夏の正装といえばTシャツです。年を重ねるのと比例して増えてしまうTシャツの枚数。「もう充分」と分かっていても、いいアイテムを見つけてしまうと、つい財布の紐が緩んでしまうのは人間の性なのかもしれません。
そんなアディクトの方々に朗報です。今年の春、虎ノ門にオープンした話題のセレクトショップ「SELECT by BAYCREW’S」では、「大人のT」と題したイベントを7月末まで開催中。ヴィンテージ、アート、クラフト、リメイクに至るまで、ここでしか手に取ることのできないさまざまなTシャツが一堂に介し、物欲を刺激します。
企画をするのは、ベイクルーズの副社長である古峯正佳さんと、このショップでキュレーターを務める紺野浩靖さんと、松尾忠尚さん。それぞれ異なる切り口でバイイングを行うことで、多様性に富んだラインナップが実現しました。首謀者の3名はどんな視点でアイテムを集めたのか? そして気になるイチオシアイテムも教えてもらいましょう。
Photo_Kazunobu Yamada
Edit_TSUJI
国際的なイベントが目白押しで、スポーツに対する機運が高まっている。
古峯正佳
1974年生まれ。「ベイクルーズ」上席取締役副社長。1999年に入社し、いくつかのショップでスタッフとして勤務したのち、DEUXIEME CLASSEデイレクター、LA CLASSE初代CEO、LE DOMEのCEOを歴任。2016年9月、ベイクルーズ上席取締役副社長に就任。大のサッカー好きとして知られる。
ー今回、古峯さんが集められたのはヴィンテージのTシャツですか?
古峯:そうですね。ヴィンテージの中でもスポーツものを中心にセレクトしました。ベイクルーズには“現物買い”という教えがあり、海外の街で売られているものをそのままバイイングして日本で販売する。アイテムはもちろんですが、その土地の空気や香りみたいなものも含めてお客さまに届けようという文化があるんです。そんな想いを背負いながら、今年の初夏にフィレンツェ、ミラノ、パリ、マルセイユで買い付けしてきたスポーツ系のヴィンテージTシャツをここで展開しています。
ー最近は映画をモチーフにしたヴィンテージTが人気ですが、スポーツという視点で集めているのがおもしろいですね。
古峯:今年はパリで世界的なスポーツの祭典が行われたりとか、サッカーの「UEFA欧州選手権」なんかも開催されて、国際的なスポーツイベントが目白押しなんですよ。それに合わせてスポーツに対する機運の高まりも感じるんです。
ーヨーロッパで集めてきたからなのか、デザインもシンプルで垢抜けたものが多い印象です。実際にスポーツ系のアイテムは、まだまだ眠っているのでしょうか?
古峯:探せばある、といった感じでしょうか。ぼくらの場合はたまたまフィレンツェで見つけたサッカー系のショップがあって、そこにおもしろいものがたくさんありました。まだネットにも情報がないようなお店で、現場で足を動かした甲斐がありましたね。
ー全体的にヴィンテージの市場では価格が高騰している中で、良心的な価格設定にされているのもいいなと思いました。
古峯:ここではプライスを大幅に上乗せすることはなく、なるべく現地に近い価格で販売しています。それでも値段はやっぱりすごく高騰していて、とくに有名選手をモチーフにしたアイテムは人気ですね。
ー今回のラインナップの中から、古峯さんイチオシの3枚を教えてください。
DV TRANING VINTAGE T-SHIRT ¥11,000
古峯:1枚目はこちらです。フランスのプロサッカーチームであるオリンピック・マルセイユが、93年の「UEFAチャンピオンズリーグ」の決勝でイタリアのACミランと戦ったときの記念Tシャツです。マルセイユは見事に勝利を獲得して優勝を勝ち取りました。そんなメモリアルな1枚を、なんと地元であるマルセイユで見つけたという奇跡的な1枚です。
OM 1984‐1985 VINTAGE T-SHIRT ¥14,300
古峯:こちらは98年にフランスで行われた「FIFAワールドカップ」のときのもの。見事に優勝を果たした開催国フランスの代表選手たちがプリントされています。おそらくブートだと思うんですが、いま見るとなんかいい。サイズも大きめで着やすいです。
MAISON MELE VINTAGE T-SHIRT ¥13,200
古峯:最後はこちら。おなじみのデビッド・ベッカムをモチーフむにした1枚です。スポーツ選手の中でもベッカムはファッション感度が高いことでも有名。そういう意味でもおしゃれに着られるアイテムなのではないでしょうか。こういうTシャツをデニムパンツに合わせて、サラッと着たらかっこいいと思いますね。
力強いグラフィックをミニマルな配色でプリントしたアートT。
紺野浩靖
1977年北海道生まれ。2001年の入社から、エディフィス一筋。ドレスからカジュアルに至るまで幅広い知識を持ち味に、2003年にカジュアル部門のバイヤーに就任。現在はブランド全体の舵取りを行うコンセプターを務める。「SELECT by BAYCREW’S」では、キュレーターとしてメンズアイテムのバイイングも行っている。
ー紺野さんがバイイングされたアイテムは、グラフィカルなものが多いですね。
紺野:ぼくは“アート”というテーマのもと、国内のアーティストとコラボレーションしたTシャツを担当しました。とはいえ、Tシャツは着やすいものがいちばんだと思うんです。そういう意味ではノリの良さが伝わりやすい、キャッチーなアイテムをつくりたかった。アーティストの方々にはそんなことをお伝えしつつ、基本的にはTシャツをキャンバスとして捉えて自由にグラフィックを制作してもらいました。
ーどのアイテムもグラフィックに強さを感じつつ、ミニマルな色使いでシンプルに仕上がっている印象です。
紺野:そこは意識しましたね。今回は2名のアーティストに手がけてもらったんですが、色が散らばらずに、シックなアイテムになるように依頼をしたんです。
ーどんなアーティストにお声がけをしたのでしょうか。
Wataru Komachi T-SHIRT(WHITE) ¥22,000 / Wataru Komachi T-SHIRT(BLACK) ¥22,000
紺野:ひとり目は、WATARU KOMACHIさんというアーティストです。ぼくがよくパリへ行っていた2000年代初頭に、街中でよくステンシルのアートを見かけたんです。それがすごく印象的で、今回はそうした作風を表現したいと思いました。KOMACHIさんもその当時、よくパリに行かれていたみたいで、そうしたアートに影響を受けて自身でもコラージュなどをつくられていたそうなんです。そうしたストーリーが頭の中でリンクして、今回お声がけをしました。
Wataru Komachi T-SHIRT(WHITE) ¥22,000
紺野:ぼくが着ているアイテムもそうですが、白いボディに黒いプリントが乗ったモノクロのアイテムは、実際にステンシルでプリントしたアソートなので、1点1点個体差があるのも特徴です。
紺野:ステンシルに加えてシルクスクリーンでプリントしたTシャツも制作してもらいました。パリの街並みをイメージして、壁に描かれている絵や、フランスの言葉などをコラージュして力強いアイテムにしていただいています。
TEXTILE PAINT T-SHIRT ¥11,000
ーもうひとりのアーティストはどんな方なのでしょうか?
紺野:こちらは村上周さんと「エディフィス」による「TEXTILE PAINT」というレーベルのアイテムです。村上さんは、自身が感じたものをシルクスクリーンやペイティングで表現されていて、フランスをテーマにしたグラフィックをプリントしてもらいました。こちらはバンダナとセットで販売しています。
紺野:モチーフはパリにある薬局など、そうした街の景色にあるものを村上さん独自の感性でコラージュされています。「エディフィス」では白と黒のモノクロも展開していますが、白とブルーの配色は今回のイベントに合わせてつくった「SELECT by BAYCREW’S」だけの特別な配色です。インパクトを感じつつも、爽やかな配色が気に入っています。
もともとあるものに手を加えて、新しい価値を見いだす。
松尾忠尚
1975年、大阪府生まれ。2000年入社し、「ジャーナル スタンダード」にてショップスタッフ、バイヤーを経て、現在はコンセプターを務める。山をこよなく愛し、都会と行き来しながら、さまざまなアイデアを獲得しバイイングに活かしている。紺野さんと同様に、「SELECT by BAYCREW’S」にてキュレーターも兼任する。
ー松尾さんが手がけたアイテムは、Tシャツをヴィンテージのように加工したり、リメイクを施してまったく新しいものにしたりなど、手の込んだものが多いですね。
松尾:Tシャツって本当にいろいろあって、ヴィンテージから現行もの、さらにはグラフィックも多種多様だし、本当に千差万別じゃないですか。その中でぼくは、Tシャツになにか手を加えたクラフト感のあるものがおもしろいんじゃないかと思ったんです。
ー世の中にあふれているものを新たな視点で見つめ直し、手を加えることで、新しい価値が見出せますよね。
松尾:ぼくがバイイングをする「ジャーナル スタンダード」も、そうしたアプローチを得意とするショップなので、普段から意識して取り組んでいることではありますね。
SEVEN BY SEVEN REWORK HAND EMBROIDERY T-SHIRT ¥55,000
松尾:たとえばこの〈セブン バイ セブン〉のアイテムは、モーターサイクル系の古着のTシャツの上から、グラフィックに合わせてインドで手刺繍を加えているんです。それによってすごく立体感が出て、プリントでは出すことのできない表情が生まれます。古着というだけで1点ものなのに、さらにそこに手刺繍を加えることでより個性を強めていますね。
INK CRACK BAND T-SHIRT ¥27,500
ーこちらも古着のTシャツをもとに大胆にリメイクされていますね。
松尾:いろんな古着のリメイクを行う、大阪の〈インク〉というブランドにオーダーしたアイテムです。大阪ならではの遊び心が満載なんですよ。3つのTシャツを斜めにカッティングして1枚に縫い合わせているところがおもしろい。これはバンド系のモチーフを合わせていますが、ホラー映画だけで組み合わせたものもあったりと、モチーフの選び方のセンスも光ります。同じブラックのボディでも、生地によってトーンが変わるから、異なる色味を繋ぎ合わせることによって生まれるコントラストも楽しんでもらいたいですね。
MICKEY MOUSE for SELECT by BAYCEW’S T-SHIRT ¥17,600
ーこちらは王道のディズニーをモチーフにしたアイテムです。
松尾:「ジャーナル スタンダード」で展開しているディズニーのライセンスアイテムに、今回のイベントに合わせて加工を加えました。褪色とクラッシュの加工を施すことで、ヴィンテージの雰囲気に近づけています。古着でいい状態のものを見つけるのはなかなか困難だし、色もグレーや白が多い。そういった意味で、ありそうでなかったアイテムをつくれたかなと思います。
ー松尾さんの手がけたアイテムからは、共通して90年代の香りが漂ってきます。
松尾:そうかもしれないですね。90年代くらいの古着って、ちょうどいいユーズド具合であったりとか、デザインもおもしろいし、それがいまの気分に合っている。すこし中古感を出そうとしたときも、それくらいの時代のアイテムがすごく参考になったりするんです。ぼく自身が多感な時期を過ごした時代でもあるので、今回、無意識的にそういうものをつくってしまったというのもあるかもしれないですね(笑)。
大人のT
SELECT by BAYCREW’S
会期:7月12日(金)〜7月下旬
場所:SELECT by BAYCREW’S
住所:東京都港区虎ノ門2丁目6番3号 2、3階
電話:03-3528-8262
時間:11:00~20:00
Instagram:@select_by_baycrews
select-by.baycrews.co.jp