をしていますから、秘訣があるとすればそこにあるのだと思います。

タピア:それと、多くのデザイナーはランウェイを意識しています。ショーにおいて、自分のデザインがどのように輝くかを気にしている。でも、ぼくの場合は違います。ぼくはリアルな生活を意識しています。自分の服を着た人がバーに入る姿や、会社へ行く姿を想像しているんです。彼らはどんな気持ちを抱いて生活をしているのか、どんな感情でぼくの服を着ているのかを考えてデザインをしています。

ーいまあなたは、どんなことに関心があるのでしょうか?

タピア:いまはアメリカに原点回帰しています。アメリカの服の構造について興味を持ったんです。ぼくにはアメリカンの服についてもっと詳しく知る必要がありました。そうするためにヴィンテージの倉庫を訪れ、昔のアメリカンウェアやミリタリーウェアを検分しました。生地や縫製を見ながら昔のテクニックを調べたり、昔のスタイルを探していたんです。

タピア:ヨーロッパからアメリカに戻ってきて、生産クオリティーにおける問題にぶつかったことが、ぼくをその気にさせました。イギリス、イタリア、フランスの人々はモノづくりに対して愛情を注ぐ職人たちが多かった。けれど、アメリカの工場にはその感情がありません。彼らにとってモノづくりはあくまで仕事であり、品質よりも効率的な生産活動のほうが重要なんです。そういった環境のなかで、いかに良質なモノづくりを行なうか。できあがったばかりの次の秋冬コレクションは、そういったアメリカのモノづくりに導かれて完成しました。

八木沢:なるほど。その話を聞いてすごく楽しみになりました。ぼくは日本人だから、自分にとってアメリカは、やっぱり憧れなんです。はじめに好きになったのは〈ブルックスブラザーズ〉で、それから次第にマスプロダクトに興味を持ちはじめました。むかしの〈カーハート〉のワークウェアに、縫製がズレているものがあったんですよ。でも、そういったマスプロダクトの雑なつくりが魅力的に感じるんです。大量生産されたアイテムの雑多なクオリティーが、粗悪なものとしてではなく、ユニークなものとしてぼくの目に映るんです。

タピア:ぼくはそれがすごく嫌だったんですけどね(笑)。でも、あなたが言うように、それをユニークと捉えることも大事なことなんだと最近は思います。今回のコレクションもそういった視点で眺めることに集中して、ウィークポイントをストロングポイントに変換できるように心掛けました。

ー「キャシディ ホームグロウン」では、アメリカ製のアイテムはどれくらいあるんですか?

八木沢:全体の約8割ほどがアメリカものです。やっぱりそれは、ぼくがアメリカに憧れていて、アメリカのプロダクトを贔屓して見てしまうから。最近はお客さんも原産国にこだわる人が増えてきました。もっとアメリカ製のものを扱いたいとぼくは思っているんですけど、いまはなかなかそうもいきませんね。だからこそ、タピアさんの服は貴重だと思います。どんなにいいデザイナーの服でも、原産国を見てがっかりしてしまうこともありますから。あなたのコレクションを見ていると、アメリカでモノづくりをすることがいかに偉大なことであるかがよくわかります。

タピア:現在のアメリカでは良質なモノづくりをすることが困難になっています。残念なことにアメリカ人自体が“MADE IN USA”に対して興味を失っているんです。

タピア:ぼくも質問をしていいですか? 原宿にはたくさんのショップがあるなかで、あなたのお客さんはどうしてこのお店を選んでいると思いますか?

八木沢:ぼくのお客さんはよくこういうことを話すんです。大きなセレクトショップでは商品量が多すぎて、なにを選んだらいいのか分からない、と。でも、うちのお店はそんなことはありません。小さなスペースに限られた商品が並んでいますから、お客さんとしても選びやすいんじゃないかと思うんです。あと、実際に自分が着たり穿いたりして、本当にいいと思ったものだけをお店に置いています。それを自分で売るわけですから、やっぱり伝わりやすいんじゃないかと。要するにコミュニケーションが取りやすいんです。

タピア:お客さんのワードローブに対してもアドバイスをすることもあるんですか?

八木沢:アドバイスというと大袈裟かもしれませんが、それに似たことはしているかもしれません。長くお店に来ていただいているお客さんに関しては、うちでどんなものを購入されたのかを覚えていますから。次に来店されたときも、それに合わせて服を選ぶようにしています。こうしてお客さんの好みやサイズの傾向を把握しておけば、いいパートナーシップを結ぶことができるんです。

タピア:古きよきショップのあり方ですね。小さなお店だからこそ、よりパーソナルに接することができる。大きいお店では、なかなかそういった関係を結ぶことはできませんから。オールドファッションなのかもしれないけれど、いまの時代ではそれが逆にモダンなスタイルになるのかもしれませんね。

ー今度は逆に、八木沢さんからタピアさんへ聞いてみたいことはありますか?

八木沢:ぼくは、どうしてチェスターバリーでパンツのコレクションをつくったのか聞きたかったので、それが解決してよかったです。本当はもっと聞きたいことがあったんですけど、緊張して忘れてしまって(笑)。でも、こうして実際にタピアさんに会えて、ますます魅力を感じました。

タピア:ぼくも日本のお客さんがどんなことを感じ、どんなことを考えているのか知ることができてよかった。お客さんとの距離が近くにあることが日本のショップの魅力だと思います。小さなお店ほどそれが大事になってくるということを知ることができてとても勉強になりました。楽しい時間を過ごせて感謝しています。ありがとう。

モアライド

電話:03-6450-2620
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