Extreme対談 vol. 2 フランク・リーダー×リュウ・イタダニ(後編)
2012.03.09
―先ほどのリュウさんのコメントと少し関係していますが、ベルリンから見た日本のアートやファッションのシーンはどのように映りますか?
リュウ:正直言って、日本のアート・シーンと言われてもよく分からないんですよね。東京にいたときも、それほどアート系の人とかアーティストの友達っていなかったので。日本で美大に通わなかったせいもあると思います。だから、周りにそういう友達や知り合いがいないんですよ。だから、アート・シーンのことはよく分からないんです(笑)。
フランク:先ほどの話とも関係しますが、アートは制作するにも発表するにも大きなスペースがいりますよね。日本、特に東京にはそういうスペースが十分にないかもしれません。私個人の印象では、日本は保守的なアートの方が評価されているように思います。アヴァンギャルドな現代美術より、古典が好まれる。モネとか...古典的な西洋絵画ですね。その点ファッションは、日本の人にとってアクセスし易いものなんだと思います。美術はとても高価で手が届かないものなのに対し、実際に触れて、着て、手頃な値段で買える服の方が身近なものなんじゃないでしょうか。
リュウ:それはありますね、日本だと5万円の靴を買う人はたくさんいるけど、5万のアート作品を買う人はとても少ない。価格が同じだとしても、アートを買う人が少ないんです。それも少しずつ変化しているようですけどね。最近の東京のアートフェアなどでは、購入する人が増えてきているという話も聞きます。でも少なくともこれまでは、日本の人は美術館に行って鑑賞するのは大好きだけれども、それを買うことはほとんどないと言われてきました。
フランク:それも、古典的なものを好む傾向と関係しているかもしれませんね。評価が定まっているマスターピースと呼ばれるものは有り難がるけれども、そういう作品は当然個人が買えるような値段ではない。でも、そうでないものにはあまり興味を持たないか、一般的な評価が分からないので購入するまでには至らない。有名か、評価されているかとは別に、自分の好みで若手作家の作品を購入するようなことはあまりない感じがしますね。東京のシーンについて僕は何も言えませんが、ベルリンに関して言えば、ギャラリーの数も多いし、しょっちゅうオープニングだなんだとイベントが行われていて、若手作家の作品に触れる機会がたくさんあります。ギャラリーが出来たと思ったら1ヶ月後にはなくなっていたりして(笑)。簡単にそういう場が作れるんでしょうが、東京では家賃も高いし、それほど気軽に新しいことを試せないということがあるのかもしれません。
リュウ:特に現代美術の作品はスペースを必要とする作品が多いですからね、余計そういう難しさがあるのかもしれません。
―フランクさんにとっては、日本は重要なマーケットのひとつだと思いますが。
フランク:もちろんです。ファッションに関わる者なら誰にとっても日本は重要なマーケットですよ。日本は職人の技能や、ディテールや服にまつわるストーリーをとても重視すると思います。僕の服もそういったストーリーを大切にしているので、そこが気に入ってもらえているんじゃないかと思います。例えば、2012年の春夏のテーマは「Traveling」だったんです。そこで、一部のパンツ類には、ポケットに古い電車の切符を入れました(写真参照)。実際に僕が集めたものです。特にそのことはどこにも触れていませんので、購入時には誰も気づかないでしょう。でも、実際にパンツを買って、履いてポケットに手を入れたら、これが入っているわけです。1930年代のものですね。紙の質もいいし、これだけで旅のストーリーを思わせますよね?
―へぇー、これはいいですね! お話を伺っていて、あなたの作る洋服やそのクオリティは日本人に好まれるだろうと思いましたよ。あなたが人との会話や出会いが作品のインスピレーションになると仰っていたのも商品に表れているように思います。
フランク:そうです。しかもそれは、アーティストやデザイナーといったクリエイティブな仕事をしている人に限りません。どんな人にもストーリーはありますし、最も刺激的なストーリーは最も意外なところにあったりします。逆に仕事上の接点は全くない人とか。だから、常にオープンであることが重要ですね。