1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。今ではさらに“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。
この連載も15シーズン目に突入! 新たにショップが全て入れ替わった3番手の第115回目。新たな古着屋が続々とオープンしている三軒茶屋エリアから、「アツラエ ヴィンテージ(atsurae vintage)」の川崎達也さんの登場です。さて、どんなニュー・ヴィンテージを紹介してくれるのでしょうか!?
Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii
川崎達也 / atsurae vintage オーナー
Vol.115_エンポリオ アルマーニのジャケット、アルマーニ コレツィオーニのセットアップ
―本連載は“トゥルー・ヴィンテージのように記録や記憶に残っていくようなグッドレギュラーをいまの内に探す”のがテーマです。では、「アツラエ ヴィンテージ」にとってのニュー・ヴィンテージの定義とは?
個人的に“ヴィンテージ”って時代を経ても語り継がれて、長く愛されて残り続けるモノだと思っているので、いつの時代でも不変的に支持されるモノ・廃れないモノ…ですかね。いやぁ〜この問いって、どう答えるかがすごく難しいですね(笑)。
ーでは、そんな「アツラエ ヴィンテージ」のアイテムセレクトについて、コンセプトやテーマがあれば教えてください。
ウチでは“エスニック”“トラッド”“オーセンティック”“モード”という4つのテーマで買い付けをしているので、その軸はブレさせず、アイテム自体の良さはもちろんのこと“それをどう着るか”を重要視しています。なので、買い付けの際にも“他のアイテムと組み合わせた際の見え方”は意識しています。
ー川崎さんは「ユナイテッド アローズ(UNITED ARROWS)」出身と伺いました。本連載でもセレクトショップ出身のオーナーのショップがいくつか登場しましたが、皆さん“どうスタイリングするか?”という視点を意識していると仰っていました。
そういう意味でも“違和感を作る”というアプローチは有効だと思います。例えば、ヨーロッパ古着にアメリカ古着を合わせてみたりとか。デザインや素材などディテールにこだわるのも古着の楽しみ方のひとつではありますが、トータルで面白いスタイリングを組み上げるという“着る楽しさ”も大事だと思っています。
ーでは、その上でどういったニュー・ヴィンテージを紹介してくれるのでしょうか?
今回は、1980年代〜90年代の“アルマーニ”シリーズに焦点を当てたいと思います。創設者は“モード界の帝王”と呼ばれるジョルジオ・アルマーニ。先ほどの4つのテーマでいえば、モードにあたります。ぼくらが子どもの頃、雑誌やテレビで見ていたアルマーニのセットアップ=バブリーなイメージがありましたが、それもいま見るとすごく新鮮で、令和の空気感にもめちゃくちゃ合っているなと感じられて。
ーいわゆるソフトスーツってやつですね。
それこそ、ぼくの古巣でもある「ユナイテッド アローズ」が一大ムーブメントを巻き起こしたアイテムです。アルマーニは、薄めの肩パッドで身幅のあるジャケット、クリースなしでユルユルのパンツという伝統的なスーツの基本は守りつつも着心地の良さを追求したディテールで、紳士服に革命を起こしたと言われています。
ーたしかにソフトスーツのリラックス感は、いまの気分にもマッチしますね。
ヴィンテージとして残っていくモノって、時間の流れの中で流行り廃りを繰り返しながら、徐々にヴィンテージとしての風格をまとっていくのだと思うんです。その観点でいっても、ニュー・ヴィンテージとして注目するに値するのではないでしょうか。
ーところで、アルマーニって色々なラインがあるみたいですが、どんな違いがあるんでしょうか?
まずは、生地や素材にまでこだわった最高級のファーストラインで、1975年に誕生した〈ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)〉。次に、若者向けのセカンドラインとして1981年に誕生した〈エンポリオ アルマーニ(EMORIO ARMANI)〉。こちらの価格帯はミドルクラスで、トレンドやモダンなデザインを取り入れたデザインが多いのが特徴。まずは、こちらのジャケットからご覧いただきましょう。
エンポリオ アルマーニのジャケット ¥37,400(アツラエ ヴィンテージ)
ーダブルチェストのスーツとなると、ハードルは相当高くなるような…。
たしかにスーツの世界には厳格なルールが存在していますが、クールビズという概念が生まれて以降、スーツのようにカチッとしたアイテムをあえて崩して着るのも良しとされるようになったため、インナーにヴィンテージのTシャツ、足元はサンダルやスニーカーで合わせるなんてのもアリです。そもそも、アルマーニさんは「シンプルであることが最大のエレガンスである」というデザイン哲学をお持ちですし、ヴィンテージアイテムのコッテリ感を引き算する要素として組み合わせると、すごく格好良く着こなせると思います。
ーであれば、ボトムスでいまっぽくアレンジするのもアリですよね。
ですね。ディテール満載でテック感のあるカーゴパンツなんかでも良いと思います。
ーなるほど。こちらはまた違ったタグが付いていますが。
〈アルマーニ コレツィオーニ(ARMANI COLLEZIONI)〉ですね。デュージョンラインとして1979年にスタート。色気のある大人のためのデザインが特長でしたが、2017年にエンポリオに統合されてしまい、いまは存在していないラインです。その中でもこの個体はタグに“GIORGIO ARMANI”と記されている初期モデル。90年代くらいでしょうか。
アルマーニ コレツィオーニのセットアップ(ボトムスもあり) ¥66,000(アツラエ ヴィンテージ)
生地に触れて実際に着てみると、ラインごとの違いもよく分かります。ジャケットでいえばシルエットはそんなに変わらないんですが、エンポリオの方は化繊を混ぜたりと少しザラっとした質感の生地に採用し、コレツィオーニはウールアンゴラやシルクですごく滑らかなタッチだったりと高級感があります。また今回紹介する個体は、どれもバブリーなイメージに反して、ラペルのゴージラインがやや高めで古臭さを感じさせません。
もうひとつも〈アルマーニ コレツィオーニ〉ですが、こちらはタグから“GIORGIO”の文字が無くなっているので、ビジネスラインになった2000年秋冬コレクション以降のモデルです。
アルマーニ コレツィオーニのセットアップ ¥55,000(アツラエ ヴィンテージ)
ーこうして古着で見つかるのってジャケットが多いんですか?
はい。とはいえ、元々はもしかしたらセットアップだったのかもしれませんね。それがバラで売られているケースも少なからずあるかと。
ーでは、アルマーニのジャケットを探す際に「ここをチェック!」的なポイントがあれば教えてください。
どのジャンルにも言えますが、その時々のトレンドがありまして。以前は芯地も肩パッドもないアンコンジャケットが人気でしたが、今は逆に肩パッドが入っていて袖丈も着丈も長め。ラペルはちょっとワイドでクラシカルなディティールのモノが好まれています。
ーファッションシーン全体がジェンダーレス化していると思いきや、こういったある種、男性的なアイテムが人気だという点も意外で興味深いです。
それこそ、まさに違和感ですよね。そういった世の中の空気感にフィットするブランドという意味でも、今〈アルマーニ〉に注目してみるのは面白いと思います。
川崎達也 / atsurae vintage オーナー
「UNITED ARROWS(ユナイテッド アローズ」で約14年間キャリアを重ね、2021年10月8日に自身がオーナーを務める「atsurae vintage(アツラエ ヴィンテージ)」を、古着屋がひしめく三軒茶屋・茶沢通り沿いのビル2Fにオープン。メンズ・ウィメンズともに、ヴィンテージからグッドレギュラーまで、独自の審美眼で選び抜かれた個性豊かなアイテムが並ぶ。
インスタグラム:@atsurae_vintage