自分が歩んできた道筋を示したい。

―小木さんのことを知っている人や〈LWT〉を好きな人は当時のマインドを持って欲しいと期待してしまうんですが、その点はいかがですか?

小木:当初地下1階から3階まで構成しようと思ったのは自分が歩んできた道筋を示したかったんです。ある方に、自分の目で見てきたものや、やってきた事以外の事はやらないほうがいいと言われたんですよ。それに対していい事も悪いこともあるでしょうが、確かにそうだなって思いました。もちろん、ほとんどのブランドの展示会には行ったりしています。最近まで〈LWT〉というミーハーというか、衝撃の強いファッションをやってきたつもりですが、スーツを着ることによっていろんな人と話せるようになって、今の自分があるんだと思います。それを得て今は王道の大切さが分かってきた気がします。だから例えば息子が、父親になって、という嘘をついていないものをやりたかったんですよ。

―なるほど。線で繋がるようなものがあるんですね。

小木:あとは、先輩バイヤーである内山と話して決めたこともあります。〈マルタンマルジェラ〉、〈トム ブラウン〉や〈クリス・ヴァン・アッシュ〉など日本でのラウンチングの手伝いをさせてもらったブランドや、〈トラサルディ1911〉のようにスタートから見ているブランドに関しては、大切に扱い続けていきたいと改めて思いました。どこよりも早く立ち上がりからバイイングして、少ない金額だったとしても協力しお互い成長していけるのが一番いいと栗野も言います。それにデビューした時の展示会にはデザイナーが絶対いるんですよ。服が云々だけではなく、しっかりデザイナーを理解して、お客様に紹介したり伝えるのが大切だと思いました。 垣根なく次に向かって進んでいく段階で一、緒に頑張ってきたって言うブランドさんとは特に自分の中で大切にしたくって今でもお付き合いさせてもらってます。友達付き合いではなくて、ちゃんと勝負をしたいって意味で。そうして突き詰めると、僕が一番知らなかったブランドっていうのはスーツだったんですよね。今までは〈リベラーノ〉とか〈ボリオリ〉がどうとか言ってもわかんなかったんですよ。1月に鴨志田とイタリアなどに一緒に出張で周らせてもらって、どういうブランドなのかとか、どういう生地の打ち出しをしているのかとか、改めて知ることができたのは収穫でした。

―スーツに関しても小木さんのセレクトが行き渡ると考えてよろしいですか?

小木:そうですね。地下1階では〈ユナイテッドアローズ〉のスーツをやりたいって思ってます。ホワイトレーベルなどに代表される新しい試みや、3つボタンの基本的な形も含めてです。基本的なものを崩して着るスタッフとがいたとして、それを見た若い子達がベーシックなスーツが欲しいって言うかもしれないですし。そういう基礎を大切にもう一度表現したいですね。

―地下1階ではストリートファッションとスーツなどのドレススタイルをどう上手く混ぜるのでしょうか?

小木:それは自信ありますね。〈ユナイテッドアローズ〉の強みはやっぱりスーツです。例えば〈ワコマリア〉はおもしろくて扱っているショップも多くありますが、直しの段階で提案が出来るショップっていうのはストリートの中では少ないと思います。そこをしっかりやれるし、ものによってクラシックな直しを施したり、スニーカーを合わせてみるような提案や接客を目指したいです。 
お客様のニーズや着用シーン、或いはスタイルによってこういうのもアリだしこういうのもアリっていう幅のある接客ができますから。 あとはロゴを作ったのも社内のデザイナーですし、スタッフでも本当に洋服好きな人もたくさんいますし、今回のリニューアルはMDだったり、心のリニューアルっていうのも大きいですね。予算も内装費なども与えられた金額より極力抑えるように努めました。お金かけてラグジュアリーなものをつくるよりも、手作りでいいものをつくったほうが今の時代は感動があるって思ったんです。ロゴも30回くらいやり直しましたね。

―「なんとかアンドサンズ」っていうのも古臭くっていいですよね。

小木:とある海外の方には止められました。「ベタ過ぎて恥ずかしいだろ」って。でも僕は直球でいきたかったんですよ。分かりやすくして。今はなんでもありなので、シーン全体で「外し」が「外し」って分かんなくなってきてるように思うんですよ。〈ラルフローレン〉みたいにタキシード着てジープに乗るとか。「外し」を分かりやすくしないと今となっては分からないと思うんです。ライフスタイル、館、スタッフ全体でそういうことを伝えたいですね 。


―ブランドの中でこれは面白いから入れたっていうのはありますか?

小木:やっぱり日本のブランドがすごい面白いですね。例えば〈ダブルタップス〉とか〈ホワイトマウンテニアリング〉とか。僕は前まではひねくれてたのかもしれません。〈LWT〉の時は、〈ユナイテッドアローズ〉の本体でやってるから、敢えてうちでやらなくていいとか考えてました。でもそうすると捻りすぎて自分がやりたいこととは違ってきてしまってたんですよね。

―店舗の内装自体で変えていくものはあるんですか?

小木:〈LWT〉のときも頼んでいたデザイナーの佐々木さんっていう方で、青山の〈アンダーカバー〉やソニアさんのお店などの内装を手掛けた方です。若手の方なんですがすごい才能を感じます。今ってヴィンテージっぽい空間というか、フリーマンズスポーディングクラブみたいなアメリカのノスタルジックな流れが多いですよね。日本なら〈テンダーロイン〉さんだったり。そういう流れを素直にやりたいです。ただ、そこにフィレンツェとかローマとかにあるちょっと地方の老舗のテイラーの匂いだったり、そういう匂いのヴィンテージ感を混ぜて出したいですね。アメリカやヨーロッパの匂いに新しいスタイルをミックスして、どこにもない感じにしたいです。それに元々原宿本店は神殿のようなリカルド・ボフィルの建築で完成されているので、そこは崩さないように新しいことをやっていきたいと思います。

―リニューアル後はDJブースを置いたり、ワークショップのようなイベントを打つといった仕込みがあると聞きました。

小木:イベントとしては南アメリカのンデベレ族っていう現地の人たちとコンタクトをとっている〈ランドローバル〉って言う日本のブランドにフォーカスします。現地で本当に使っていた、サッカーボールや絵などを展示しながら最初は行う予定ですね。 


―3階は和服なんですね。そこも小木さんのディレクションなんですか?

小木:今までは若い人が喜ぶようなものが少なかったんですが、そこを補完するために面白い浴衣を提案したり、和食器をセレクトしたりします。 
和装やフォーマル、オーダーサロンと、これまでの3階は目的意識がないと介入しづらいフロアだったとは思います。ですからそれらの入口になるような品揃えを増やし、回遊していただけるような構成を意識しています。

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小木さんの審美眼を通した新生UA原宿本店には業界内外から大きな期待が持たれています。

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