PROFILE
1984年生まれ。2010年に〈クリスチャンダダ(CHRISTIAN DADA)〉を設立。2015年、毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞を受賞し、2016年には日本人最年少でパリコレクション公式スケジュールにてショーを行う。2017年、香港にて「10Asian Designers to watch」の10人に選出され、2021年には〈ベーシックス(BASICKS)〉を設立。2025年秋冬シーズンより〈ヒュンメル オー〉のクリエイティブディレクターに就任。
ヒュンメル オーとしてのアイデンティティ。

ー 印象的なインスタレーションでした。まずは率直な感想から聞かせてください。
森川: とても新鮮でした。インスタレーション形式、そしてコンテンポラリーダンスを用いた表現はぼくのデザイナー人生で初めてだったので。
パリでプレゼン形式の発表をしたことはありましたが、そのときはどちらかといえば単刀直入な表現でした。今回のような抽象的なものはおもしろかった反面、お客さんの反応が気になるとこではありますね。





ー 確かに、いろいろな捉え方ができるような内容でした。この形式にしたのはどうしてですか?
森川: いちど〈ヒュンメル オー〉の現在の立ち位置を明確にしたかったんです。ショーって派手じゃないですか。ひとも集まるし、見応えもある。だけどその派手さが先行してしまって、ブランドの核となる部分を伝えられないのは違うのかなって。
今回のコレクションが今後の〈ヒュンメル オー〉の基盤になるような、そんな発表にしたくてこのような形式を選びました。
ー あらためて今回のインスタレーションの内容について教えてください。
森川: テーマは「Human Anatomy」。“人体構造をめぐる考察と、デザインおよびインスタレーションへの転用”というところが軸にありました。
〈ヒュンメル〉のロゴをイメージしてもらえますか? あれはマルハチバナという昆虫がモチーフなんですが、本来なら体が重すぎて飛ぶことができないマルハチバナが努力の末に飛べるようになった…、そんな逸話からモチーフに選ばれていて、“精神の可能性を信じる”といったことが〈ヒュンメル〉のモットーになっているんです。


森川: 精神性…、いわゆる不可視な部分。そういう見えないものとスポーツをリンクさせて上手く絡められたらおもしろいんじゃないか。そういうところからアイディアを膨らませていきました。それで彫刻家・小谷元彦さんの「幽体の知覚」というところにたどり着いたんです。不可視なもの=幽体、と。



ー あの天井から吊るされていたものは、それがモチーフだったんですね。
森川: そうなんです。お客さんはどう感じたんだろうか…と不安に思う一方で、その戸惑いも狙いではあったのである意味成功なのかなと。かわいいものをかわいい! と感じることは当然のこと。今回はそうではなく、“考える余白”みたいなものを意図的につくりたかったんです。自由に感じてもらえたらいいかなって。それもファッションのおもしろみのひとつですからね。
ー その狙いがアイテムにも反映されているように感じました。
森川: そう感じてもらえたなら光栄です。一見すると不思議な形のものが多いコレクションですからね。
ー なかでもパイピングやメッシュ素材の使い方が印象的でした。形についてはやはりテーマである人体構造に基づいているのでしょうか?
森川: そうですね。立体的だと吊るしたときにおもしろいかなって。日本の歴史を振り返ると、着物を見ても分かるように平たいパターンが多いんですけど、あえて立体的にしたくて、パイピングで細腹(前身頃と後ろ身頃の間に用いられる脇の布地のこと)とか筋を見立ててみたりしました。
ー 前シーズンと比較して、かなり色数が絞られたような…?
森川: 身体を表現するにあたって、余計な色が入ってくるとテーマがブレちゃいそうだなと思ったんです。なのでモノトーン中心の色展開にしてみました。春夏で明るくいきたいところではあるけど、あくまでテーマに忠実に、クリーンなグレーを中心としたカラーパレットに。

ー ロゴが表に出ているアイテムも少ないですね。
森川: フロントにあまり付けず、付けたとしても生地と同色の刺繍にしました。〈ヒュンメル〉特有のバンブルビーマークやシェブロン柄(V字が連なっているもの)が目立ってしまうと、当たり前ですけどそこに目がいってしまいますよね。だけどあくまでこれは〈ヒュンメル オー〉。違うラインであることをそういうところでも表現したかったんです。シェブロン柄をメッシュで表現したものなんか、まさにそういうこと。〈ヒュンメル〉らしさは残しつつも、新しさを出せたらいいなと。
ー 今回、生地にもこだわりがあるそうですね。
森川: はい。カーテンやソファなどに使われている、デンマークの「クヴァドラ(kvadrat)」というテキスタイルメーカーの生地を使ったアイテムもつくりました。あまり知られていないかもしれないんですけど〈ヒュンメル〉って実はデンマークのブランドなんです。デンマーク繋がりでつくってみるのもアリかもな、ということでいろいろと調べてたどり着いたのがこの生地。独特の光沢感があってキレイなんですよね。
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