1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。今ではさらに“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。
この連載も15シーズン目に突入! 新たにショップが全て入れ替わり、早くも2巡目の2番手。バトンを受け取ったのは「アヤワスカ洋服店」の橋本立希さん。さて、今回はどんなニュー・ヴィンテージを紹介してくれるのでしょうか!?
Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii
橋本立希 / アヤワスカ洋服店 店主
Vol.118_ポロ ラルフ ローレンのネクタイ
―今回、紹介いただくニュー・ヴィンテージは?
前回に引き続き、〈ポロ ラルフ ローレン(Polo Ralph Lauren)〉ネタで、ウェアではなく小物。アメリカントラッドにおける必須アイテムで、創業者のミスター・ラルフ・ローレンのキャリアのスタート地点である“ネクタイ”に注目したいと思います。ルックには毎シーズン登場しますし、〈ポロ ラルフ ローレン〉のスタイルには欠かせないスパイスといえます。
ーそのルックのこなし方がまた格好いいんですよね! ただ、〈ポロ ラルフ ローレン〉に限らずインターナシュナルブランドのファッション小物って、何となくライセンス品のイメージが…。
たしかにそれは一理あります。アメリカ規格とそれ以外の見分け方として、日本とカナダの規格は別会社の生産なのでタグの形状が異なります。アメリカ規格のものはタグにRN41381とRNナンバーが記されているので、そこを見てみるのも良いかと。かといってライセンス品が偽物というワケでは決してないので、品質とデザインで好みのモノを選べばイイと思います。
ー実際、手に取るお客さんは多いんでしょうか?
〈ポロ ラルフ ローレン〉だと当店の場合、シャツ・ネクタイ・帽子類が3トップなので、手に取るお客さんは多いですね。そんなこともあって〈ポロ ラルフ ローレン〉のネクタイに関しては、かなり充実していると言えるかなと。
ーなるほど。すごく興味深いのですが、スカーフと並んで派手な柄物の印象が強く、視線を集めると同時にどう取り入れれば良いのかが難しそうな…。
アイテム単体ではなく“どうスタイリングするとおもしろいか”という視点でウチの店はアイテムを集めているので、今回もその前提でセレクトしました。ジャンルとしては2つ。まず1つ目は“モチーフイラストプリント”。鳥や馬、犬などの動物と景色の組み合わせや、ゴルフクラブや馬具、時計などの道具をよく見かけます。この辺の題材選びは〈ポロ ラルフ ローレン〉のベースに英国スタイルがあることに関係していると思われます。
ポロ ラルフ ローレンのネクタイ 各¥8,000(アヤワスカ洋服店)
もう1つは“ジャガード”。ジャカード織のみで柄を表現しているタイプもあれば、イラストプリントとのコンビのタイプもあります。表面の凹凸によって表情に深みが生まれる一方、主張も強くなるのでやや難易度は上がるかも。ちなみにパターンの連続ではなく、全体で1枚絵になっているパネルタイプはこちらに多く見られます。
ポロ ラルフ ローレンのネクタイ 各¥8,000(アヤワスカ洋服店)
また、今回用意した中でレアなのが老舗高級百貨店とのダブルネーム。これなんかだと「サックス フィフス アベニュー(Saks Fifth Avenue)」というニューヨークの高級百貨店で、ここ以外にも同じく高級老舗百貨店として知られる「ニーマン マーカス(Neiman Marcus)」や「ブルーミングデールズ(Bloomingdale’s)」とのダブルネームも存在します。
ーネクタイも年代の見分け方とかあるんですか?
タグを見れば、ある程度はわかりますよ。ぼくの経験則上、90年代前半ぐらいまではアメリカンメイドが多く、90年代以降になるとイタリアンメイドが多いように感じます。
ーせっかくなので、合わせるシャツの正解を知りたいです。
「お好みで」と言いたいところですが、1番合わせやすいのがクレリックシャツ。襟と身頃がすでに配色になっているので、簡単に玄人っぽさが演出できますし、なにより柄物や色物のネクタイが映えるのでオススメです。もしくは、カジュアルなBDシャツで襟のボタンを外してタイを巻くという“あえての選択”もアリ。これからの時期ならネルシャツに合わせるのも手。ちょっと厚手のチェック柄のやつにブラックウォッチのネクタイとか。メチャメチャ格好いいと思います!
ー柄オン柄は難易度が高そうですが。
難しそうに思えるでしょうが、その分、挑戦する価値はありますよ。ネクタイに入っている色を他アイテムに取り入れば統一感も出やすいし、全然違う色や柄で合わせる“ハズシの美学”を意識してみるのも、めちゃめちゃアリ。
ー先ほどチラリとお話しに出たように、柄物ネクタイには総柄タイプと一枚絵のパネルタイプがありますが、どちらが使いやすいんですかね?
ネクタイ単体で見ると剣先に視線が集まるため、アートピース的には後者でしょうが、実際に巻いてベストや上着をレイヤードした際に重要なのは、Vゾーンにあたる結び目周辺。なので使いやすさは前者だと思います。皆さんもネクタイを探す際は、その辺を意識してみてください。
ーネクタイの結び方の正解も教えてください。
結び方はシングルノットがお約束。結び目をグッと小さくしつつ、ディンプルを作って…ネクタイピンやタイバーがあれば、なお良し。仕上げにバサッと持ち上げて立体的に仕上げて完成です! スタイリングという視点では、ただのアイビールックではなく、ニットキャップやキャップ、クルーネックのスウェット、チノパンツで崩しながらネクタイをプラス。そんなブラックアイビーのノリも好きですね。
ーちなみに…ネクタイを巻くのが苦手な人は?
であれば、巻かないで首にかけて垂らすだけというのもアリ。ボウタイの場合、〈ポロ ラルフ ローレン〉の定番テクとしてルックで使われていたりも。そもそもシャツを着ない人であれば、ボトムスのベルトループに通してベルト代わりにするのもおもしろいと思います。実際、定番としてネクタイ生地のベルトも存在していますしね。ただ一点、耐久性には注意が必要。特にシルク素材はスレに弱いので、買う際は剣先をチェックしましょう。ちなみに、ウチではコンディションの良いもののみ扱っているので心配ご無用。ベルトのように巻く際は、消耗品だとご理解の上、自己責任でお願いします!(笑)
ーミリタリーやワーク、スポーツのアイテムと同様で、消耗品だからこそデザインが好みで状態の良い個体との出会いは貴重ということですね。
以前、オーストラリアの〈ポロ ラルフ ローレン〉のVMDチームが、当店でラルフのネクタイを大量に購入していったんですが、その際に「手に入れるのが難しい」とも話していました。それこそ一期一会ということです。あと、ネクタイの合わせ方が分からなくて二の足を踏んでいる方は、お店のスタッフに合わせ方を訊いてみてください。そこからコミュニケーションが生まれて、よりファッションを深く楽しむこともできます。結局、古着の魅力って“いかに自分だけのオリジナリティを見つけ出せるか”なので、そのきっかけにもなるアイテムとして、ぜひこの機会に注目いただければと思います。
橋本立希 / アヤワスカ洋服店 店主
代々木公園駅・代々木八幡駅のすぐ近く、探検気分でビルのエレベーターを降りた地下1Fに広がるハッピーでヒップな空間、そこが「アヤワスカ洋服店」。オープンは2021年3月。音楽や映画など、オーナーが影響を受けたカルチャーの匂いがするアイテムを、100年前のトゥルー・ヴィンテージからグッドレギュラーまで幅広くラインアップ。
インスタグラム:@ayahuasca_clothes