1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。今ではさらに“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。
この連載も15シーズン目に突入! 2巡目のスタートを切る第117回目は、古着屋急増中の三軒茶屋エリアの新店「クリップ(KLIPP)」。今回はどんなニュー・ヴィンテージを紹介してくれるのでしょうか!?
Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii
YUKI & KOUHEI / KLIPP ディレクター & 店舗統括
Vol.117_トリコ コム デ ギャルソンのラペルドジャケット、ニットカーディガン
―今回は、どんなニュー・ヴィンテージを紹介いただけるのでしょうか?
前回は、日本だけでなく世界のファッション・ムーブメントの中で、トップトレンドと次にきそうなネクストトレンドの交わる辺りとして、普遍的人気を誇る〈ナイキ(NIKE)〉のゴルフラインとテニスラインを紹介しましたが、今回は時代の空気感にマッチする日本発のブランドにフォーカスしたいと思います。それが〈トリコ コム デ ギャルソン(tricot COMME des GARÇONS)〉です。
ー〈コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)〉や〈コム デ ギャルソン オム(COMME des GARÇONS HOMME)〉のオールドピースはアーカイヴ・コレクターの間でも高騰していますが、「そもそもトリコって何?」って人が読者にも多いかと。まずは、どんなブランドなのか説明をお願いします。
言わずと知れた日本を代表するブランドのひとつにして、時代ごとにいくつものラインが存在することでも知られている〈コム デ ギャルソン〉。中でも〈トリコ コム デ ギャルソン〉は、フランス語で“編み物”を意味するトリコットをその名に冠するように、ニット類にのみ特化したウィメンズラインとして1981年にスタートしました。
その後、ニット以外に布帛のTシャツも展開するようになり、1987年にデザイナーが川久保怜氏から渡辺淳弥氏へバトンタッチ。ちなみに、元〈カラー(kolor)〉のデザイナーとして活躍していた阿部潤一氏が、コム デ ギャルソンに入社して最初に配属されたのもトリコだったとか。そして、2002年に栗原たお氏が、デザイナーに就任。2022年春夏シーズンからはブランド名も〈タオ(Tao)〉に変更されたので、いまは亡きブランドである。ともいえます。
ー本連載でウィメンズのアイテムが取り挙げられるのは初です。
たしかにウィメンズだし“ガーリー”と表現されることが多いブランドですが、実は〈コム デ ギャルソン〉のDNAを継承しつつも、日常的に身に着けやすく幅広い層に馴染むようなアイテムが揃っています。ことアーカイヴという視点でいえば30代のぼくら世代でも目新しさを感じますし、若い世代にとってはさらに新鮮なんじゃないかなと。
ー言語化が難しいところですが、言わんとするところは分かります。ところで、こういったコレクションブランドのアイテムで“アーカイヴになる・ならない”の違いってどこにあるんでしょうか?
やっぱり再現性じゃないでしょうか。マーケットに出てくる数の多寡が、”アーカイヴになる・ならない”のひとつの条件にあると思います。たとえば、〈イッセイミヤケ(ISSEY MIYAKE)〉のボンバージャケット、〈メゾン マルジェラ(Maison Margiela)〉のハの字ライダース、ギャルソンの縮絨ジャケットなんかがそうですよね。
ただそれらも特別なアイテムとして作られたのではなく、当時はインラインの中のひとつだったモノを買い手側が勝手に名作と位置付けた結果、アーカイヴと呼ばれるようになったワケで。逆にアーカイヴに“ならなかったモノ”の方が大多数だし、その中にこそニュー・ヴィンテージは眠っていると思うんです。で、そこで重要となるのが“その時々のトレンドやムードに寄り添ったモノ”かどうか。
ーなるほど。たしかに時代とともに価値観は変わるものだし納得です。その上で、ご紹介いただくのが?
1着目はウール素材のラペルドジャケットです。1990年製で最大の特徴はアシンメトリーな裾の切り替えでしょうか。しかも華奢で着心地も軽い。内側の仕立ても美しいし、着丈が短くてアームも細めですが、フロントの合わせが左前のユニセックス仕様となっているため、メンズでもサイズさえ注意すれば全然イケちゃいます。
トリコ コム デ ギャルソンのラペルドジャケット ¥33,000(クリップ)
ーこの歪さと細部の丁寧な作り込みにギャルソンみを感じます。
ですよね。そしてもう1着が、同じくウール素材のニットカーディガン。タグに書かれた情報によると2012年製で、それでも10年以上前。こちらは一つひとつ色違いになったフロントボタンと、部分的にシアーな編みデザインが特徴。アームも非常に細く、ジャケット以上にタイト。で、これがまたボタンホールのかがりもすごく丁寧で、細部に至るまでこだわりを感じさせる“らしい”アイテムです。
トリコ コム デ ギャルソンのニットカーディガン ¥25,300(クリップ)
ーたしかに。最近の若い世代はスタイルも良いし、コンパクトで短丈のトップスを好むので相性も良いかと。
そもそも“メンズがウィメンズの服をあえて着る”っていうアプローチ自体が、すごく懐かしいなっていうのもあります。ぼくら世代が、若い頃に手っ取り早くファッションの壁を突破する手段がそれだったじゃないですか(笑)。いままたそういうテンションが巡ってくるとイイなって。
ー同時にスタイリングにどう差し込むか、のセンスが問われますね。
いまの気分だとワイドシルエットのスラックスやジーンズに、インナーはタンクトップ。で、シャツを着た上に羽織るレイヤリングが鉄板。で、もう少しファッションしたいなら、フレンチブルーのシャツにネクタイを合わせて、フロントのボタンは全開けで着るのもアリ。Aラインシルエットは昨今の定番でもあるので、イメージがすぐつきますよね。あとはチノパンで合わせてもイイですよね。ギャルソンからのジュンヤからの~という文脈で紐付けて着てもらえれば楽しいし、自由度も広がると思います。
ー地味なアイテムではあるけれど、着てみた瞬間に分かる格好良さがあるというか。
いわゆるトゥルー・ヴィンテージやアーカイヴ・ピースって格好いいんですが、キャラ立ちと存在感が強烈すぎて生半可な覚悟では、「服に着られている」感じになっちゃう。その点、このカーディガンなんてスッと溶け込むと思うんですよ。
パッと見は普通だけど、分かる人が見たらボタンも可愛いし、「アレ? それって…」「これ、ギャルソンのトリコなんですよ」ってなる。それくらいのテンションが理想的です。あくまで着こなしてこそのファッションですからね。トリコのアイテムを若いメンズが着こなしていたら絶対に格好いいので、ぜひお試しあれ!
YUKI & KOUHEI / KLIPP ディレクター & 店舗統括
2025年4月19日に、飲食店と古着屋ひしめく三軒茶屋・茶沢通り沿いにオープンした「クリップ(KLIPP)」。国内外のデザイナーズやメゾンブランドのレギュラーとヴィンテージが、高感度セレクトショップを思わせるクリーンで洗練された空間に並ぶ。姉妹店に高円寺「ヒムセルフ(HIMSELF)」、下北沢「ベイブ ストア(BABE Store)」がある。
インスタグラム:@klipp_sangenjaya