1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。いまではさらに“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。
この連載もいつの間にか17シーズン目! 新たにショップが全て入れ替わり、第131回目に登場するのは、吉祥寺で今年10周年を迎えた「アンサンブル(Ensemble)」。オーナーの竹内さんは、どんなニュー・ヴィンテージを紹介してくれるのでしょうか!?
Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii
竹内博昭 / Ensemble オーナー
Vol.131_アバクロンビー&フィッチのジップフーディ&カーゴパンツ&スウェットショーツ
ーまずは「アンサンブル(Ensemble)」にとっての、そして竹内さんにとってのニュー・ヴィンテージの定義を教えてください。
いま現時点でシーンのメインストリームにいないと言いますか、評価されていないモノで、その中にもおもしろみがあって評価される可能性を秘めているモノ。というのが基本にあるんでしょうね。
ー要は“まだ評価基準が定まっていないモノ”と。この「ニュー・ヴィンテージとは?」という共通質問ひとつとっても、各店の色が垣間見えておもしろいんですよね。竹内さんは元々、どこかの古着屋で働かれていたんですか?
いえ、高校卒業後に地元・福井から上京して文化服装学院の門を叩き、卒業後はフリーターをしていたのですが、かねてから古着が好きだったこともあり「将来は古着屋をやりたい。そのためにも古着屋働いて経験を積まなければ」と考えて、古着屋のバイト募集に応募していたのですが、全然採用してもらえなくて…。それでも諦めきれず、経験もノウハウもない状態から吉祥寺でオープンさせたのが「アンサンブル」です。
ーそこからめでたく今年1月で10周年を迎えました。「アンサンブル」の“ならでは”な特徴ってありますか?
ぼく自身、服に関していえばストリートもモードもアメカジも全部好きなので、ジャンルに囚われず、自分の好きなモノを並べています。今回はその中でも、最も自分自身のベースとなっているアメカジのアイテムを紹介したいなと。それが2000年代の〈アバクロンビー&フィッチ(Abercrombie & Fitch)〉です。
ー出ました! たしかにその時代のアバクロって、いまではファッション業界でもスルーされがちな存在といいますか。「アンサンブル」のようにパワープッシュしているお店は珍しいですよね。
ですね。2009年に銀座に旗艦店をオープンさせたりとすごい勢いで人気を集めていたのは、メディアを通して知っていますが、ぼくはリアルタイムで通っていなかったので「なんか流行ってるぞ」くらいの感覚でした。その頃に、たしか雑誌の企画でスタイリストの祐真さんがアバクロの迷彩パンツと〈ディオール・オム(DIOR HOMME)〉のナポレオンジャケットを合わせているのを見て「おもしろいなぁ」と思ったのを覚えています。
ーそこからどういう流れで、当時のアバクロをフィーチャーしようと思い立ったんですか?
自分のベースにアメカジ好きというのがあるので、最初はジーンズの色落ちひとつとっても「こんなワザとらしい加工ではなく、自然なエイジングがいちばんに決まってるでしょ!」みたいな感じだったんですが、それが5〜6年前から、ふと「あれ? なんかおもしろいのかも…」と思い始めるようになって。
ー時間差で気になり出したと(笑)。「アンサンブル」はアメリカ買い付けと伺っていますが、現地での古着としての評価ってどうなんでしょうか?
スリフトショップなんかでたまに見かけたりもしますが、それこそ評価というのは特になく、完全にレギュラー古着でしょうね。ブランド自体は100年以上の歴史を誇っていて、それこそもっと古い年代のアイテムはヴィンテージとしてちゃんと評価されているのに、近年モノには一部の服好きしか反応しない感じも興味深いというか。
ーどうしてああなったんでしょうね。
もう突如として覚醒したとしか言いようがないんですよね(笑)。00年代に入る頃には今回取り挙げたような誇張されたデザインのモノが登場するようになっていて、そこから年を追うごとにみんなのイメージにある“マッチョでカジュアル・ラグジュアリー寄り”に変化していき、2005〜2006年にはそのスタイルが完全に出来上がっていたという認識です。ただアイテム自体は生地もシッカリしていて、アメリカらしいタフさも感じられるし、誇張とも言えるくらいの異常な作り込みが逆におもしろいじゃんみたいな。そういう意味ではラルフローレンにも通ずる部分が大いにあります。
ープロダクトの変遷を知るのもおもしろいですね。掘ってみればみるほどに発見があって。
アバクロンビー&フィッチのカーゴパンツ ¥16,280(アンサンブル)
カーゴショーツは代表的なアイテムですが、カーゴパンツも同様におもしろい。これとかもほとんど柔道着の帯ぐらいの太さのあるドローコードをウエスト内側に仕込んであって、結ばず垂らせばアクセントになるけれど、絶対に不便でしょうって(笑)。
ー若い世代が、いまいちばん好きそうなノリではあります。よく「アメリカにはアメカジを着ているヤツはいない」なんて言いますが、まさに想像上のカリカチュアされたアメカジというか。
何をしたいのかが非常に明快ですよね。付属のベルトやボタン、裾や袖先のダメージ加工や切りっぱなし処理と、ヴィンテージ的ディテールをこれでもかと過積載。モノとしてはしっかりしていてディテールも凝っているため、ここからさらに十数年経てば〈ギャップ(GAP)〉や〈ジェイ・クルー(J.Crew)で名作とされるアイテムのように、バイアスもロンダリングされて「普通にいいじゃん」と評価されるようになる。そんな気がしています。
ーこのジップのフーディもすごい作り込みで。
アバクロンビー&フィッチのジップフーディ ¥10,780(アンサンブル)
内側にはサーマル生地も貼られていて、ジップはちょっとゴツめ。文字のアップリケには「こんなところにわざわざ入れちゃうの?」って感じでパイピングが施されているし、ポケットやジップ周辺はほつれ加工でエイジングをプラス。特におもしろいのがタグ。重ね付けされているんです。いちばん下にフェルト生地を引いて、次にコットンツイル生地を引いて、織りネームをステッチで打っている。シンプルにやりすぎです(笑)。
ーこちらのスウェットショーツもまた、“らしさ”溢れるアイテムです。
アバクロンビー&フィッチのスウェットショーツ ¥9,790(アンサンブル)
こっちもタグは重ね付け。プリントとアップリケを両方採用していてメチャメチャ手が込んでいますよね。こういったサンフェードやダメージといった加工もヴィンテージ界隈では人気ですが、アバクロの場合、不自然なくらいワザとらしくて、でもそこがイイ! トータルでやりすぎちゃっているのが逆におもしろいじゃんみたいな。キーワードは揃っているし、いまの世の中のムードにも絶妙にハマっている。なのにド真ん中にバチンとくる都合いい感じでもないっていう。
ーメチャクチャ上がりづらい役満なのに、すごく低い点数が付けられているって感じですよね。
その感じさえも“なんかおもしろい”という温度感で楽しむのがいまの気分なんじゃないでしょうか。ただ問題は、どう着こなすか。体感的に00年代の服って肩幅・身幅はジャスト〜タイトがスタンダード。これも例に漏れず。しかも絶妙に縦長シルエットで、近年のトレンドである短丈で慣れていると若干難しいかもしれません。
ーそこは若い世代の間で、ボトムスの腰履きが流行っていますし、ちょうどいいバランスで取り入れられそうです。ちなみにサイズアップもアリですか?
当時のカタログを見ると、トップスもボトムスもピタッとジャストで着るのが正解みたいなんですが、肩幅・身幅に余裕を持たせようとサイズアップすると、腕が長くなりすぎて着づらくて…。そこをどうクリアするかというのも腕の見せどころというやつで。
ーなるほど。そもそもアバクロが想定していたターゲットが、ブルース・ウェーバーの世界観にいるようなガタイのよい白人の若者たちだから、このサイズ感なんでしょうね。
ですね。カタログでも実際にブルース・ウェーバーを起用していたりもしますし。いまの世の中的に着やすい服とは言えないかもしれないけれど、そこでどう着こなすのか考えて工夫することが必要で。そのハードルを超えてハマればメッチャ格好いい。ただの逆張りで選ぶのではなく、そこをわかっている上で“あえて”挑戦したくなる服。そんな古着ならではの楽しみ方が味わえるのが、この時代のアバクロというワケです。
竹内博昭 / Ensemble オーナー
古着好きが高じて、自身で古着屋を始めようと2016年1月に「アンサンブル(Ensemble)」をオープン。自身のルーツであるアメカジをベースに“ジャンルに囚われず、おもしろいと感じたアイテム”を主にアメリカ買い付けでピックアップ。店内いっぱいに並ぶアイテムはどれもコンディション良好、プライスはお手頃。今年1月で10周年を迎えたばかり。
インスタグラム:@ensemble_kichijoji

