1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。いまではさらに“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。
この連載も16シーズン目に突入! 新たにショップが全て入れ替わったトップバッターの第121回目は、墨田区向島に居を構える「フラットストア(FRAT STORE)」。片山さんと黒田さんのお2人は、どんなニュー・ヴィンテージを紹介してくれるのでしょうか!?
Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii
片山椋太/FRAT STORE ディレクター & 黒田寿輝也/ オーナー
Vol.121_ドッカーズのデニムスラックス、リーバイスのデニムスラックス、パミールのデニムスラックス
―本連載は“トゥルー・ヴィンテージのように記録や記憶に残っていくようなグッドレギュラーをいまの内に探す”のがテーマです。では、「フラットストア(FRAT STORE)」にとってのニュー・ヴィンテージの定義とは?
なるほど。ぼくらは2人とも1994年生まれの31歳なんですが、10代後半で上京した当時、お金がなかったこともあり、90’sのネルシャツや〈リーバイス(Levi’s)〉の「501」ブラックといったレギュラー古着を、頑張って買った宝物のトゥルー・ヴィンテージと合わせて自分なりに精一杯のオシャレを楽しんでいました。
ー若い内はみんなそうですよね。お金はないけれど腹一杯になりたいから、チャーハンとライスを頼んで、混ぜてチャーハンライスに増量して楽しむみたいな。
ちょっと違う気がしますが、そうですね(笑)。で、そこから時を経て今回、改めて“ニュー・ヴィンテージとは?”と考えた際に、いまもよく着ていて魅力的なモノとして捉えているモノが、そもそも自分らにとってのニュー・ヴィンテージなのかなと。これは「フラットストア」のコンセプトである“バック・トゥ・ザ・ベーシック”に繋がる部分でもあります。アイテムとしての定義に関していえば、ウチの店では市場的な希少価値はあまり気にしていません。それよりもファッションとして、そしてデイリーユースとして取り入れやすいかどうか。これが1番にあります。
ーそんな「フラットストア」のお2人が今回、ご紹介いただくニュー・ヴィンテージは?
ぼくらが普段から愛用していて、オリジナルでも作るほど好きなデニムスラックスです。基本的にはメイド・イン・USAのブランドものをピックしていますが、(ヴェルサーチ(VERSACE)〉〈ミッソーニ(Missoni)〉〈トラサルディ(Trussardi)〉といったイタリアブランドからも、良いツラをしたのが出てくるんですよ。特に1990年代〜2000年代初期に日本でライセンス生産されたモノに、シルエットがキレイなモノが多い印象です。
ーとなるとファッションとしても取り入れやすいということですね。
はい! ファッションのトレンド的にドカンと極太ストレートが流行っていますが、テーパードを効かせたシルエットが合わせやすく、5年後、10年後もクローゼットの中にスタンダードとして居残り続ける。要はモノ自体の価値が上がるのではなく“オーナーがそのモノに感じる価値”が上がるっていう。それもまた、ひとつのニュー・ヴィンテージの姿ではないでしょうか。
ーたしかに。それってお店のある墨田区向島というエリアに起因するものですか?
それは多分にあります。20代後半〜30代前半の子育て世代が休日に気取らず着られて、新品の服にも馴染むベーシックなアイテムをお探しのお客様も多いですし。ということで早速の1本目がこちらの〈ドッカーズ(DOCKERS)〉。平たく言うとリーバイスのチノパンラインで、今年他社に売却されて話題になりました。大手がやっていて、しかも現役ブランドということで仕入れしていると意外と集まりやすいので、ご存じの方も多いかと。
ドッカーズのデニムスラックス ¥12,800(フラットストア)
ー“ならでは”のストロングポイントを教えてください。
なんとなく〈ドッカーズ〉は穿き込まれてガッツリ色落ちしてセンタークリースが取れていても、なぜか綺麗に穿けるモノが多い気がします。多分、ワタリの太さやタックの入り方の塩梅なんでしょうね。こちらはウエストが平置きで38〜40cmくらいの割に、裾幅約22cmで数値的にはかなりテーパードがキツく思えますが、穿くとほぼストレート寄り。革靴にもスニーカーにも合わせやすくオススメです。
ー「フラットストア」的に着こなすなら?
落ち着きのあるトラッドな着こなしにカジュアルな雰囲気をひと挿しするも良し、逆にクルーネックのスウェットにデニムスラックスを合わせて、アメカジにクリーンなイメージを加えるも良し。ちょっと小奇麗な格好をしたい時に、上物は適当でもなんとなくキマった雰囲気が演出できるので、お試しあれ。
ー他にも2本ご用意いただきました。
リーバイスのデニムスラックス ¥14,800(フラットストア)
ひとつは〈リーバイス〉のちょっと変わってるやつで、タグには“LEVI’S Sportswear”と表記されています。この紙タグの感じや、調べた情報を統合するに80年代〜90年代と予想。ちなみにウィメンスなのでサイズ表記は18。かなりのライトオンスで、特筆すべきはベルトループの細さ!(笑)。ほとんどのベルトが通らないので、ウチでは“シューレースをベルト代わりにする”スケーターテクをお客様にはオススメしています。コレも穿くとちょっと面白いんですよ。生地が柔らかくドレープも綺麗に出るし、〈ヴァンズ(VANS)〉などのローテクスニーカーを履いた際の裾たまりも抜群。股上が深いので腰履きしてもいいし、ハイウエストで脚長効果も狙える。ちなみにハイウエストで穿いた際に脚長効果が狙えるのは、デニムスラックス最大の強み。活かしていきましょう(笑)
ーこのウエストサイズからして、相当ふくよかな人用だったんでしょうね。
ウィメンズで18はかなりデカイですからね。で、最後は〈パミール(PAMIR)〉。アメリカものに多いアウトタックではなく、イタリアものに多いインタックということあり、恐らく最初にお話ししたイタリアブランドの文脈なのかなと勝手に思っています。またヒゲやアタリなど、やたらと雰囲気の良い色落ち具合もポイント。正直そこは求めていないんですが、着用するとかなり細身で丈もちょい短め。綺麗なローファーにソックスでオシャレすると格好いいと思います。
パミールのデニムスラックス ¥9,800(フラットストア)
ーアメカジ的視点におけるデニムの魅力が落とし込まれたスラックス。そう考えると面白いですよね。
そう、そのなんか面白いレギュラー=ニュー・ヴィンテージというような感じで考えているので、まさになアイテムなのではと思っている次第です。ちなみにデニムスラックスが好きすぎてオリジナルでも作ったので、もしイイ感じの個体が見つからない場合は、ぜひそちらをチェックお願いします(笑)
片山椋太 / FRAT STORE ディレクター & 黒田寿輝也 / オーナー
2021年の8月にECサイトを立ち上げ、2023年2月に東京都墨田区向島に実店舗をオープン。公式サイトのトップにも記されているように、80年代〜00年代のグッドレギュラーがメイン。どのアイテムも状態・雰囲気ともに良し。肩肘張らず、フラットな気持ちで楽しめる。不定期でオリジナルアイテムも制作しており、最新作は3色展開されるデニムスラックス。
インスタグラム:@frat__store

