FEATURE
パリでいま、いちばんホットな人物。ラムダン・トゥアミの正体。
WORDS, SOUNDS, COLORS & SHAPES

パリでいま、いちばんホットな人物。ラムダン・トゥアミの正体。

「Good morning!」。中目黒の一角に新しくできたお店で、快活な挨拶と共に現れたひとりの人物。彼の名前は、ラムダン・トゥアミ。フランスの実業家であり、クリエイターでもあるラムダンは、パリで自身のショップである「WORDS, SOUNDS, COLORS & SHAPES」のディレクションを担い、注目を浴びています。そんな同店の日本一号店が中目黒にオープン。天井の高い開放的な空間には、彼が手掛けるオリジナルブランド〈ディ・ドライベーグ(DIE DREI BERGE)〉のアイテムがズラリと陳列され、そのクオリティの高さに驚かされます。そもそもラムダンって何者なの? そんな疑問を頭に浮かべながら彼のもとを訪ね、自身のこと、お店のこと、クリエイションについてさまざまな質問を投げかけました。

PROFILE

ラムダン・トゥアミ

1974年、フランス生まれの実業家兼クリエイティブディレクター。若くしてTシャツブランドを立ち上げるなど、起業家精神を発揮し、2014年には老舗香水店〈オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー〉を再興し、大成功を収める。2024年にパリで「WORDS, SOUNDS, COLORS & SHAPES」を立ち上げ、今年5月に中目黒に日本一号店をオープンさせた。この他にもデザイン事務所や印刷スタジオを持ち、雑誌『USELESS FIGHTERS』の出版や、スイスの「ドライベーグ・ホテル」の運営など、さまざまなプロジェクトを抱えている。

ディ・ドライベーグでは本物しかつくらない。

ー「WORDS, SOUNDS, COLORS & SHAPES」はどんなコンセプトを掲げるお店なんですか?

ラムダン: コンセプトなんてないよ。ただのお店だからね。自分たちの商品を売るだけ。むかしのお店もコンセプトなんてなかったと思うんだ。

ーある種の自己表現のようなイメージ?

ラムダン: その通り。パリのお店も、ここも同じだね。パリに比べるとちょっと小さいけど。

ーパリのお店ではセレクトショップとしていろんなブランドのアイテムも展開したり、プリントスタジオなども併設されているけど、このお店ではオリジナルブランドの〈ディ・ドライベーグ〉だけの展開ですね。

ラムダン: ここではぼくのクリエイションだけを展開しているんだ。この建物はぼくとチームでクリエイトしたものなんだけど、これからカフェやアートギャラリーもオープンする予定だよ。

ー内装も素敵ですね。どんなことをイメージしましたか?

ラムダン: ぼくはスイスの山間でホテルを経営しているんだけど、そこと似た雰囲気にしたんだ。日本は山と自然の国だからね。〈ディ・ドライベーグ〉も自然に関するブランドなんだ。

ーラムダンさんがつくっている『USELESS FIGHTERS』も山や自然にまつわる雑誌ですよね。どうして自然に惹かれるのか気になります。

山にまつわる文化や政治、アイデンティティを扱いながら、それが世界にとっていかに魅力的であり、重要であることを発信するビジュアル誌。
USELESS FIGHTERS ISSUE 2 ¥6,000

ラムダン: 『USELESS FIGHTERS』は自然をアドベンチャーするための雑誌なんだ。いろんな場所にいくための口実のようなものだね。多くのひとたちが自然やそこに住む人々のことに関心を持たない。ぼくはその話題をつくりたいんだけなんだ。ペルーの山、アルジェリアの山、中国の山、どこでもいい。メジャーなものではなく、もっと“ほかの人々”への関心を向けたいんだ。

ーラムダンさんのファッションも、そうした自然に影響を受けているんですか?

ラムダン: ぼくのファッションにも政治的な意味合いが込められている。たとえば〈ディ・ドライベーグ〉は化学繊維や石油を使った素材は採用していない。No Plasticだよ。これは〈ポーター〉と一緒につくったバックパックなんだけど、ぼくが企画を持ちかけたんだ。

ラムダン: 彼らはナイロンをよく使っているけど、ぼくは「使いたくない」と伝えた。だからキャンバス素材なんだ。そして〈ポーター〉はダークトーンのアイテムが多いけど、あえてホワイトを基調にして、たくさんの色を取り入れた。ぼくはわかりやすい製品があまり好みではないんだ。

ーあえて真逆の発想でつくったと。

ラムダン: そう。すごく重いんだよ、コレ(笑)。ナイロンだったら軽くなるんだけどね。あえて正反対のものづくりをしたんだ。

ーそれはどうして?

ラムダン: こうゆう遊びを取り入れることで、ぼくの考えていることや姿勢を理解してもらえると思ったから。あえて大きな声で言わなくても、パンクだということが伝わったらいいなと思って。まるでゲームのように楽しみながらクリエイションをするのが好きなんだよ。

ーなるほど。

ラムダン: これはダビーシューズ。マウンテンシューズとミックスしたんだよ。すごくクレイジーだと思わない? 「ドライベーグ」ってドイツ語で“三つの山”っていう意味なんだけど、ノーズのパンチングでそれを表現したんだ。

ーそういうアイデアはどんなときに生まれるんですか?

ラムダン: 工場へ行って、その場で決めるんだよ。よく見るとパンチングも星型にしてある。そういう細かなディテールをたくさん詰め込んでいるんだ。いろんな工場を回ったけど、みんな無理だと言うから、このシューズをつくるのに2年もかかったよ。

ラムダン: あと、このシューズのソールは「ヴィブラム」と一緒につくったんだ。97%が天然ゴムを使用している。ソールってすごく大事なんだよ。ほとんどがプラスチックを使っているから、道路を歩くときに削れて、マイクロプラスチックが発生する。それが雨に流されたらどうなる? 川に流れて、魚がそれを知らずに口にして、最終的には人間の胃の中に入る。クルマのタイヤも同じことだよ。つまり、土壌汚染をしているのと同じなんだ。だからみんなよくそのことを考えてほしい。

ぼくは地球を傷つけるようなブランドなんてやりたくない。できるだけ地球環境にやさしいものづくりを心がけているよ。だからシーズンっていう概念もこのブランドにはないんだ。つくりたいときに、つくりたいものをつくればいいんだよ。

ー地球の環境汚染は本当に深刻なレベルに達しているし、多くのひとがそれを見て見ぬふりをしていると思います。最近ではサステナブルやSDGsといった言葉も、ビジネスとして消費されていますね。

ラムダン: 60年代からずっとメッセージは投げられているんだ。みんなそれを知っているはずだよ。たしかにプラスチックは快適だし便利だよ。だけど、その矛盾に目を向けるべきなんだ。もちろん、それをゼロにすることはすごく難しい。ぼくはベジタリアンだけど、飛行機にも乗るしね。

1960年代後半から1970年代の政治ポスターやアンダーグラウンド・プレスから影響を受け、当時のグラフィックを再解釈して「視覚的ミックステープ」のように編集した一冊。
The Radical Media Archive vol.1/7 ¥5,280

ーみんな矛盾を抱えながら生きていると。

ラムダン: そうだよ。この夏、『USELESS FIGHTERS』の企画でぼくはパリから東京までクルマで移動するつもりなんだ。その道のり、自然の景色も含めて、どうなっているかをこの目で見てみたくてね。すごく大変な道のりになると思うけど、一度試してみようと思っているよ。

ーその道のりにおいても、多くのガソリンが消費されるし、タイヤも削られますよね。あえて矛盾した行動を取るのはどうして?

ラムダン: 矛盾をゼロにするのは難しい。君もこのレコーダーを使って電気を消費しているし、この部屋はエアコンで空気が整えられている。つまりは矛盾のバランスをどう受け入れるかなんだよ。アパレル産業もすごく大きな環境負荷を地球に与えている。それも矛盾のひとつだよね。みんな服を買う量を減らすべきだとぼくは思う。だから〈ディ・ドライベーグ〉では本物しかつくらない。シャツ1枚を取ってみても、5年着られるもののほうがいいに決まっている。靴も一足を長く履き続けたい。だからクオリティ重視でものづくりをしているんだよ。

INFORMATION

WORDS, SOUNDS, COLORS & SHAPES

住所:東京都目黒区青葉台2-16-7
営業時間:12:00〜20:00(月曜定休)
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