CLOSE
それぞれの言葉から紡ぐ、ヴァイナルアーカイブの輪郭。

Talkin’ about VAINL ARCHIVE

それぞれの言葉から紡ぐ、ヴァイナルアーカイブの輪郭。

ストリートからモードに古着まで、様々なスタイルのファッションが混在し、どの分野においても世界的な発信力と影響力を持つ東京のファッションシーン。なかでも現在、一際注目を集めているブランドが〈ヴァイナルアーカイブ〉だということは、フイナム読者だったら異論は無いでしょう。絶妙な空気感と雰囲気を、服作りへの高いこだわりと共に具現化したラインナップでユースから玄人筋にまで支持者を増やしています。そこで今回は〈ヴァイナルアーカイブ〉のクリエイションに深く携わる、3名のクリエイターに取材を敢行。スタイリスト、写真家、パタンナー、それぞれはどんな想いで〈ヴァイナルアーカイブ〉及びデザイナー大北幸平と仕事を続けているのか。縁の深いクリエイターたちの言葉から、ブランドとしての輪郭を探っていきます。

  • Photo_Koki Sato for Jiro Konami, Haruki Matsui for Yohei Usami & Tomo Yazane
  • Text_Maruro Yamashita
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

01.スタイリスト・宇佐美陽平が語るヴァイナルアーカイブ。

まず最初に話を伺うのは、〈ヴァイナルアーカイブ〉のルックのスタイリングを長年手がけている、スタイリストの宇佐美陽平さん。〈ヴァイナルアーカイブ〉のデザイナーである大北幸平氏とは旧知の間柄である宇佐美さんから見る〈ヴァイナルアーカイブ〉の姿とは?

宇佐美さんが大北さんに出会った頃のお話から聞かせてください。

宇佐美もう20年くらい前になるのかな。(大北)幸平が「メイドインワールド」というショップで働いていた頃。当時よく「メイドインワールド」にリースに行ってたんですよ。そこで顔を合わせるようになって、彼が自社ブランドの1つを手がけるようになってからは、スタイリストとして仕事を一緒にしたり。世代が近いこともあって、次第にプライベートでも親交が深まっていった感じですね。

〈ヴァイナルアーカイブ〉以前から、大北さんの作った服を宇佐美さんがスタイリングをする、ということがあったんですね。では、〈ヴァイナルアーカイブ〉のスタイリングはいつから手がけているのでしょうか?

宇佐美最初の何年間かはやってなくて、幸平からそろそろお願いしたいんだよねって相談を受けた時に「誰か面白いフォトグラファーいない?」って話の中から(小浪)次郎を紹介したんだよね。次郎はその時まだファッションの仕事をしてなくて、ちょうど良いタイミングで(野村)訓一くんから「良いやついるぞー」って教えてもらって。

ホームページを見たら写真は凄く良かったんだけど、この世界観を活かすには既存のルックを撮ってもらうより、ポートレートの延長だったり、風景だったり、ライブ感のある写真みたい方が良いのかなと。だから、こっちがしっかりディレクションをした撮影をお願いするよりも、世界観だけ伝えて、その枠の中で彼の好きに撮ってもらった方が絶対に面白いものに仕上がるなと思って。

写真の空気感が幸平の好きそうな感じだったし、ブランドとしても既存の服がバッチリ見えるカタログというよりは言わば、ジンだったりフォトブックみたいなものを制作したいと思っていたし、幸平となら一緒に良い感じでできるだろうとも思ってね。それで、どう? っていうところから3人でやるのが始まっていったんだよね。

〈ヴァイナルアーカイブ〉の服はどのように見ていらっしゃったのでしょうか?

宇佐美〈ヴァイナルアーカイブ〉という名前で服を作り出す前と後では、だいぶ方向性やクオリティーも変わったんだけど、一番の違いはパターンですよね。矢實くんが全部やり出したことは、大きな転換になったんだと思う。幸平って職人気質な反面、凄い器用な一面も兼ね備えていて、服を作る以外にもアートディレクター的なこともできるし、編集に長けていて、物事を俯瞰で見れる目線もある。

今までは自分の頭で描いていた物を形にできないジレンマがあったと思うんだけど、そこに矢實くんがパターンを引くことで、表現したい服の完成度も凄く上がってっいったと思うんだよね。

では、現在の〈ヴァイナルアーカイブ〉の服をどのように感じていらっしゃいますか?

宇佐美服としては、シンプルだけど特殊。カッティングや切り返しのデザインが分かり易いとか、派手だったりポップだったりする訳でもないし、色味も黒と赤しかないシーズンがあったり、生地作りにもこだわりがある反面、ぱっと見で分かりやすくない。

そういったマニアックでバランスの決して良くないブランドが、ここまで色んな人に愛されているのはとても凄いことで、面白いなって思う。結構、シルエットが難しいアイテムが多いから、どこら辺で、どういう子たちが、どういう風に着てるのか、凄く興味があるんだよね。

では、宇佐美さんが〈ヴァイナルアーカイブ〉のスタイリングを手掛ける際に心がけていることはなんでしょうか?

宇佐美やり方としては他のブランドとちょっと違って、余り介入しないっていうのが、敢えて心がけてるところかな。幸平に委ねるというか。ここはこうしてみたいなディレクションを〈ヴァイナルアーカイブ〉に関してはしてないんだよね。撮影もそんなにこっからこう撮ってとか言わないし、どの写真を大きくしてとかっていう最終的な構成についても一切何も言わないし、レイアウトも立ち会わない。

けど、それが自分の想像を良い意味で裏切ってくるし、自分が思っているものよりも良い形であがってくるから、そこに関しては信頼していて。撮影自体も余り決め込まないでスタートするんだけど、それが上手くいってる珍しいケース(笑)。今思い返すと、3人で撮影を始めた当初からやり方は変わってないね。

最後に、今後の〈ヴァイナルアーカイブ〉、大北幸平氏に期待することは?

宇佐美他のブランドとの協業とか、デザインの仕事とか。ディレクション的な才能があるから、色んな仕事すると良いんじゃないかなと。マニアックさは出すところで出しつつも、ポップで売れそうなデザインも作れる、バランスの良い人だと思う。あまり表立って色々抱えてやるようなタイプでも無いし。

彼の中で一つひとつ消化しないと進めないっていうのがあるんだろうけど、色々な仕事が増えると面白いんじゃないかな。服だけじゃ見えてこない彼の知られざる側面が見えてくると、ブランドに拡がりも出てくるし。そういう一面がまたブランドにフィードバックされると、よりブランドとしての厚みも出てくるだろうし。

宇佐美陽平

東京を拠点に、国内外を股にかけて活躍するスタイリスト。ここ何年にも渡り、〈ヴァイナルアーカイブ〉の全てのビジュアルのスタイリングを手掛けている。

02.写真家・小浪次郎が語るヴァイナルアーカイブ。

2人目は、宇佐美さんの紹介で〈ヴァイナルアーカイブ〉の大北さんと出会い、そこから現在にいたるまでシーズン毎のビジュアルを撮り続けている写真家の小浪次郎さん。現在はニューヨークに拠点を移している彼にとっての〈ヴァイナルアーカイブ〉とは。

小浪さんと大北さんとの出会いについて教えてください。

小浪23、4歳の頃、野村訓市さんに写真を見てもらった時に、宇佐美さんを紹介してもらい、宇佐美さんが幸平さんを紹介してくれて。確か初対面でいきなり〈ヴァイナルアーカイブ〉のルックの撮影をした気がします。

とりあえずモデルを動かしまくって、やりたいようにやらせてくれました。それまでファッションの仕事をしたことがなかった僕にとって、それは実験であり、その先を決定するスタイルになったと思います。

〈ヴァイナルアーカイブ〉の服を撮影する上で意識していることはなんですか?

小浪すべてにおいての前提ですが、良い写真を撮るということ。毎回、一番最初の撮影の感覚を思い出すようにしているというか。無茶をするということ、ですかね。

アパレルブランドとしての〈ヴァイナルアーカイブ〉らしさというのは、小浪さん的にはどういうところにあると思いますか?

小浪顔に目がいく服だなと思います。

では、小浪さんにとっての〈ヴァイナルアーカイブ〉の魅力は?

小浪自分の写真がすんなり入り込めるブランドだと思います。無理がない。無理なく撮れるし、無理なく毎日着ています。

これまでの〈ヴァイナルアーカイブ〉の撮影で、印象的なエピソードはありますか?

小浪俳優の加瀬亮さんに着てもらい撮影した事。オレも幸平さんもかなり粘ったんです。存在で体現してくれたという感覚。それこそ無理なく着てくれた。クローゼットから適当にピックアップしたかのように。〈ヴァイナルアーカイブ〉の服と僕の写真が、1人の人間を通してリンクできた気がしたんです。

小浪さんにとって、〈ヴァイナルアーカイブ〉と大北幸平氏はイコールですか?

小浪イコールではないですね(笑)。幸平さんは無理する人間ですからね。昔気質で情熱的な人だと思います。僕にとっては。

ここ数シーズンで増えて来ている、〈マーモット〉や〈リーボック〉のようなグローバルなブランドとのコラボワークにはどのような印象をお持ちですか?

小浪幸平さん自身が吹っ切れたイメージです。同時に多くの人に知ってもらえる。そこに〈ヴァイナルアーカイブ〉らしさがちゃんとあるし、幸平さんの視界が広がった気がします。僕はニューヨークにいるので、〈シュプリーム〉とのコラボが見たいです。そしてそれを僕が撮りたいです。

デザイナーとしての大北さんの魅力はどのような点にあると思いますか?

小浪編集力ですかね。写真セレクト、本のデザイン、全て幸平さんがやります。服作りから沢山の情報から素材を集めて、〈ヴァイナルアーカイブ〉のやりたい事を選択して、大量に撮られた写真から構成して、デザインを調整して。その一連の流れの編集力が幸平さんの魅力だと思います。

しかも、どこかで違和感をなんとなく生み出すことができる。それは幸平さんにとって、どこかで意図的なんだろうけど、自然にやってのける。そういうところはカッコいいなと思います。

最後に、今後の〈ヴァイナルアーカイブ〉、大北幸平氏に期待することは?

小浪そのままで。変わらないものを探し続けて欲しいです。

小浪次郎

ニューヨークを拠点に活動する写真家。広告から雑誌媒体、ブランドのルックなど、国内外を股にかけて活躍。〈ヴァイナルアーカイブ〉のルックの撮影も担当。また、〈ヴァイナルアーカイブ〉がサポートする形での個展の開催や、〈ヴァイナルアーカイブ〉の服への写真の提供など、様々な形でブランドと関わっている。

03.パターンナー・矢實朋が語るヴァイナルアーカイブ。

最後に話を伺うのは、スタイリストの宇佐美さんに、〈ヴァイナルアーカイブ〉というブランドの重要なキーマンであると評されていたパターンナーの矢實さん。大北さんの思い描くピースを具現化する上で欠かせないパートナーである矢實さんに、ブランドの魅力を伺いました。

まずはパタンナーという職業について教えてください。

矢實色んなブランドの方から服のデザイン画を貰い、それを型紙に起こすのが、パタンナーの仕事ですね。僕の場合は、どこかのブランドに勤めず、フリーの立場で主にメンズ中心に仕事をしています。

Tシャツもスウェットもやるし、ジーンズもやれば、スーツもやる。フォーマルからカジュアルまであらゆる既製服のパターンを手がけています。

パターンナーになられたキッカケは、なんだったんですか?

矢實小さい頃から物を作ることが好きで、服を好きになった時も、結局根っこの部分まで知りたくなったんですよね、作る側の。そこに興味を持ったんで、とりあえずパターンナーを目指せばできることって多いかなと思って。

逆にいうと、服って夢を見させてあげるものだと思うんですけど、僕の作業は現実的な部分を凄い突き詰めるものになっちゃうんで、夢がないというか(笑)。どうやってデザイナーのデッサンを具現化していくのか、言わば作業の部分。

そういう意味でも、やっぱりパターンナーってデザイナーに導かれるんですよ。その人のことを理解して、その人が導いてくれた上で、形を決めたり寸法を決めたりするんで。

〈ヴァイナルアーカイブ〉のパターンはどのような経緯で?

矢實僕がパターンを手がけているブランドの服を、幸平さんが見てくれていたみたいで。そこのブランドの方と幸平さんが繋がっていて、〈ヴァイナルアーカイブ〉を立ち上げるタイミングで、声をかけてくれて。なので、立ち上げから現在まで、10年以上一緒に仕事していますね。

立ち上げからずっとなんですね!

矢實ミスってないってことだと思います(笑)。どんなブランドでもそうですけど、業績やデザインの蓄積によって型数が減ったりするんですよ。それでも〈ヴァイナルアーカイブ〉は、コンスタントにシーズンで20型前後オーダーしてくれて。そういう安定したブランドがあるのは、僕の生活にとっても助かるんですよね。しかも、そうやって新型を作り続けることって、容易じゃ無いと思うんです。

パターンを手掛けている矢實さんから見て、〈ヴァイナルアーカイブ〉の服の魅力はどこにありますか?

矢實僕が幸平さんの仕事を受けている上で心がけているのは、清潔感のある感じっていうところです。じゃあ、何が清潔感か? っていうと曖昧で言葉にするのが難しいんですが、シンプルになることを凄くよく考えて作るようにしていますね。

物って、単純に見えても奥が深いことってたくさんあるじゃないですか。そういう部分を〈ヴァイナルアーカイブ〉にはかなり盛り込んでいるつもりですね。シンプルで、清潔感のある服が好きっていうのは、あの人の根っ子の部分にあるのかなって思っています。

シーズンごとにアップデートしていく、みたいな部分もあるんですか?

矢實立ち上げからやっている強みは、お互いがデータを共有していることなんですよ。過去に作ったものを「ちょっとああしたい、こうしたい」みたいなやりとりがスムーズにできる。実際に〈ヴァイナルアーカイブ〉でも、過去のアーカイブをベースにシルエットをイジったりすることもありますからね。

阿吽の呼吸的なところもありそうですね。

矢實そうですね。やり続けたからこそ、感じるものはお互いにあると思います。結局、今言っていたような作業が、ブランドの色になると思うんですよね。人気があったからこそ、おかわりがあるわけで。それでも、お互いまったく同じものを作りたいとは思うタイプではないですし。

そういうニュアンスの共有ができているからこそ、いわゆるブランドの定番品にちょっとした違和感を毎シーズン残すことができているのかなと。

アップデートの繰り返しっていうことですよね。

矢實それって簡単そうに思う人もいるかもしれないですが、決して簡単なことじゃ無いんですよ。

〈ヴァイナルアーカイブ〉との仕事の中で思い出に残ってることはありますか?

矢實最初凄く苦労されたと思うんですけど、原宿の「シップス」でポップアップをやった時の規模のデカさが凄くて。その時に僕もちょっとした満足感というか、やっていて良かったなと思ったんですよね。それくらい盛大だったんで、それが。

苦労していた時代も全部見てきたので、僕すらも感動しちゃったというか。この人とやって来て良かったなと思えましたね。

最後に、今後の〈ヴァイナルアーカイブ〉、大北幸平氏に期待することは?

矢實これまで通り、好きなことを楽しくやり続けてもらいたいですね。で、その仕事を一緒に取り組ませていただきたいです(笑)。

矢實朋

主にメンズアイテムのパターンナーとして、数多くのブランドのパターンを手がける。〈ヴァイナルアーカイブ〉には立ち上げ当初からパターンナーとして参画。自身のブランド〈スタビライザージーンズ〉も手がけている。

TAG
#VAINL ARCHIVE
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
Page Top