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【FOCUS IT.】日本酒への挑戦と探究。京都が誇る老舗メーカーの実験的プロジェクト・Gekkeikan Studioの世界へ。

若者の酒離れが叫ばれて久しいけれど、クラフトビールやナチュラルワインは確実にカルチャーとして浸透しています。味のバリエーションが多いだけでなく、ボトルのデザインで選んでみたり友達同士で飲み比べる楽しさがある。一方で、日本酒は国内で醸造されているいちばん身近なアルコールなはずなのに、玄人向けの印象があり敷居の高さを感じるのが現状です。そんなイメージを覆す実験的な日本酒をつくる「Gekkeikan Studio」が、新作の「no.6」をリリースしたということで、20代の若手編集部員が試飲会に参加してきました。

  • Photo_Shingo Goya
  • Text & Edit_Kazuki Sakaguchi
  • 目指したのは誰も体験したことのない日本酒。

    「Gekkeikan Studio」とは、京都の老舗日本酒メーカー・月桂冠による、日本酒の新たな可能性を探る実験的プロジェクトのこと。まだ誰も体験したことのない味わいを発見するべく、“酒を科学する”をキーワードに日々研究と実験を繰り返しています。専用の分析装置を用いてフルーツなど再現したい対象の味や香りの成分を測定したり、オリジナルの酵母を開発し少量で酒を仕込んだりと、その内容はまさに科学実験。

    実は、月桂冠はいち早く科学的なアプローチで酒に向き合った企業。明治時代の1909年に「月桂冠総合研究所」を設立し、1911年には、樽詰酒全盛の時代に全国ではじめて防腐剤なしの瓶詰め日本酒の開発に成功。その後も、常温で流通可能な生酒の発売や、糖質ゼロの日本酒の醸造など、さまざまな初事例を打ち立て業界をリードしてきました。

    そんなイノベーションの歴史に立ち返り、まだ誰も体験したことのない日本酒を生み出そうと2021年に発足したのが「Gekkeikan Studio」。新たな日本酒をつくったら試作段階で販売し、集まったフィードバックを次の商品開発に活かしています。これまで「no.1」から「no.5」までの個性豊かな日本酒をリリース。いかにもプロトタイプらしい名前に心がくすぐられます。

    左から、フレッシュフルーツのアロマ香るスムースな口当たりとメロンのような味わいのno.1。
    フルーティな香りとジューシーな果実感がより感じられる進化したno.1.1。
    桃やプラムを漬け込んだような香りと味わい、とろりと滴る濃密な舌ざわりのno.2。
    リアルな果実感を追求し、よりフレッシュで濃密な味わいに進化したno.2.1。
    パイナップルのような味わいと、温度が変わることで味の変化を楽しめるno.3。
    パイナップルらしい香りがより増強され進化したno.3.1。
    甘味や酸味のバランスから生まれる、華やかですっきりとした味わいのアルコール5%のno.4
    古代米を原料米の一部に使った、スパイスのような芳醇な香りと渋みを感じるno.5。

    ウイスキーのような日本酒!?

    Gekkeikan Studio no.6 ¥3,300(720ml)

    そんな「Gekkeikan Studio」からリリースされた新作が「no.6」。芳醇な樽の香りが特徴の超辛口の日本酒です。ラベルには木のグラフィックを配し、木材と日本酒の調和を表現。大きな漢字がドンと配されたラベルのものは近寄り難い印象があるけれど、これならスタイリッシュで手に取りやすそうです。

    コンセプトは「no.4」「no.5」に引き続き”健康”。「no.4」はアルコール度数を5%に抑えることで、「no.5」はポリフェノールやミネラルを多く含む古代米を原料に使用することで健康な日本酒を実現してきました。そして今回は、糖質ゼロの酒をベースにすることでヘルシーな仕上がりに。米を原料としながら糖質ゼロの酒をつくれるのは、月桂冠のたゆまぬ研究開発の賜物。この技術で特許を取得しています。

    試飲会の参加者に配布されたのは「no.6」誕生までのプロセスが記された樹形図。社内で樽酒への関心が高まったところから「no.6」の物語は動き出します。ひとくちに樽と言っても、使用する木によって香りはさまざま。そこで、ミズナラ・やまざくら・ホワイトオーク・くり・スギの5種類の木片をそれぞれ酒に漬けてみます。その結果好評だったのが、やまざくらとホワイトオーク。さくら×日本酒の組み合わせは意外性が少ないのに対し、後者はウイスキーのような香りを持ちながら味は日本酒というおもしろさがあったため、樽にはホワイトオークを使用することに。

    次にベースとなるお酒決めです。用意したのは、低アルコール酒、メロンのような香りの酒、超辛口酒、モモのような香りの酒の4種類。そこからテイスティングをし、超辛口とモモの2つに絞られました。そして決選投票の結果、蒸留酒のようなキレと日本酒らしい味わいを合わせ持つ超辛口酒をベースに決定。

    ここで終わらないのが研究熱心な「Gekkeikan Studio」です。これまで味覚で意思決定をしてきましたが、ここで香りの分析装置を投入。すると、一度は選択肢から外したスギの香り成分は分子が大きく、口のなかに残りやすいことが判明。この特徴をうまく利用すれば、時間差で香りが変化するという奥行きを生み出せるのではと仮説を立て、樽の蓋部分にスギを採用することに。

    そして、おもしろいのが樽の焼き方によって同じ木を使用していても香りが変わるということ。焼き方は、強火で内面を炭化させるチャーリングと、弱火でゆっくりと加熱して内面を焦がしていくトースティングの2種類。 今回は、バニラやカラメルを思わせる芳香が感じられるチャーリングを施した樽で熟成しています。

    ひとつのお酒が完成するまでの試行錯誤のストーリーは、まるで自由研究のよう。説明してくださった研究員の方から熱量や高揚感が伝わってきて、つくり手自身が楽しむことが柔軟な発想で新たな日本酒を生み出す秘訣なのだと感じました。

    キレの冷や、旨みの上燗、バランスの常温。

    研究員の方から直々に開発ストーリーを伺い胸が高鳴ってきたところで、テイスティングの時間がやってきました。まずは冷酒でいただきます。顔をグラスに近づけみると、スモーキーでどこか甘いウイスキーを彷彿とさせる香りが。口に含むと、味自体は辛口の日本酒。冷えていることや辛口の酒がベースになっていることもありスッと抜けるようなキレのよさがあります。嗅覚からの情報と味覚からの情報のギャップが楽しめる仕上がりに。

    「no.6」単体でももちろん楽しめるけれど、辛口だし食事との相性もきっといいはず。ということで、ペアリングも体験させていただきました。フードを提案してくれたのは、世界中にファンを持つ日本料理屋「野田」の野田雄紀シェフ。自身も、食材の新たな可能性を追求するためにあえてこれまでとは異なる調理法を試してみたり、ゴールを決めずにとりあえず旬の食材を集めて調理したりと、実験的な姿勢で食材と向き合っていることから「Gekkeikan Studio」のスタンスに共鳴し、腕を振るってくれたのだそう。

    まず一品目は鰤の燻製。「no.6」の樽にも使われているホワイトオークでスモークしています。仕上げにはグリーンレモンソルトとハーブオイルをひと回し。これと合わせるのが、40〜45度に温められた上燗。温度が上がることで味わいがまろやかになり、より酒の旨みを感じられるように。力強い燻製の味に負けず相乗効果を生み出してくれます。また、冷やでは感じられなかったスギ由来のボタニカルな香りが出現。鰤の仕上げにグリーンレモンやハーブを使用したのは、この香りと合わせるためなんだそう。さすがは食のプロ。緑で彩りを加えながら、香りの相性まで計算されています。

    日本酒と魚の相性がいいことは間違いないけれど、香りをリンクさせることでよりスムーズに調和し、料理の風味も酒の旨味も引き立てられることが実感できました。食べ物とお酒の組み合わせについて、なんとなく揚げ物にはビール、肉には赤ワインくらいの解像度しか持っていなかったので、ペアリングってこういうことなのか! と目から鱗です。

    続いては、常温の「no.6」に合わせ、玉露の茶飯、壬生菜のからし和え、あさりと玉露のお吸いものが登場。ちなみに、壬生菜のからし和えは月桂冠の誕生の地でもある京都の郷土料理です。常温は、冷酒のスッキリしたキレと上燗のまろやかな旨みのバランスを取ったような味わいで、どの料理との相性も◎。玉露のふくよかな甘みや旨み、壬生菜のピリッとした辛味も受け止めてくれる包容力があります。

    冷酒、上燗、常温と飲み比べたことで、温度帯によって表情を変えるという日本酒の魅力に気付けました。気分や料理に合わせて楽しみ方を選べるのはうれしいポイント。

    料理人の視点から見たペアリングについて話が聞けたところで、月桂冠の方にもペアリングにおすすめのフードを聞いてみました。

    「no.6」のいちばんの特徴はスモーキーな香りなので、そこに合わせるのがいいと思います。うなぎの蒲焼はかなり相性がいいはず。酒の味自体もかなりドライなので、脂っぽいものや味の濃いものと合わせるとそれを洗い流してくれて、また次のひと口が食べたくなるような効果が期待できます。焼き鳥なんかもいいかもしれません。違うテイストでいうと、チョコレートもおすすめ。樽の芳醇な香りを持っているので、ウイスキーのように楽しんでもらうのもいいと思います。

    これを聞いていた野田シェフからは、スモークサーモンや、鰹節を使った料理との相性もいいのではとの意見が。これならスーパーで買える食材で家庭でも「no.6」のペアリングが楽しめそうです。

    飲み比べできるテイスティングイベントの開催が決定。

    これまでの説明で、「Gekkeikan Studio」がつくる未知の日本酒を飲んでみたいと思った方も多いはず。そんな方に朗報です。今回ご紹介した「no.6」を含む、数銘柄を試飲できるテイスティングイベントが12月17日(水)に開催されます。場所は池尻大橋駅から徒歩1分にある「日(ひ)酒場」。この機会に、飲み比べて個性豊かなイノベーティブな日本酒の世界を探求してみてください。

    これまで正月くらいにしか飲む機会がなかったこともありどこか敷居の高さを感じていた日本酒ですが、クラシックなものばかりではなく「Gekkeikan Studio」がつくるような実験的なものもあることを知り、一気に距離が縮まった気がしました。ボトルのデザインもスタイリッシュだし、これまでに飲んだことのない味わいを楽しめるから、年末年始の友人や親戚との集まりに手土産で持って行ったら喜ばれるのではないでしょうか。

    INFORMATION

    Gekkeikan Studio no.6

    公式サイト
    インスタグラム

    Gekkeikan Studio no.6

    会期:12月17日(水)18:00〜21:00
    場所:日(ひ)酒場
    住所:東京都目黒区東山3-14-1 東山共同ビル 2階

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