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映画『見はらし世代』黒崎煌代 × 遠藤憲一 インタビュー。家族という“小さな社会”で渦巻く人間模様。
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映画『見はらし世代』黒崎煌代 × 遠藤憲一 インタビュー。
家族という“小さな社会”で渦巻く人間模様。

「第78回カンヌ国際映画祭」の監督週間に、日本人最年少の26歳の若さで選出された団塚唯我監督のオリジナル脚本による初長編作品『見はらし世代』。家族問題という普遍的なテーマを重苦しさもあれど軽やかに描き、それぞれの人生観、家族観を問い直してくれる作品です。今作で難しい関係性を抱える親子を演じた黒崎煌代さんと遠藤憲一さんに作品や監督について、そして自身の人との向き合い方について話を聞きました。

  • Photo_Tatsuki Nakata
  • Stylist_Takumi Noshiro(TRON)(黒崎煌代)、Koosoo Nakamoto(遠藤憲一)
  • Hair & Make-up_Tomoe(artifata)(黒崎煌代)、Aya Hirokawa(遠藤憲一)
  • Text_Akiko Maeda
  • Edit_Naoya Tsuneshige

再開発が進む東京・渋谷で胡蝶蘭の配送運転手として働く青年、蓮。ある日、蓮は配達中に母を失って以来疎遠になっていたランドスケープデザイナーの父と数年ぶりに再会する。姉・恵美にそのことを話すが、恵美は我関せずといった様子で「昔のことなどもうどうでも良い」と、黙々と結婚の準備を進める。父は母の生前から変わることなく、家庭から背を向けるように仕事に明け暮れていた。悶々と家庭内の事情を抱えながら日々を過ごす蓮だったが、もう一度家族の距離を測り直そうとする。変わりゆく都会の街並みを見つめながら、家族にとって、最後の一夜が始まる。

PROFILE

黒崎煌代

2002年兵庫県生まれ。『さよなら ほやマン』で映画デビューし、第33回日本映画批評家大賞新人男優賞を受賞。その後NHK連続ドラマ『ブギウギ』に出演し話題となる。今後さらなる活躍が期待される注目の若手俳優。

PROFILE

遠藤憲一

1961年東京都生まれ。数々のドラマ、映画に出演してきた名俳優。代表作にNHK連続ドラマ『てっぱん』、ドラマ『白い春』『バイプレイヤーズ〜もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら〜』などがある。

監督自らの経験をもとに描いた、家族再生の物語。

―黒崎さんは今回の作品で映画初主演となりましたが、この作品への出演が決まって脚本を読まれたときにどういう感想を持たれましたか?

黒崎: 2021年の団塚監督の短編映画『遠くへいきたいわ』を観たときに文字にはできない面白さを感じました。そして今回の『見はらし世代』の脚本を初めて読んだときも、これはぼくが想像している以上に面白いことになるんだろうなとすごくワクワクしながら読んだ記憶があります。

―初主演というのはどんな気分ですか?

黒崎: まずはめちゃくちゃありがたいです。特に今作は家族に主軸を置いたストーリーで、たまたま蓮がフィーチャーされただけだと思っているので主演だからといって力が入りすぎることもなくフラットに演じられましたね。そしてそれはまわりのキャストやスタッフのみなさんのおかげでもあります。

―団塚監督は黒崎さんの俳優人生にとって欠かせない存在だと伺いました。

黒崎: 『さよなら ほやマン』という作品でデビューしたんですが、そのときに監督がメイキングに入っていて。初めてお芝居をした現場を見ていてくれていた存在なんです。そこで同世代ということもあって仲良くなって…。という感じだったので、“友達”のぼくに役を投げてくれて嬉しかったですね。

遠藤: ぼくが俳優人生で関わった監督の中で一番若手の監督だったんだけど、とにかく彼は“鋭い”。なので、安心して監督に身をまかせて言われたまま全部やってみよう! という気持ちで役柄に臨みました。

黒崎: 安心感がありますよね。具体的な指示があるってよりは、“○○的な”みたいな結構フワッとした会話でキャッチボールできていたのでやりやすかったですね。それこそ、いつも監督とご飯に行っているときの感覚で、あえて役をつくり込まずに演じました。

―黒崎さん、遠藤さんは今回が初共演でしたが、お互いの印象はいかがでしたか?

遠藤: いやぁとにかくすごいの一言。どう考えても芸歴3年でできる演技じゃないなーと思ったし、感情表現がここまでできるのも奇跡だよね。ぼくの3年目の頃なんて緊張しすぎて舞台でガッチガチになっちゃってさ、その動きをよく真似されてたよ(笑)。

黒崎: 遠藤さんは現場でもこんな感じですごい笑かしてくれて、すごく和やかな空気をつくってくださるのでありがたかったですね。

―映画の中で黒崎さんの声がハッとするくらい印象的で、第一声を発したときに空気がガラッと変わって、ここから物語がグンと進んでいく予感がしました。声の表現というのも普段意識されていますか?

黒崎: 褒めていただくことも多いんですけど、声が通りにくいのが気になっていてボイストレーニングを1年間くらい受けて、ようやく今こんな感じです。

遠藤: 声変わりする前から低かったの?

黒崎: そうですね。小学校の頃から声低いなーってまわりに言われていました。今も舞台に向けてトレーニング中ですけど、やっぱり声の表現っていうのは難しいですね。今回の蓮はセリフが少なかったし、今までぼくがやってきた役も割とセリフが少なめだったので、今後セリフ回しが多い役がきたらドキドキしそうですね。

―作中では距離のある親子の姿が描かれていたと思うのですが、そういった難しい関係性を演じるにあたって、それぞれの立場で強く意識されたところはありますか?

黒崎: ぼくが演じた蓮は父との関係性を元に戻したいという気持ちがあって、家族の問題について何か変化を起こしたいとずっと思っているんですよ。父に向かって怒りの感情を向けているように感じるかもしれないけれど、別に恨んでいるわけではなくて実は寂しい。でも姉は家族の問題に対してすごく淡々としていて、そこには明らかな温度差がある。

©︎2025 シグロ / レプロエンタテインメント
お互いの家族に対しての距離感の違いと向き合う姉役・木竜麻生さんとのシーン。

©︎2025 シグロ / レプロエンタテインメント
バラバラになってしまった家族が思い出の場所で再会する象徴的なシーン。

遠藤: ぼくは家族だけど変にべったりしすぎない関係性を物語の前半から意識していました。子どもたちとも妻とのやりとりも少し距離感があるというか。

黒崎: ぼくはそんな父役の遠藤さんを見るときには心に抱えている寂しさを込めて演じていました。

―そういった絶妙な距離感の表現は、おふたりの中で擦り合わせがあったんでしょうか?

遠藤: そういうのはまったくないんですよ。むしろ、親子で対面する最初のシーンで黒崎くんが大笑いして2、3回NGを出して(笑)。

黒崎: 初めましてのシーンの直前に遠藤さんが女子高生とダンスをしているTikTokを観てしまって。そしたら向こうから真面目な顔して遠藤さんが入ってきて、挨拶して撮影が始まったときに思わず吹き出しちゃったんですよ。それで正直に「さっき遠藤さんのTikTokを観てしまって」とお伝えしたんですよね(笑)。

遠藤: ほんとゲラだよね(笑)。シリアスな作品なんだけど、現場は意外と和気あいあいとしていたよね。

―家族の問題という重くなりがちなテーマを扱った作品でしたが、重くなりすぎない工夫が随所に取り入れられていると感じました。おふたりが印象に残っているシーンはありますか?

黒崎: それこそ重くなりすぎない演出のひとつと言えるのかもしれないですが、ひとりで公園でリフティングしているシーンですね。軽やかにポンポンとボールが跳ねて物語にリズムが生まれていますよね。この撮影のためにリフティングを練習したんですけど、練習ではめちゃくちゃうまくできていたのに、本番で全然できなくなってしまって。それで恥ずかしい思いをしたっていうのが印象的ですね(笑)。

―遠藤さんはいかがですか?

遠藤: 作品全体の話になっちゃいますけど、まず、監督の画の撮り方にびっくりしちゃったんですよ。誰にでもできるようなカット割りじゃないし、映画好きの方が観ても画の美しさと斬新さに驚かれるんじゃないかなぁと思います。まだ20代で若い力ではあるんだけど、若けりゃみんなこうやれるわけじゃないから、彼が“持っている”力があるんだなと感じますね。

INFORMATION

映画『見はらし世代』

監督・脚本:団塚唯我
出演:黒崎煌代、遠藤憲一、井川 遥、木竜麻生、菊池 亜希子、中村蒼、中山慎悟、吉岡睦雄、蘇鈺淳、服部樹咲、石田莉子、荒生 凛太郎
配給:シグロ
2025年10月10日(金)公開
©2025 シグロ / レプロエンタテインメント

公式サイト
公式インスタグラム

※衣装クレジット:<黒崎煌代>ジャケット ¥80,300、パンツ ¥38,500(ともにラッド ミュージシャン)、<遠藤憲一>ジャケット ¥125,400、パンツ ¥83,600、シャツ ¥41,800(すべてワイズフォーメン)、シューズ ¥74,800(ヨウジヤマモト プールオム)