プラスチック一体成型のパントンチェアはデンマークのデザイナー、ヴェルナー・パントンが10年以上の試行錯誤を経て1960年に完成させた。低コストで量産できるプラスチックは、熟練の職人技のみを正義とする旧態依然とした北欧デザインへの強烈なアンチテーゼだった。
ヴェルナーの才はプロダクトにとどまらなかった。いわゆる空間デザインもまた得意とするところであり、かつてない色彩感覚を駆使したそれはミッドセンチュリーに多大な影響をもたらした。
その世界観に感応したのが〈ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)〉。ご存じ、現代の色の魔術師である。
ミッドセンチュリーを象徴する波のようなグラデーションやボディ・パーツをまとったブルゾン、シャツ、パンツ──パントン家の粋なはからいにより、ドリスはアーカイブを自由に組み合わせ、サイズを変えることができた。
パントン家はなぜ、このような大盤振る舞いをしたのか。
パントンチェアを創造したことからも分かるように、ヴェルナーは業界の異端児だった。コペンハーゲン王立美術アカデミーを卒業したヴェルナーはあのアルネヤコブセン事務所で働き始めるも早々に独立している。文字どおり異端児扱いされたからだった。
一方のドリスはファッションの一丁目一番地からは距離を置き、いまなお生まれ育ったアントワープに暮らす。そうして何ものにも左右されないデザインワークで確固たるスタイルを築いた。
パントン家がドリスに亡きパントンの面影をみたとしても不思議ではない。
Photo_Hiroyuki Takashima
Text_Kei Takegawa
Edit_Ryo Muramatsu
ドリス ヴァン ノッテン
電話:03-6820-8104
www.driesvannoten.com