和洋折衷の結晶。BLOOM&BRANCH、いざ開店。
2014.02.26

ファッション業界に顕著に押し寄せるライフスタイル化の波。2014SSシーズンでも多くの企業がこのジャンルに参入し、戦国時代の様相を呈してきましたが、ここにまた面白いショップがオープンを迎えます。ディレクターは元ナノ・ユニバースプレスの柿本陽平。自身の中にたぎる想いを、一風変わったコンセプトで具現化したニューショップ「BLOOM&BRANCH」。大注目です。
Photo_Yuichiro Noda
Edit_Ryo Komuta
-今回、「BLOOM&BRANCH」というセレクトショップをスタートさせるわけですが、いつ頃から計画していたことなんですか?
柿本: 実は結構昔から考えてはいました。僕は前職で8年半ぐらいお世話になりまして、そのうち6年ぐらいがプレス業でした。その中でプレスとしての後半2~3年は、どういう形になるかはわからないけど、自分が本当に良いと思うものを、自分で選んで自分で世に送り出したいと思っていたんです。
-具体的に言うと、いつ頃になるんですか?
柿本: 2011年ですね。サーフィンに行った帰りに、車の中で「お店を作ろう」と思ったのを覚えています。そのときのサーフィンは鎌倉に行ってたんですが、やっぱり鎌倉好きだなと思うのと同時に「ここでお店やりたいな」とざっくりですが、思い始めたんです。
-鎌倉のどんなところが好きなんですか?
柿本: まずは歴史と自然とのバランス、ゆったりとした空気感でしょうか。あとは、こだわりのある大人が暮らしをごく自然に楽しんでいる感じ、洋服だけではなくて、ライフスタイルがリアルに根付いている土地がいいなと思ったんです。
-確かにそういうところがありますよね。
柿本: サーファーも鎌倉になると、とたんにオシャレになるんですよね。ここに住みたいなと思いましたし、ここでお店をやりたいなとも思ったんです。それですぐに企画書にとりかかって、3ヶ月ぐらいかけて作りました。あとは地震が起きたことで、リアルに危機感を覚えたのもあります。これから先、本当にどうなるかわからないなと思いましたし、今自分がやりたいことをしないとダメだなと。
-なるほど。鎌倉という土地がショップのコンセプトにも、かなり深く根付いているわけですね。それで、前職を退社されて、どれくらい準備にあててきたんですか?
柿本: 現状で1年9ヶ月経ってますね。
-一番始めに作った企画書と、実際に出来上がるお店は近しいものなんですか?
柿本: うーん、結構変わっていますね。毎日暮らしていくうちに、色々なことに興味を持ちますし、あとは当時は本当にサーフィンにのめり込んでいたので、最初の企画書では少なからず「海」の要素が入っていたんです。
-あっ、やっぱりそうなんですね。
柿本: はい。サーフテイストが多少入ってました。なんですが、あるときに仕事と趣味の部分は切り離してやろうと思ったんですよね。
-それは戦略的にそうしたんですか? 正直、競合ショップでもそうしたコンセプトを掲げているところもありますし。
柿本: そういう部分もなくはないんですけど、それよりも自分が洋服に目覚めたとき、そして一番熱があったときのスタイルというのが「トラッド」や「ビンテージ」なんです。細かく言うとアメリカとユーロのトラッドミックスなんですが、そこに立ち返ろうと思ったんです。やっぱりサーフィンをやってると、どうしてもゆるいスタイルになりがちなんですが、そうではなくてファッション熱が一番高かった時代に戻していこう、そこで勝負していこうと。
-今は、柿本さんの中でサーフィンとファッションはどういう風に同居しているんですか?
柿本: 今は、ファッションだけではなくて、生活周りのプロダクツやそのプロセスに興味がありますね。サーフィンは今ももちろん大好きなんですけど、極端に忙しくなったこともあって、海からは遠ざかってますね。
-なるほど。あとは今回のお店を貫く大きなコンセプトとして、"和洋折衷"というものがありますが。
柿本: はい。今にして思うと"和"の部分に関しては、母親の影響が強いのかなと思っています。というのも、自分は実家が熊本なんですが、母親が「肥後象嵌」という宝飾の伝統工芸に携わっていまして。あとは母方の実家が黒川温泉の旅館をやっていたりするなど、いわゆる日本的な風景をよく見ていたんですよね。
-そうなんですね。
柿本: 家で、織機を使ってストールをシルクから織って、それを藍やコーヒー豆で染めたり、あとは陶器を作ったりと色々なことをしていたんです。なので、家ではそういった手仕事的な風景が身近でした。当時はまったく意識してなかったですけど、あるとき気づいたら自分でも日本の手仕事ものや民藝的なものを買うようになっていましたね。
-いわゆるクラフトですね。
柿本: はい。だから、サーフィンだけではないところに興味が向かっていく中で、自分の中で自然な興味が日本そのものに向いていきました。
-仰る通り、「BLOOM&BRANCH」では、器など民藝のアイテムも重要なファクターになっています。お店の雰囲気も素敵な感じになりそうですね。
柿本: あくまで直接的な"和"ではなく、「和3」、「洋7」のバランス感にこだわっているのですが、"和"を表現していく以上、そこもきちんと掘り下げなければいけないと思っていました。今回内装をお願いする「SIMPLICITY」さんも、日本の伝統文化を熟知している方々なので、色々なアイデアをいただきながら、一緒に詰めていったという感じですね。
-なるほど。今少し、内装に関してお話が出ましたが、とにかくお店を一から作るとなると、山ほどやることはあったと思います。まずどういったところから組み立てていったんですか?
柿本: そうですね。最初は本当に大変でした。僕は今まで販売員とPRしかやってきていない人間ですので。。唯一バイイングに関しては国内の展示会やピッティに同行させていただいたことがあったので、多少の流れはわかっていましたが、それ以外は本当に一からです。なので、まずはメンバーを集めながら、という感じでした。セレクトショップをやるにあたって、絶対に必要な人材を探すところからでしたね。
-人材はすべてご自身で?
柿本: そうですね。最初に役割をきちんと明確にしたというか。僕はここの専門なので、この分野はあなたに任せたい、というようなやり方ですよね。自分では、MDやレディスのバイイングはできないので、それをできる方を引っ張ってくる、そんなイメージです。
-今「BLOOM&BRANCH」は何人のチームで構成されているんですか?
柿本: 販売員は除きますが、外部の方なども合わせると、本部が8人ですね。その中にはデザイナーがいたり、MD、レディースのバイヤーがいたりですね。
-柿本さんは、ディレクターであり、メンズのバイイングを?
柿本: そうですね。あとはライフスタイルのバイイングも僕です。前職のプレスという立場で、たくさんの方と接する機会があったので、そこでの経験は相当役に立ちましたし、色々な人に助けられました。人づてに聞いていけば、誰かしらが見合うような方を紹介してくれました。
-確かに顔は広いですもんね。フイナムブログでの「いいね!」の数も素晴らしいです。
柿本: いやいや。でも、そういった形で紹介していただいた方に、とにかく一人一人お会いして、コンセプトを一から説明して、ということをひたすら繰り返していました。
-そうした骨組みを作っているときに、周りの人には自分の現状を報告、というか相談したりしていたんですか?
柿本: あんまり途中で人には言わなかったですね。プレスの職業柄か、最終的にお店が完成したときに、報告したり、見てもらうべきだと思っていたので。本当に近い先輩とかには話をしてましたが、「本当に大変だよ」なんて言われたりして。でも、僕も性格上一度進み始めると止まらないんですよ。
-なんだか意外な感じもします。
柿本: どんどん掘り下げて、知識をつけていくというか、研究していくような。凝り性なんだと思います。