23年前の6月1日、東京の下高井戸にひとつのお店がオープンしました。名前は「トラスムンド(TRASMUNDO)」。店主の浜崎伸二さんの目と手が行き届いたCDやレコードに古本、それにつくり手の顔が見えるTシャツなどのマーチャンダイズが置かれ、多くのひとが買い物と会話を通した出会いを求めて足を運びます。2025年の今日で24年目を迎え、当たり前のように同じ場所にあり続けるけど、もしも「トラスムンド」がなかったら? あのラッパーや長年足繁く通うフリークやふらっと顔を出す常連の人生も、きっとなにかが違ったはず。「トラスムンド」にゆかりのあるひとたちからの手紙のような言葉を、前後編に分けてお届けします。
Photo_Shiori Ikeno
Edit_Yusuke Suzuki
01_KID FRESINO(ラッパー・トラックメイカー・DJ)
浜さんへ。
浜さん、このような機会に乗じて今更にお礼をお伝えすること、大変不甲斐なく思います。申し訳ありません。
十代の頃、数十枚の自作CD-RをTRASMUNDOへ持ち込んで、「これを常連さん達に好きに配ってほしいんです!」とお願いしましたよね。
今思うと我ながらあまりの厚かましさに閉口してしまいます。
浜さんは面白がってくれてる、活きの良い奴が現れたと思ってくれてるなんて、若い私は高を括っていたのかなと思います。
少しして、お店に行くと「もう全部配ったから」と薄く笑う浜さんを心から信頼したのを覚えています。
浜さんはもう覚えていないと思いますが、昔吉祥寺のコンビニの前で「佐々木のCDも10000枚ぐらい売れたらいいよな~いや売れると思うんだよ~」と腕を組んで首を傾げながら私に言ってくれました。
私は起こらないそんな未来を初めて夢想しました。
Febbにおんぶしてもらわなくても、自分で歩いていけるような気がしました。
私は私の経歴を思い返す時、まずあの自作CD-Rと浜さんのことが頭に浮かびます。
浜さんがお一人お一人に配ってくださったCD-Rと優しさが今を支えてくれています。
ありがとうございました。
年に数度会える日を交わす言葉数に関わらず、大切に覚えていたいと思っています。
佐々木
PROFILE
1993年11月25日、埼玉県所沢市出身のラッパー・トラックメイカー・DJ。JJJ、Febb as Young Masonと共に結成したHIP HOPユニット“Fla$hBackS”として活動をスタート。2013 年にDogear Recordsより『Horseman’s Scheme』でソロデビュー。最新作は4thアルバム『20,Stop it.』。
X:@KID FRESINO_INFO
02_迫田将輝(理容師)
近所の大先輩。
TRASMUNDOは地元の大先輩です。
これは浜さんがどう思うか分かりませんが、近所で店をやらせてもらってるので勝手に先輩だと思っております。
浜さんとはよく街の話をします。近所に新しくできたお店とか空いてる物件とか…。
下高井戸のシンボルと言ってもいいくらいの市場がなくなってしまって、街が変わろうとしているタイミングでこのままでいいのか、正解は分かりませんが街の一員の僕たちがしっかり考えなきゃいけないなと。
TRASMUNDOが街でお店をやっていてくれるから音楽のことを学べるのはもちろんですが、それとは別で自分では決して気付けない視点からの考えを学ばせてもらっています。毎回なにかを学びたくてお店に足を運んでいるんだなと思います。
PROFILE
2016年に「バーバーサコタ(BARBER SAKOTA)」を下高井戸にオープン。2020年には2階にギャラリースペースも兼ねた「カットハウス キョードー(CUT HOUSE KYODO)」もオープンし、不定期でオリジナルグッズをリリースしたりイベントを行ったりと、目まぐるしい日々を送る。
Instagram:@barbersakota
九州出身の浜崎さんは今年56歳。レコード店で経験を積んだのち、32歳のときに「トラスムンド」をオープンしました。お店に電話やSNSはなく、定休日は毎月第3木曜日のみ。TRASMUNDO DJsとしてパーティに出演したり出店をした翌日でも、12時にはお店を開けています。
03_Sachiko(Salahデザイナー)
静かに在りつづける居場所。
2010年に初めてトラスムンドを訪れてから、気づけば15年の月日が経ちました。
感覚的・抽象的に物事をとらえて表現することが多い自分にとって、明確な意思を持った言葉や音楽には、常に憧れや強い魅力を感じています。言葉にするのが難しい感情が、音楽を通して腑に落ちる瞬間があったり、情景やストーリーを思い描いてしまうようなmix CDに出会えたり…。ハマさんからは、心を動かされるような音楽や人、場所との出会いを、本当にたくさん与えていただきました。
日々、時間に追われ、つい効率ばかりを優先してしまう中で、お店に足を運んでこそ出会える音楽や空気感は、立ち止まって自分自身を知る貴重な瞬間でもあると感じます。
ここ数年で下高井戸の風景は大きく変わってしまったし、私自身が東京を離れた今、変わらずに信念を持って在り続け、迎えてくれるトラスムンドの存在に、心から感謝と敬意を抱いています。
Sachiko
PROFILE
“frame the scenery”のメッセージを掲げ、アートや音、景色の記憶を紡ぐアクセサリーブランドとして2016年に〈サラ〉をスタート。現在は長野県を拠点に活動中。
Instagram:@salah.jpn
04_ISSUGI(ラッパー・ビートメイカー)
TRASMUNDO.
お店ってやっている方の人柄/雰囲気がそのまま出ると思っていてTrasmundoはその最たる例だと思う。だから浜さんの家に遊びに行ってる感じなのかもしれないです。
自分は用事なくふらっといくタイプで、誰か知り合いがいる時もあれば浜さんが1人でレジでタバコ吸ってて「おー、久しぶり」みたいな時が多い。「今は何作ってるの?」っていう会話から 最近聴いてる音楽の話、行ってきた街の話、今度のライブの話、これからの話、それをずっと話しているかもしれない。
前にTrasmundo vs 16FLIPのBeattapeを作った時にCDを30枚くらい貸してくれた。
いつもと違うBeatが出来た。
自分で良い曲を見つけて上がる良さも勿論好きだけど、人を通して知らない曲を教えてもらう時は必ずその人の愛着がプラスされてる。だから浜さんと話したり1つ1つに書かれたレビューを見たりして何処にもない偶然の良い出会いを求めていつもCDやレコードを買ったりしてる。
PROFILE
1982年、東京都練馬区出身のラッパー・ビートメイカー。ソロだけでなく、仙人掌・Mr.PUGと共にHIP HOPユニットの“MONJU”やDogear Recordsとしても活躍。『TRASMUNDO RADIO』にも数回出演し、YouTubeにはインタビューもUPされています。
Instagram:@dogear_gram
「トラスムンド」へ足を運ぶ理由に、浜崎さんが力を入れるチカーノソウルの音楽に出会うためというひとも少なくありません。さらにここ数年はアーティストを招いたインタビューを収録し、『TRASMUNDO RADIO』というタイトルで新譜とセットで販売するのも人気に。壁には映画や親交の深いアーティストのポスターなどが飾られ、ISSUGIやJJJのサインからも浜崎さんへの想いが感じられます。
05_井上(The Erexionals)
レコード倫理成人向。
TRASMUNDO RADIO…。
飲み過ぎてお互い途中迷子になりながら
デカい音で好きな音楽をかけ合う。
カサガワくん(カサガワ企画代表)が
ニヤついてる。
トラスムンドの店主ハマさんは僕らのCDを誰よりも売り捌いた人だ。
次、リリースする曲に少し書いた。
“くたびれたLIFE 3、40分パケット煮詰めて
トラスムンドで捌く水際のデスティネーション”
[曲. Final Destination]
THE EREXIONALS(井上)
PROFILE
下北沢出身の生粋のルードボーイであり、下北沢から生まれたケルティックバンド“The Erexinals”でボーカル・ティンホイッスル・鍵盤ハーモニカを担当。『Can I Have Tap Water?』『Where is the rest room?』を聴いて、ぜひライブに足を運んでください。
Instagram:@alleynoway
06_MASS-HOLE(ラッパー・ビートメイカー・プロデューサー・DJ)
MIX CD.
以前、上高地に登るという県外から来たお客さんが自分のお店にフラッと遊びに来てくれて、TRASMUNDO DJsが当店のために作ってくれた「DA POINT 117 MIX CD」を購入してくれました。
後日、その方から連絡があり、購入したMIX CDが大変素晴らしかったので「静けさのなかで思い出される感情、ひとりではないと知ること」のMIX CDも購入したい、とのことでした。その反応がなんだかとても嬉しくて、アンニュイな日曜の夕方が少し明るくなりました。
音楽を含めた自分の人生はハマさんとの何気ない会話から「豊かさ」と「アイディア」を確実に頂戴しております。
まだまだお返しできていないモノが多いですが東京に行く際は缶ビールとセブンスターを携えて、ふらっと(←ここが大事です)遊び行きますね!
mass-hole
PROFILE
長野県松本市を拠点に活動しながら、2022年10月にはショップにオフィス&スタジオも兼ね備えた「DA POINT 117」をオープン。ソロだけでなく、地元のHIP HOPユニット“KINGPINZ”と“FOUR HORSEMEN”としてもタフに動き回る、長野が全国に誇るB BOY。
Instagram:@masshole19821128
ひとつひとつの作品に丁寧に書かれた浜崎さんの文章は、知識と経験が生んだ血の通ったメッセージそのもの。販売される音源やTシャツなどのマーチャンダイズはアーティストが直接持ってくることが多く、時にはアーティストの私物放出もあったりと、お店という場所の大切さと人との信頼関係を感じずにはいられません。
07_心音(会社員)
放課後の居場所。
はまさんと初めてお話ししたのは2年前の夏に仙人掌さんのライブを観に行った時で、トラスにはそれから遊びに行くようになりました。
当時私は大学3年で、放課後に焼き芋とか持って遊びに行ってました(笑)。初めてお店に行った日は、レジ前に貼ってあったグラン・トリノのポスターを見て、永遠にイーストウッドの話をしていたような気がします。
私は基本的にレジ前の床に座って、はまさんと映画とか本の話をしてて、私の悩みを聞いてもらったり、就活の相談とかもしてました。私は音楽は好きだけどそこまで詳しくなくて。そんな私に色々教えてくれたのもはまさんです。大学にはあまり友達がいなかったけど、トラスに行くと色んな音楽に出会えたし、色んな人と知り合うことができたので、最高の青春です。
トラスにははまさんがいて、それだけですごく居心地が良くて、大切な場所です。これからもいっぱい遊びに行きます!
PROFILE
熊本出身で京都経由の東京在住。今年から会社員として働きながら、週末を中心にパーティやイベントへ足を運ぶ日々。浜崎さんいわく「最近の若いお客さんの中ですごくしっかりしている子」とのこと。
Instagram:@conezou
08_MICHIOSHKA(EBBTIDE RECORDS)
お店。
自分がハマさんと知り合ったのは明確にはいつか忘れましたが2000年代半ば頃だったと思います。Seminishukeiの皆とよく遊んでいたのでその流れでお店に行って、自分は映画のことも門外漢なのでたぶん古いロックの話とかで盛り上がったようなそうじゃなかったような。
中古の12inch/LP/CDの面白いタイトルが見つかることが多かったので東京に遊びに行ってはトラスムンドでレコードやCDを買いました。商品の面白さや雰囲気もそうですが、店をやることにおける音楽や音楽ソフトの知識と同じくらい大事なのは与太話のセンスだ、と気付かせてもくれたとも思います。
カルチャーを背負うとやたらガワだけ繕って楽しようとする人が多い印象だったけど、そうじゃない剥き出しの「商い」をやっている店を初めて見た気がしました。
当然自分自身がお店を始めようとした時もそのことを強く意識し、開店に際して相談に乗ってもらったりアドバイス頂きました。いまだに感謝しております。
ある日レジの後ろに雑に積まれたCDの中にブルー・ナイルのデラックスエディションCD版(リマスターされてる)を見つけて「それを売って下さい」と言ったら「これは私物!ダメ!」と断られたことがあります。あれLinnの輸入盤CD信じられないくらい音が薄いんです、言い値で買いますよ、とこの場をお借りしてお伝えしておきます。
PROFILE
大阪の心斎橋に構える中古レコード店「エブタイド レコーズ(EBBTIDE RECORDS)」の店主であり、DJとしても活躍。2021年にはRoyalty ClubよりMIX CD『Osaka Bay Area Bay Dream 2』をリリースしながら、ここ数年はカヤック・フィッシング・登山を中心とした生活で自然を満喫中。
Instagram:@ebbtide_records
09_リョーシ(会社員)
street link.
2012年。当時学生で笹塚に住んでいた頃に兄におつかいを頼まれた。コサパネルラとBushmind “Letters to Summer”。初めて降りた下高井戸駅から徒歩数分。足を踏み入れたそこはたくさんのCDやレコード、DVD、服があって、店主らしき方が1人で座っていた。正直怖かったけど、お目当てのCDを探しながらも見たことない音源もたくさんあって「何なんだろう、このお店は」と思った。日本語ラップヘッズだった自分には刺激が強くて未知の世界だった。キョドりながらCDを探す自分にハマさんは話しかけてくれた。
そこから13年。今”Letters to Summer”を聴きながらこの文章を書いてる。ここをきっかけとした多くの大切な出会いや経験があった。トラスムンドに行かなければロックやヒップホップ以外のジャンルの音楽を聴くことも(この店で初めてオススメしてもらったのがDJ PKの”TEKNO BOMBING”だったのも衝撃だった)、ホラー映画を観ることも、DJをすることも、デモに行くことも無かったと思う。
粋であること、何かに気づくこと、他者への想像力を持つこと。自分の稚拙な語彙力では言い表せないたくさんのことを教えてもらった。今自分は静岡に住んでいて、前ほど頻繁にはお店に行けていないけど、今までと変わらず接してくれるハマさんに助けられている。自分が店入るたびに「ひえ〜っ!」と悲鳴をあげてるけど(笑)。 また行きますね。これからもよろしくお願いします。
PROFILE
大学生のころから10年以上通い続ける常連のひとり。大学院在学時は茨城から通い、就職を機に愛知へ拠点を移したのちに現在は静岡在住。いまでも東京に来るときはほぼ必ず「トラスムンド」へ寄り、買い物や浜崎さんに近況報告をしている。
Instagram:@ryoc417
TRASMUNDO
住所:東京都世田谷区赤堤4丁目46−6 2F
営業時間:12:00~
定休日:毎月第3木曜日