PROFILE
1975年東京生まれ。スタイリストとして活動しながら、1998年に古着のリメイクを中心としたブランド〈2-tacs〉を始動。2007年に直営店「The Fhont Shop」を中目黒に開き、翌年よりオリジナルライン〈BROWN by 2-tacs〉を展開。現在は東京と丹沢の山中で二拠点生活を送り、都市と自然の往復から得た実感を軸に、日常とアウトドアをつなぐ表現活動を続けている。
PROFILE
1978年新潟県生まれ。1998年に渡米し、サンフランシスコで大量の古着と出会い、自ら審美眼を養う。その後日本へ帰国し、2013年に古着とオリジナルを扱う「7×7」をオープン。2015年より自身のブランド〈SEVEN BY SEVEN〉を本格始動。ヴィンテージの再構築と新たな価値の創出を理念とし、アノニマスな美意識と機能美を併せ持つ服づくりを続けている。
「お前は本当にジョンなの?」。
ーおふたりが旧知の仲ということを聞いたとき、ちょっと驚くひともいるかもしれません。出会いはいつ頃なんですか?
本間: 最初はサンフランシスコだったよね。当時「ゴーゲッター」の松田くんというひとがいて、彼と俺が古着の買い付けで一緒にLAを回っていたんですよ。その流れでサンフランシスコにも行ったんだけど、そのときに淳也を紹介してもらったんです。当時ワンルームの部屋に住んでたよね?
川上: そうですね。ワンベッドで、なぜかリビングで寝てましたね(笑)。
本間: 衝撃的な光景だったよ(笑)。もう古着が山のように積んであるんですよ。「どこに寝てんの?」って聞いたら、「リビングです」って言ってて(笑)。松田くんはそんな事情に構わず、当たり前のように古着をピックしはじめるし。現地のディーラーみたいになってたよね。こんなところで買ってるんだっていうのが、最初に思ったことかな。
川上: 「アズイズショップ」も一緒に行きましたよね? もうなくなっちゃったんですけど。

ーそこも古着屋さんなんですか?
本間: 古着屋じゃなくて、全部寄付のものが集まってる倉庫みたいなところがあって。どんなものでも1ドル25セントで売ってるんですよ。もう本当に宝探し。地元の貧困層のひとたちが集まる場所で、日本人なんて誰もいなくて。その中で古着をピックして、「こんなの出た!」みたいなのをひたすら毎日やって楽しんでたよね。淳也はあのとき学生だったよね?
川上: そうですね。ビザの残りを気にしながら、なんとか残ってた感じです。
本間: それで帰ってきたときに、うちでちょっと仕事を手伝ってもらってたんですよ。だけど、急に辞めることになっちゃって。それからずっと会わないままだったんです。
川上: 20年くらい経ってますよね? その間、〈N.ハリウッド〉の尾花さんのパーティでお会いしたりしましたけど。それでこの前、本間さんが50歳になられたとき、歴代アシスタントが勢揃いしたパーティ(幹事は〈リップラップ〉西野氏)に呼んでいただいて。それがきっかけだったんですよ。今回のアイテムが生まれたのは。
ー川上さんからお声がけしたんですか?
川上: そうですね。自分もブランドをやっていて、その中にはリメイクのアイテムもあるから古着の倉庫に行くんです。そうしたら、たまたまUSA製のワークシャツが大量に出てきて、見つけた瞬間に〈ツータックス〉のあのシャツを思い出したんですよ。ちょうど本間さんとも再会したタイミングだったし、いろんな点が繋がった感覚がありました。“I’m not”のアイデアってめちゃくちゃ洒落が効いてるじゃないですか。
今回つくられたなかから3枚をピックアップ。古着のアメリカ製ワークシャツをベースに、ボディに合わせて、イエロー、オレンジ、ダークネイビーのいずれかで「I’m not」の刺繍が入る。S〜XLのサイズ展開ながら、古着なのでサイズ感も色も柄も一点一点異なる。8月8日(金)発売。〈ツータックス × セブンバイセブン〉半袖シャツ ¥22,000(フォントショップ、セブンバイセブン)
本間: そう言ってもらえるとうれしいね。でも、俺の中であれはもう完全に忘れてたアイテムなんだよね。「そういえば、あったね」って感じだった。
川上: ワーカーの名前が書いてあるワッペンの上に、“I’m not”ってマッキーで書かれてて。返しが上手いなって。
本間: それには経緯があって、俺がはじめてアメリカ行ったのは二十歳くらいの頃で、当時〈レッドキャップ〉とか〈ディッキーズ〉のワークシャツが大好きだったの。自分としてはファッションとして捉えながら、それを着て飛行機に乗っててさ。たしか“John”って書いてあったと思うんだけど、アメリカに着いて空港のスタッフに「お前は本当にジョンなの?」みたいに聞かれて、「いや、違います」って照れながら返したんだよね(笑)。
川上: (笑)。
本間: そういうくだりがあって、急にすごく恥ずかしくなっちゃって。それをネタにしようと思って、マッキーで“I’m not”って書いたんだよね。そのときにこういうワークシャツをいっぱい買い付けて、商品化して「ミスターハリウッド」で売ったのが一連の流れなんです。
川上: そうだったんですね。言われてみれば、ただのユニフォームですもんね。
本間: 90年代にスケーターたちの間で、ロングスリーブのTシャツの上にショートスリーブを着るのが流行ってたけど、俺もそんな格好をしてたら、「あんた着る順番間違えてるわよ」って母親に言われてさ(笑)。そういうのとちょっと似てるよね。
ーダメージジーンズを穿いて、「穴空いているよ」って言われるとかもありましたね。
本間: そうそう、エルボーパッチが付いてると、「貧乏なの?」みたいな(笑)。そういうこと言われると、急に恥ずかしくなる瞬間ってありますよね。それを上書きするというか、逆手に取るような解釈なんですよ。“I’m not”っていうのは。

ーそれが当たり前になったというか、誰も何も気にしなくなったところに、時代の流れを感じます。
本間: そうですよね。ファッションがグローバル化して、サイジングも日本と海外ではほとんど差がなくなりましたよね。90年代は東京と大阪でも着こなしの違いがあったのに。それが徐々にフラットになってきて、いまだったらきっと思い付かないアイデアだと思います。
ーそしてアメリカ製のワークシャツも枯渇していると。
川上: 本当に出ないですよ。アメリカ製はとくに。これは恐らく80~90年代のものですね。そこに“I’m not”って刺繍を入れて。しかもチェーンステッチなんですよ。だから全部手作業なんです。


ー〈セブンバイセブン〉では近年、Tシャツのグラフィックも刺繍で表現されてましたよね。
川上: そういう気分ってわけでもないんですけど、今回は刺繍がいいなって思ってたら、本間さんも「やるなら刺繍がいいよね」って提案してくれて。
本間: こういうのは大体プリントかワッペンでやることが多いじゃないですか。リメイクでやるならチェーンがいちばん存在感が出るし、新鮮かなと思って。それを淳也に伝えたら、彼もそういう気分だったということで。
ー偶然の一致ですか?
川上: 完全にそうですね。それで自分自身もそういう背景を持っていたので、スムーズな流れでした。
本間: できるまでめっちゃ早かったよね。