デザインチームを公表しないアノニマスなブランドでありながら、着実にその存在感を高めている〈シティー カントリー シティー(City Country City)〉。そんなブランドの実態を探るべく、設立当初から親交の深いクリエイターたちへのインタビューを行う連載企画。謎のブランドの気になる中身を、あらゆる角度から迫っていきます。
今回は〈サープラス・リサーチ(Surplus Research)〉のデザイナー・JOEが登場。先日リリースされたコラボアイテムについて、そのこだわりを伺います。
香港、オーストラリア、日本の文化がミックスされている。
ーまずはJOEさんのプロフィールを知りたいです。
JOE:ぼくはオーストラリアのシドニーで生まれました。両親は香港人ですね。若い頃は画家を目指していたんだけど、社会人になってすぐに〈ラルフローレン〉のショップで働きはじめました。
ーなんだか意外ですね。
JOE:そうですか? 〈ラルフローレン〉は、ただ単に服をつくるだけじゃなくて、夢やストーリーのようなものを表現していると思う。そうした世界観から多くのインスピレーションを得て、憧れを抱いたのがきっかけです。
そこからヴィンテージの世界にも興味が湧き、日本にもよく遊びに来て、ヴィンテージショップを巡っていました。そうした流れで〈ダブル アール エル〉にも惹かれようになり、ニューヨークへ渡って現地のショップで働き、そこからすこしづつキャリアアップして最終的にはデザイナーになりました。
ーすごい経歴ですね。〈ビリオネア・ボーイズ・クラブ〉に入るのは、その後?
JOE:〈ビリオネア・ボーイズ・クラブ〉で仕事を得たのは、たしか2018年だったかな。ぼくがショップで働いていた頃にの〈ビリオネア・ボーイズ・クラブ〉の副社長のロイックに出会っていたんですよ。その後も親交があって、「〈ダブル アール エル〉を辞める」と話したときに誘われたのがきっかけです。
ーそして、いまでは東京を拠点に活動をされているわけですね。
JOE:東京には2023年に来ました。ぼくは子どもの頃、日本人の学校に通っていたんです。だから常に日本の文化に触れていて、親しみがあった。自分のアイデンティティは香港、オーストラリア、日本の文化がミックスされていますね。
ー日本に来てからはずっとフリーランスのデザイナーとして活動しているんですか?
JOE:そうですね。いくつかのブランドに声をかけてもらって、デザイナーとして働いています。
ー日本とのコネクションもあったんですか?
JOE:〈CCC〉のデザインチームとは昔から交流があったし、東京のさまざまなシーンにいる人達とも繋がりがありました。そこから交流の輪がどんどん広がっていったんです。
いろんな媒体を通じた自己表現みたいなもの。
ー〈サープラス・リサーチ〉はどうやってはじまったんですか?
JOE:単純に自分の好きなものをつくりたくてスタートしました。たしか2022年だったと思います。まずはキャップをつくって、そのあとにイヤホンをデザインしました。基本的にはそのふたつだけですね。〈サープラス・リサーチ〉は自分のアイデアやヴィジョンを具体化したブランドなんです。
ーヴィジョンというのは?
JOE:ん~…、言葉で説明するのが難しいですね。言語化できないから、モノで表現しているんだと思います。プロダクト自体や、そのディテールはもちろん、インスタグラムやオンラインショップなどなど、いろんな媒体を通じた自己表現みたいなもの。ぼくは音楽やアウトドア、スポーツが好きで、自分の興味をいろいろとミックスしながら製品に落とし込んでいるんです。
JOE:たとえばぼくはランナーだし、レコードも大好き。だからイヤホンや帽子っていうのは、生きていく上で欠かすことのできないツールのひとつなんです。
ー服ではなくて、そうしたアクセサリーで表現しているのがユニークですね。
JOE:まだTシャツですらつくってないですからね(笑)。だけど、こっちのほうがおもしろいでしょう? お客さんにとってそれがどれだけの価値を持つかは謎だけど、とにかくものづくりが好きだし、自分の情熱をそこに注いでいますね。
偶然の産物をおもしろくできるのがスモールブランドの魅力。
ー〈CCC〉とのコラボレーションはどのようにはじまったんですか?
JOE:Drinking!
ーなるほど、なんとなくイメージできます(笑)。
JOE:〈CCC〉のチームとコンビニの前で飲んでいて、そのときにアイデアが湧いたんです。ぼくは彼らをすごく尊敬しているんですよ。だから、やろうって。それはもうフィーリングですね。そのときに思ったのは、コンビニからインスピレーションを得た色使いにしようということでした。たとえばツバのブルーはローソンから。サイズアジャスターはセブンイレブンのオレンジです。
ーベースにあるのは〈サープラス・リサーチ〉のキャップですよね。
JOE:そうですね。これはぼくのスタイルです。
ーどんなところにこだわっているんですか?
JOE:これは細かなディテールの集積でできています。生地は撥水性のあるナイロンで、フィルムも入っています。アイレットは今回メタル素材だけど、インラインではステッチでつくることもあります。今回のコラボで気に入っているのは、パッチですね。ちょっと手作り感があって、完璧ではない感じに惹かれています。
ーあえてそうしたということ?
JOE:たまたまお願いした工場が、こういうムードで仕上げてくれたんですよ。もちろんフォントとか、リフレクター糸などの仕様は指示するんだけど、クオリティは工場のものです。今回はすごく味のある仕上がりになった。そういう偶然を楽しんでいますね。もちろん、それがしっくり来ないときもあるんだけど、今回は気分にハマった。
デザインの楽しいところは、工場との対話なんですよ。デザイナーとして方向性をディレクションすることはできるけど、どんなものが生まれるかはやってみないとわからない。そういう偶発的なものづくりに惹かれます。すべて細かく指定することも可能だけど、それをせずに、偶然の産物からユニークなものづくりに発展できるところがスモールブランドの魅力だと思うんです。
ーちなみにバックスタイルには〈サープラス・リサーチ〉のブランドロゴも刺繍されてますよね。これにはどんな意味があるんですか?
JOE:このロゴは、実は60年代のアーカイブロゴ集で見つけたものなんです。たしかヨーロッパの農業関連の、いわゆる行政っぽい用途のロゴだったと思います。単純にこの形が気に入って、サンプリングしました。こういうロゴのおもしろさって、まったく異なる新しい意味を与えられるところにあると思う。もともとは農業のロゴだけど、すごく有機的なデザインをしているし、ちょっと山っぽさも感じますよね。それに“S”の文字にも見えるし。
ー漢字の「山」にも見えますね。
JOE:そうそう。あとは温泉のマークにもね(笑)。
友情があり、理解があり、それで生まれた。
ー先ほど〈CCC〉のことを尊敬していると話していたけど、ブランドに対してどんなイメージを抱いていますか?
JOE:強いエネルギーを感じます。ブランドもすごく印象的です。彼らがブランドを始める前からアイデアを聞いていたけど、いまでは世界観がどんどん広がっていますよね。ロニー・リストン・スミスや、WARといった、彼らがリスペクトするアーティストとのコラボレーションを見ても、〈CCC〉がいかにエネルギッシュなブランドであるかがわかります。本当にクールだと思う。
ー実際にプロダクトを見て思うことはありますか?
JOE:グラフィックがとにかくパワフルですよね。音楽をベースにしているんだけど、物販的な単なるマーチャンダイズにならずに、しっかりとパッションが込められている。それってすごく大事なことだと思うんですよ。ストリートに根ざした感覚というか、しっかりと熱量を感じるんです。
ーデザインチームと会うときは、いつもどんな話をするんですか?
JOE:ファッション、デザイン、音楽、プロダクトについてですね。ぼくたちには共通の話題がたくさんある。常に未来に向けた意志を持って、なにかしたいと考えている。だからいつもインスピレーションが生まれます。会うといつもいい時間が過ごせる。そういう関係性の友達って、人生において、そう多くはつくれないと思うんですよ。
ー今回のコラボレーションを振り返ってみて、どんなことを思いますか?
JOE:すごくナイスなコラボレーションでした。実際に街中でキャップを被っているひとも見かけるし、本当にグッドフィーリングが得られます。このプロダクトを誇りに思いますね。その本質には〈CCC〉とぼくのパートナーシップがある。友情があり、理解があり、それで生まれたわけですよね。それは本当にかけがえのないものです。
ー最後に今後〈CCC〉に期待することがあれば教えてください。
JOE:一緒にミュージックパーティがしたい。それでもっといろんな繋がりが生まれたらいいですよね。
JOE
シドニー出身。〈ラルフローレン〉でキャリアを積み、2016年に〈ダブル アール エル〉のデザイナーに。2018年からは〈ビリオネア・ボーイズ・クラブ〉でクリエイティブディレクターを務め、2023年に東京へ拠点を移す。現在はフリーランスのデザイナーとして活躍する一方、自身のプロジェクトである〈サープラス・リサーチ〉のデザインも行っている。
Instagram:@surplus.research
Photo_Kazunobu Yamada
Text_Yuichiro Tsuji