©︎ Red Bull Media House / Esben Zøllner Olesen
コペンハーゲンにおいて、自転車は“特別な乗りもの”ではなく、完全に生活の中心。街には幅の広い自転車レーンが張り巡らされ、交差点では自転車が車より優先される光景さえ珍しくありません。冬でも文化はそのままで、レーンは丁寧に除雪され、市民は淡々とペダルを踏み続ける。自転車が文化として根を張った都市は、こうも美しく、機能し続けるのかと驚かされます。
自然、デザイン、食、そしてゆったりとした北欧の空気。それぞれの“心地よさ”が主張しすぎず、街の景観として滑らかに溶けていく。その上で、観光客でも気軽に自転車で動きやすい環境が整っているのだから、コペンハーゲンはもはや街全体がひとつのサイクリングコースのよう。 自転車好きはもちろん、そうでない人にも 「こんな旅の仕方があったんだ」 と思わせる不思議な魅力があるのです。
PROFILE
1992年生まれ、奈良県出身。独創的なライディングスタイルと映像表現で注目を集めるプロトライアルライダー。幼少期から自転車競技に親しみ、競技シーンでの経験をベースに、自ら企画・出演するムービープロジェクトを多数発表。街や自然、日常の風景をフィールドへと変える発想力は国内外で高い評価を得ており、「レッドブル」アスリートとして世界にその魅力を発信している。
Instagram:@tomomi_nishikubo
ーまずは自己紹介からお願いします。
西窪友海といいます。奈良出身で、24歳のときに東京へ上京して、いまは横浜を中心に活動しています。自転車は12歳から乗りはじめたんですが、その前はモトクロスをやっていて。4歳の頃から父や兄と一緒に家の裏山をバイクで走っていました。平日はオートバイに乗れなかったので、自転車でトリックの真似をして遊んでいたら、そのまま本気でハマってしまって。気づけば人生の半分以上は2輪の上にいますね(笑)。
ー改めて、トライアルバイクとはどんな自転車なんでしょう?
普通の自転車やBMXと違って、トライアルは“足をつかずに障害物を越えられるか”を競う競技で、岩場や丸太、段差を走破します。そのために、トライアルバイクはブレーキがめちゃくちゃ強いんです。指一本でフルロックできるディスクブレーキで、段差の上でもピタッと止まれる。BMXは流れで魅せる競技ですが、トライアルは“止まること”が武器。そこが面白いところですね。
ー映像作品やYouTubeでも独自の世界観を発信していますよね。
ストリートトライアルは大会がほとんどないので、映像発信が活動の中心です。単にトリックを並べるんじゃなくて、ストーリー性や“ワクワク”を入れたい派で。『忍者ライダー』シリーズでは忍者 のコスプレで街中を走ったり、自作のスラックラインやシーソーで誰も見たことのない技を作ったり。自分でセクションをDIYするのも好きですね。 街そのものを舞台にして、フィクションとリアルの間みたいな映像を作れるのが、この競技の楽しさだと思っています。
ー最新映像はコペンハーゲンで撮影されています。どんな撮影だったのでしょう?
2024年にロケハンで3日ほど訪れたんですが、その頃から街に惚れてしまって。自転車レーン、段差、手すり、広場…街のあらゆる要素が自然と“トライアルのセクション”になっているんです。「この街で撮影したら絶対に面白い」と確信しました。 今年の夏に本番の撮影に行き、水辺の横の階段、橋の下、港のエリアなど、街を象徴する景色と絡めながらトリックを撮りました。コペンハーゲンも「レッドブル」も全面協力してくれて、普段できないスポットでも自由に乗らせてもらえたのは本当に貴重でした。
日頃から気になったスポットはリストアップしているという西窪さん。
ー西窪さんから見たコペンハーゲンの魅力とは?
まず、自転車文化が本当に生活レベルで根付いていることですね。街のつくり、道幅、交通ルール、どれも自転車が自然に走れるようにデザインされている。トライアル的にも、ちょうどいい段差やモニュメントが街に自然と存在していて、歩くような感覚で自転車で遊べるんです。 景観もとにかくきれいで、古い建物が運河に映っていたり、モダンなデザインの橋がアクセントになっていたり。走っていて気持ちいいし、どこを切り取っても画になる。街全体がクリエイティブの舞台に見えるんですよね。
ーコペンハーゲンで“ここが日本と違うな”と感じた街のルールや文化はありますか?
自転車優先って言われますけど、実際に乗ってみると“街全体で守ってる”のがよく分かります。たとえば横断歩道の前で歩行者もちゃんと自転車レーンを気にしてくれるし、車もあたり前のように譲ってくれる。誰かが無理に割り込むとかが全然ないんですよ。競技者としても、街のリズムが気持ちよかったです。
©︎ Red Bull Media House / Esben Zøllner Olesen
ーサイクリングがメインでなくても楽しめますか?
むしろ観光メインでも最高です。家族が一緒でも小さな子どもでも、自転車で無理なく移動できます。街のサイズも渋谷区くらいで、半径5~6キロ圏内で観光地がぎゅっとまとまっている。城やクラシックな建物、現代建築、水辺、レストラン…ぜんぶ無理なく回れます。 街の中心に海があって、みんな普通に泳いでいるんですよ。あれは東京にはない開放感ですね。
ー特におすすめの場所はありますか?
まず王道の観光地は普通に行くべきです(笑)。人が多すぎることもなく、ストレスなく楽しめます。 その上で、ローカルな魅力を感じるなら ヌーレブロ(Nørrebro)。 緑道が広がっていて、自転車で走るだけで気持ちいい。沿道はスケートパークや遊べる広場があって、家族連れや若い子がほのぼのしているんです。チェスをしていたり、芝生でチルしていたり、街のテンションがすごくいい。 それから、サークルブリッジ(The Circle Bridge)。 これは歩行者も自転車も渡れる橋で、デ ザインがすごく美しい。橋を渡るのも気持ちいいし、僕はボートを借りて橋の下をくぐって撮影したりもしました。水辺の街ならではのスポットですね。
©︎ Rasmus Hjortshøj – COAST
ヌーレブロ
©︎ Visit Copenhagen
サークルブリッジ
ーサイクリング以外の楽しみ方は?
水辺の街なので、レンタルボートがすごくおすすめです。電動の7人乗りで、テーブル付き。現地の人は当たり前みたいに、食べ物とビールを持ち込んでクルーズしています。僕らもやりましたが、運河沿いの店で買ったものを持って水上へ行くだけで、もう最高の時間でした。 街のグルメもレベルが高くて、普通のサンドイッチみたいな軽食すら美味しい。ソースや肉の味付けが日本人にも合います。
ー最後に読者に向けてメッセージをお願いします。
僕の映像を見てもらえると街の雰囲気が伝わると思いますが、コペンハーゲンは“計画通りに観光地を巡る街”じゃないんです。自転車を借りて、気ままに走りながら「ここでチルしよう」と思った場所で休む。美味しいものを食べたり、運河沿いでぼーっとしたり。それくらいのラフさのほうが、絶対に楽しい。 最低でも1週間くらい滞在できると、街を余すことなく味わえます。
『Water Challenge On Bike | Trials Riding In Copenhagen』