デザインチームを公表しないアノニマスなブランドでありながら、着実にその存在感を高めている〈シティー カントリー シティー(City Country City)〉。そんなブランドの実態を探るべく、設立当初から親交の深いクリエイターたちへのインタビューを行う連載企画。謎のブランドの気になる中身を、あらゆる角度から迫っていきます。
今回登場するのは、10月にコラボレーションを発表したばかりの〈ブックワークス(BOOK WORKS)〉のオスカー・マン。自身のブランドについてはもちろん、音楽を共通点に実現したコラボレーションの裏側、そしてクリエイションをするに当たって大切にしていることを語ってもらいます。
10代の頃の自分を満たすものであり、いまの自分も着られるもの。
ーはじめに〈ブックワークス〉について教えてください。
オスカー:音楽愛にあふれる友人と一緒にスタートしたブランドなんだ。“BRAND”という単語から“R”を抜くと、“BAND”という言葉が生まれるよね。〈ブックワークス〉もまさにバンドなんだよ。あるときは自分がバンドリーダーになることもあるし、ソロとして活動することもある。ときにはサイドマンのように裏方に徹することがあれば、録音に関わったり、何もしないでただその場にいるときだってある。それもバンドの一部だよね。つまり、常にひとりではなく、複数のひとたちで成り立っているものだと考えているよ。
ークリエイションのすべてに音楽が流れていると思うけど、その上で大切にしているのはどんなことですか?
オスカー:クラシックをひとつの“語りの手段”として用いること。クラシックに敬意を払いながら、それを通じて物語を語りたい。たとえばジャズの多くは、“スタンダード”の上に成り立っている。「グレート・アメリカン・ソングブック」も、いわばスタンダードだよね。
ージャズのコードのように?
オスカー:そうだね。コード進行には著作権がない。だからみんなそのコードを使って、別の曲を書くことができる。つまり、歴史の上に積み重ねていくということ。でも、その土台にあるのは“クラシック”だよね。それが「クラシックをリスペクトする」って話につながるとぼくは思う。そうした表現を通して、オーディエンスにメッセージを投げかけたり、笑わせたり、あるいはそのひとが自分の内面を探るきっかけになったりする。それがぼくの役割だと思う。
ーデザインを通してそうした問いかけを表現するのは簡単ではないですよね。。
オスカー:ぼくのデザインの多くは、10代のころに手が届かなかったものを、いま形にしているような感覚なんだ。言葉として表現するのがとても難しいけど、昔の自分に服を選んでいるような感じ。当時の自分をよろこばせたいというか、若い頃の自分が“かっこいい”と思っていたものを、もう一度ちゃんと見つめ直しているというかね。もちろんいまはティーエイジャーではないし、ぼくはもう41歳なんだけど、その上で自分が着られるものを考える。当時の自分を満たすものであり、いまの自分も着られるもの。その両方を同時に表現するんだよ。
ー魅力的なレコードを見つけて、それが自分にとってのクラシックになり、ずっと聴き続けるような感覚というか。
オスカー:まさにそんな感じだよ。ぼくは魅力的なジャケットよりも、音そのものに興味がある。自分の好みに合うサウンドで、まだ知らない曲を探してる。誰にでも、自分が惹かれる音ってあるでしょう?
ーたしかに。耳になじむ音というか、そんな感じですか?
オスカー:その“好きな音”にハマるような、でもまだ出会ってない曲を見つけたい。だから、“好みの音”だけど“知らない曲”を探すって感じかな。〈ブックワークス〉でも、そういうことを表現したいと思っているよ。
すべてはストーリーから広がっていく。
ー〈CCC〉とは、どのようにして出会ったんですか?
オスカー:共通の友人を通じて。たとえるなら、彼が〈CCC〉のサウンドをぼくに聴かせてくれたんだ。それがぼくの耳に響いた。だから何かを重ねたいと思った。そんな感じだよ。
ー〈CCC〉のどんなところに共鳴したんですか?
オスカー:彼らは音楽をファッションというメディアを通して表現している。彼らが選ぶリファレンスも素敵だし、それを通じて〈CCC〉のメンバーがどういうひとたちなのかが想像できる。どんな音楽を聴いて、どんなことを学んできたか、とかね。ぼくたちが大事にしているリスペクトや愛がそこにあって、とてもナチュラルに通じ合えると思った。たくさんの言葉を交わさなくても理解し合えるというかね。それですぐに親しみを感じたんだ。
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ー今回のコレクションのデザインは、どのようにして生まれましたか?
オスカー:きっかけはジョン・コルトレーンの『Good Beit』という曲から。コルトレーンが若い頃に録音した曲で、7分の演奏の中にストーリーがある。ぼくもそこからインスピレーション得て、直感的に〈CCC〉をロゴの中に入れようと思いついたんだ。
それと同時に『The Days of Wine and Roses』のことも考えていて、すごくロマンティックなイメージが思い浮かんだ。そのインスピレーションはTシャツのバックプリントに表現したよ。いまの世の中ってかなりヘクティック、つまり不安定で落ち着かないでしょう? そんな混沌とした世界の中で、このロマンティックな感覚は、もっと純粋でシンプルなもの、たとえば楽しさや、よろこび、そういうものに立ち返ろうっていう気持ちの表れでもあるんだ。
ーなるほど。どちらのストーリーにも共感できます。
オスカー:すべてはストーリーから広がっていくからね。どちらの曲も、そのときの自分の気分にピッタリとフィットしていた。だからこれでいこうと自然に思えたんだ。
ー実際に完成したアイテムに触れて、どんなことを感じますか?
オスカー:すごく気に入っているよ。まさに自分の制服だと思えるくらい、しっくりなじんでいる。完成度が高くて、本当にうれしい。これは街でも着られるし、カントリーサイドでも通用する、そんなユニフォームだと思う。
それからもうひとつ、シンプルなものをつくることの難しさについても感じるよ。シンプルって、いかにも簡単そうに見えるけど、実はとても難しい。今回それがちゃんと形になったのは、本当に特別なことだと思う。思っていたとおりのものができたという意味で、とても満足しているよ。
ーコラボレーションを振り返って、どんなことを思いますか?
オスカー:〈CCC〉のメンバーがニューヨークに来て、今回のコレクションの撮影を一緒にやったんだけど、ぼくにとってはあの時間がピークだった。飛行機のフライトでいえば、最高点に到達した感じ。そこから時間が経って、いまは着陸を迎えるような感覚かな。だけど、これからお客さんの手に渡って、彼らが自分のスタイルに今回のコレクションを取り入れることで、またフライトできる。それがすごく楽しみだな。
まだ鳴っていない音をキャッチしろ。
ーオスカーさんにとって、音楽は日常の一部になっていると思うんですが、常に音楽が流れる環境にいるのでしょうか?
オスカー:いまは自分の子どもと一緒に音楽を聴くことが増えてきているよ。
ーじゃあ、自分のための音楽を日常的に聴いているわけではない?
オスカー:うん。というのも、ぼくは“ながら聴き”ができないタイプなんだ。何かをしながらBGMとして聴くことはなくて、“意図的に聴く”っていうスタイルじゃないと難しい。ちゃんと集中して、音に向き合いたいんだ。
ーディープリスニングするということですね。
オスカー:まさに。昔、ぼくの父が“Listen faster”ってよく言っていたんだよ。つまり、まだ鳴っていない音をキャッチしろってことなんだけど、すごく面白い考え方だと思う。ジャズを学ぶっていうのはまさにそれで、いろんなコードやフレーズを“先に聴く”んだ。ピアノも、ドラムも、ベースも、先に把握しておかなければならない。
ー予測するということではなく?
オスカー:予測を超えて理解するということ。まだ起きてないけど、すでに知っているという感覚。もうそれを理解して進めるというかね。
ーすでに曲自体は知っているわけですよね?
オスカー:曲のことは知っているけど、ジャズは即興的な要素が強いから、他のプレイヤーが次にどんな手を繰り出すのかはわからない。でも、それをイメージするんだ。だからこそ信頼がものを言う。それと同時に自分自身も曝け出さなければいけない。演奏というのは、心をそのまま見せることでもあるんだよ。
ー難しいけれど、なんとなくわかります。
オスカー:それってDJも同じだと思う。DJも、いまかかっている曲のつぎになにをかけるのか。頭で考えるよりも先に、自分の心の中で知っておかなければいけないと思う。どの曲をかければフロアが動き続けるか、誰かの感情に訴えかけることができるのかっていうことを理解しておかないといけないよね。
もちろん、つぎの一手を間違えることもある。だけど、ぼくらはマシンではない。そうやって間違うことに意味があるし、そこから学ぶことができるから。根本に“当てたい”という気持ちがあれば問題ないんだ。結局のところ、“聴く”ことは演奏することよりも大事だと思う。そっちのほうが本質的だよ。
ーレコードを掘っているときに、針を落とした一音目でその曲の魅力を感じ取れる瞬間があります。その感覚に近いというか。
オスカー:それはぼくがさっき話した「自分の好みに合うサウンドで、まだ知らない曲を探してる」という感覚に近いと思う。たとえその曲が予想した方向に進まなかったとしても、自分が好きなサウンドであれば、その流れを受け入れられるし、むしろその“旅”を楽しめる。みんなそれぞれ惹かれる音っていうのがあると思うし、その音に自分の耳を預けるのは、すごく良いことなんじゃないかと思うよ。
ぼくが〈CCC〉を知ったときもまさにそれで、彼らはクリエイションを通して音楽の旅を表現していると感じたんだ。
ー最後に、今後〈CCC〉に期待することはありますか?
オスカー:これからも音楽を分かち合ってほしい。そして、教え続けてほしい。シンプルだけど、それがすべてです。いまはたまたまファッションという手段を使って表現しているけれど、それは偶然だと思う。それは料理でもいいし、ガーデニングでも、絵画でもいい。たまたまいまは服がそのメディアになっているだけで、根本にあるのは表現したいという気持ちであるはずだよね。とくに〈CCC〉が“クラシック”をリスペクトしているからこそ、新しいことも伝える力があると思う。それを期待しているよ。
オスカー・マン
1984年、オーストラリア・メルボルン生まれ。現在はニューヨークを拠点に、DJ/ミュージシャン/ラジオパーソナリティとして活動しながら、ブランド〈BookWorks〉を主宰している。幼少期から音楽に親しみ、レコードショップやその周辺文化から大きな影響を受けたことが、彼の表現の土台となっている。ニューヨークのニュースクール大学でジャズとコンテンポラリーミュージックを学び、現在もジャンルを越えて音を探究し続けている。
Photo_Sara Hashimoto
Text_Tsuji
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BOOK WORKS
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