〈ニート〉を手がける西野大士さんのトレードマークといえば、やっぱりメガネ。でも、そのルーツに〈アヤメ(ayame)〉の存在があることを知るひとは、意外と多くないかもしれません。10年以上前、西野さんは〈アヤメ〉のPRを担当し、同い年のデザイナー・今泉悠さんと二人三脚でブランドの成長の一役を担いました。今回、そんな関係性が時を経て、〈ニート〉と〈アヤメ〉のコラボレーションとして形になります。よくある協業ではなく、長い時間の積み重ねがあったからこそ生まれた、ひとつのメガネ。その裏側を探るために、まずは2人の出会いから話を聞きました。
- Photo_Sara Hashimoto
- Text_Yasuyuki Ushijima
- Edit_Kazuki Sakaguchi
PROFILE
1983年生まれ、兵庫県出身。小学校教師を経てフッション業界に転職。〈ブルックス ブラザーズ〉のプレスを経て独立した後、2015年にパンツ専業ブランド〈ニート〉をスタート。2017年にはプレスオフィス「にしのや」を立ち上げ、国内外のさまざまなブランドのPRを手がける。
PROFILE
1983年、茨城県出身。2010年にアイウェアブランド〈アヤメ〉を設立。2019年に千駄ヶ谷に直営店を構え、2024年には2つ目の旗艦店となる「ayamerow」を青山にオープン。
知られざるニート誕生秘話。
ー西野さんは前職の〈ブルックス ブラザーズ(BROOKS BROTHERS)〉のプレスを辞めた後、〈ニート〉を始める前に〈アヤメ〉のPRをされていましたよね?
西野:そうなんです。前職を退職してすぐにPRを担当させてもらいました。そのときのプレスルームは八幡通りにあって。
今泉:エーデルハイムね(笑)。あの物件はいろいろなブランドが事務所を構えていて、スタイリストの熊谷隆志さんにも「いいとこに事務所構えたね」って褒められました。
西野:それが2014年かな。〈アヤメ〉の設立が2010年なので、ブランドがスタートしてから4年目のときだね。
ーそもそもお二人の出会いはいつだったんですか?
今泉:大ちゃんが梅田の〈ブルックスブラザーズ〉からプレス就任のため上京してきて、共通のスタイリストさんから雑誌『Begin』の忘年会で紹介してもらったのが最初です。
西野:そうそう! それが2009年ぐらいだった気がする。そのときにちょうど今泉からアイウェアブランドをはじめるか、はじめたとかって話を聞いたな。
今泉:それこそ「ビームス」「ユナイテッドアローズ」「アーバンリサーチ」「ナノ・ユニバース」「シップス」のPRにも同い年が多いけど、彼らより出会うのが早かったね。
西野:ぼくらの世代は何か新しいことをしてやろうっていう血気盛んなやつが多くて、周りからはゴールデンエイジと言われたりして(笑)
ーどういう流れで西野さんは〈アヤメ〉のPRをすることに?
西野:実は〈ブルックス ブラザーズ〉を辞めるときに、別のある会社から熱烈なオファーをいただいていて。ただ、できれば会社員じゃない道を歩きたかったから、今泉からの誘いを受けることにしたんです。
今泉:当時〈アヤメ〉には店舗がなくて自由度が高かったからね。そしたら〈ニート〉が2年後ぐらいに生まれたし。
西野:〈ニート〉をはじめるときに、「パンツのブランドをやろうと思っているけど、どう思う?」って最初に相談したのも今泉でしたし、実は〈ニート〉のロゴも今泉がつくってくれたものなんです。ブランド名に迷っていたときに今泉がくれた「ブランド名は4文字以内」っていうアドバイスはいまだに鮮明に覚えてる。そう考えてみると、〈グッチ〉〈プラダ〉〈エルメス〉もそうだし、当時のドメブラだと〈コモリ〉とかも4文字以内だね。
今泉:4文字以内だと簡単に覚えられるから。あとは発音しやすいっていうのもあるかな。
西野:だから〈ニート〉っていう名前を思いついたときに「おぉ! 絶対覚えられるじゃん!」って興奮したのを覚えてます。いまでこそ笑いなしで〈ニート〉って呼んでもらえるけど、当時はニート=働かないのイメージが強かったので、賭けではありました(笑)
今泉:そんな時代もあったよね。
西野:余談だけど、いま、男性でも育休が取れるじゃない? ウチの顧客さんが育休明けで会社に〈ニート〉のキャップを被って行ったら、上司にかなり強めにツッコまれたんだって。
一同:爆笑
ーPRを担当されていた頃、西野さんは〈アヤメ〉というブランドをどう見ていたんですか?
西野:すぐに売れるブランドだと思ってましたね。展示会を覗くとファッション関係者がたくさん来ていたり、とにかく華やかで。メガネ業界以外からも支持されているのが分かりました。実はメガネ業界って特殊で、何も後ろ盾がないブランドが評価を得るのはすごく難しいんですけど、そのなかで立場を確立した〈アヤメ〉はメガネ業界の異端児なんですよ。いまでこそドメスティックのメガネブランドはたくさんあるけど、〈アヤメ〉はその“はしり”でしたね。
今泉:そうだね。有名なメガネのセレクトショップにも取り扱ってもらうのに、何回断られたか…。
西野:ちゃんとメガネ屋さんからプロダクトとして認められるように努力して、その結果、取り扱ってもらえるようになったのはすごいと思う。最近はメガネといえば鯖江というワードがひとり歩きしているけど、鯖江も閉鎖的で誰でも簡単につくってもらえるわけじゃないし。
今泉:それまでは取引先がメガネのセレクトショップだけだったけど、「ユナイテッドアローズ」とかセレクトショップの取引先は大ちゃんが切り開いてくれましたから。
普通ならありえないメタルフレームでのコラボレーション。
ーいまでこそ西野さんはメガネがトレードマークになっていますが、当時からメガネキャラだったのですか?
今泉:大ちゃん、最初はかけてなかったよね?
西野:もともとメガネは〈BJ CLASSIC〉しか持ってなかったんだよね。でも〈アヤメ〉に入ってからいろいろかけるようになって、いつの間にかメガネキャラが定着したっていう。まあ、アイウェアブランドのプレスなのにメガネをかけてないってのはあり得ないから(笑)
今泉:確かに(笑)。まさかこんなにメガネがトレードマークになるとは思わなかったけど。
ーそんなわけで今回のコラボレーションについてお伺いしたいのですが、これまでにも〈ニート〉と〈アヤメ〉でコラボしたことはあったのですか?
西野:型を一からつくるのは今回がはじめてですけど、いままでにもコラボ自体はやっていて、これが3回目になります。自分がもともと〈アヤメ〉でプレスをやっていたという背景を知ってくれていた広島の卸先から、「〈ニート〉と〈アヤメ〉のイベントをやりたい」というオファーがあって、そのときが最初でしたね。当時気に入っていた〈アヤメ〉の「KAGE」というモデルのレンズに〈ニート〉と刻印を入れてもらいました。
今泉:そのイベントのあと、同じく「KAGE」で別注モデルをつくったのが2回目だよね。それが淡路島の「N&N STORE」のオープンのときだった。それは型別注だから、今回がはじめてのゼロベースからのコラボ。
西野:メタルフレームの型を一からつくるのって大変でしょ?
今泉:工程数が全然違うからね。セルフレームの倍くらいの工程があって、その分緻密に計算していかないといけないから大変で。あと、金型をつくるのにかなりのコストがかかる。
西野:だからメタルフレームでのコラボレーションって、ふざけてるオーダーなんです。でも今回、今泉はそんな無茶を聞いてくれたわけですよ。話が盛り上がってとんとん拍子に進んだけど、この関係性じゃないと下手に頼めなかったと思う。
今泉:メタルの型別注はどこもやりたがらないからね。ウチとしてもコラボでやるのは今回が初。
ーこのメガネをつくるにあたって、意識したことはありますか?
今泉:大ちゃんが愛用していた古い〈ダンヒル〉のメガネがいい感じだったので、それがベースです。オリジナルのバランスを崩したくなくて、アレンジは最小限にしながら、違和感をなるべく少なくしてオリジナルのよさを活かす方向で仕上げました。
ベースとなった〈ダンヒル〉のメガネ(西野さん私物)
ーベースになった〈ダンヒル〉のモデルと今回のコラボプロダクトではどこが違うのですか?
今泉:まずは素材が違います。大ちゃんの〈ダンヒル〉はニッケル合金素材なので少し重いんです。だから今回は素材にチタンを使い軽くしています。特にtitaniumカラーはチタンの素地をそのまま使っているんです。
ーメッキコーティングしてないということですか?
今泉:そうです。ここに他の金属を混ぜてメッキコーティングすると、金属アレルギーをお持ちの方は反応してしまう場合があるから、〈アヤメ〉はあえて何もしない素地のまま使うことが多いんです。あと、ゴールドはツヤ出しをしてしまうとギラギラして見えてしまうので、砂打ちしてあえてマットな質感を出しました。
西野:元の〈ダンヒル〉はちょっとクセのあるデザインだけど、今回のプロダクトはなんとなく〈アヤメ〉らしさがあるよね。特にサンプルがあがってきたときに、レンズのシェイプにどことなく上品さを感じた。
今泉:〈ダンヒル〉のシェイプはちょっと印象が強すぎて、フレームの角にばかり目がいっちゃうからそこの角度を調整していて。あと細かいところで言うと、ブリッジ、ヨロイ、テンプルも既製品ではなく、全部一からつくっています。
ーでは西野さん、出来栄えはいかがですか?
西野:ブラウンのメタルフレームって珍しくないですか? 特にこれはお気に入りですね。
今泉:ブラウンはかなり渋いし、大ちゃんの雰囲気にも合うよね。モダンな服との合わせが相性いいと思う。
西野:メタルでつくるとなると普通なら、色はシルバーとゴールドぐらいじゃない。それにもう一色やるとなったときに、この色を提案してくれたのはかなりナイスだった。あと、ベースになっている〈ダンヒル〉は愛用していたけど、古いモデルだし英国ブランドということもあってフィット感に物足りなさがあって。その点、〈アヤメ〉のメガネは日本人に合わせてつくられていて個人的にいちばんフィットするから、〈アヤメ〉であの形を実現できたのはうれしいよね。
今泉:大ちゃんをリスペクトした上で、「ここはこうしたほうがいい」という提案はしたけど、そこはスッと受け入れてくれたよね。色に関しても大ちゃんのことをよくわかっているのでこんな感じにしますか、という風にすぐ決まりました。
西野:モデル名が「NEAT」というのもグッときたよね。
ー今泉さんはモデル名をつけるときのこだわりはあるんですか?
今泉:自分で言うのもなんですが、モデル名はちょっとふざけていると思います。ただ、それで愛着が湧いたり、モデル名がひとり歩きしてお客さんに知ってもらえるといいなと。
西野:え、これまででいちばんインパクトがあるのは?
今泉:「DODODO(ドドド)」だね(笑)。あとは、いちばん最初につけた「NEWOLD(ニューオールド)」は、子供のときに見たウィスキーのCMで印象に残っていて、いつか使いたいなと思ってたから思い入れがあるな。
西野:クラウンパントのモデルで、「SPIKE(スパイク)」っていう名前も印象的だった。あれはスパイク・リーから来てるんだよね?
今泉:そうそう。スパイク・リーがクラウンパントをかけていたから、そのままモデル名にして。
いい意味で“中途半端”。
ー西野さんはこのコラボモデル「NEAT」をどういった感じで合わせたいですか?
西野:ぼくは“中途半端”という言葉が好きでよく使うんですが、〈ニート〉はいい意味で“中途半端”なブランドなんです。ドレスでもなく、カジュアルでもないという立ち位置。その絶妙なポジションが、〈ニート〉が受け入れられた理由だと思うんです。今回のコラボモデルも、そんな〈ニート〉らしい中途半端さがあるからスニーカーでも合うし、革靴にも合うと思います。
今泉:実はこの大ちゃんが愛用していた〈ダンヒル〉はセミオートっていう形のドレスメガネなんだけど、もともとは航空用に生まれたティアドロップ、要はスポーツメガネからの派生なんだよね。そのティアドロップに角を付けてドレス仕立てにしたのがセミオートで、無意識のうちに〈ニート〉らしい中途半端な形を選んでいるのはおもしろいね。
西野:そうなんだ! それおもろい!
ー今泉さんはどう合わせるのがいいと思いますか?
今泉:ぼくはカジュアルにつけて欲しいですね。しかも女子が似合うと思います。トレンドとしてゴールドとかメタルフレームが人気だし、小顔に見せてくれるっていうよさもありますね。
西野:カップルでシェアして欲しいね。発売日もバレンタインだし。
今泉:ちょっとクラシカルな雰囲気もあるんですけど、それを現代の技術でつくり直しているので、キレイに仕上がっていると思います。メタルフレームはリムが細いので、顔を覆っている面積が少ない。だから、今日の大ちゃんみたいにニット帽とか頭の半分を閉めるアイテムと合わせると、いい感じにボリュームコントロールができるんです。
西野:自分で言うのもなんだけど、まさに〈ニート〉なんだよね。ほんといい意味で中途半端。
今泉:うちのインラインとも被らないし、ちょっとドイツっぽさもありつつ、けどラグジュアリーにも見えるし。中途半端っていい言葉だね(笑)
西野:ワードとしては悪い意味でとられがちだけど、おもしろいよね。外国の言葉ではそうそうないと思う。
今泉:若干、自虐っぽくもあるし、ある意味日本らしい。悪い意味で言われても、“だって俺だもん”と胸張っていきたいよね。

