- ー『ディストラクション・ベイビーズ』、最高でした。狂気が狂気を呼ぶサマに鳥肌が立ちました。
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柳楽:ありがとうございます。ロカルノでは審査委員長のダリオ・アルジェントがストリートファイトに明け暮れる主人公になりきって、僕にパンチを繰り出してくれました。80歳に手が届こうかという大御所ですよ。うれしかったですね。
- ー不遇の時代もあった柳楽さんですが、もはや日本に欠かせない俳優さんですね。
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柳楽:アルバイトで生計を立てたころを振り返って、みなさん揃って苦労されましたねと言われるけど、僕の気持ちは少し違っていて、自ら望んで飛び込んだところがありますからね。多少なりとも芸の肥やしになったと思っています。
タイムレス、エイジレス、ジェンダーレス。
- ーいまでは家族で愛用しているブランドだそうですね。そもそもどんなきっかけで?
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柳楽:〈アニエスベー〉との出会いは14歳。カンヌで発表した映画『誰も知らない』をアニエスベーさんご本人が観て、ポスタービジュアル(柳楽さんの横顔)を描き起こしたTシャツを作ってくれたんです。それからはショーやイベントがあれば挨拶させていただくように。
- ーどんなところが気に入られているのでしょうか。
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柳楽:僕はとくにファッションに詳しいわけでもありません。それに、ズボラ。役づくりに集中すると何も考えられなくなって、毎日、同じ格好で稽古に通うのもザラ。先日もとうとう穿き通していたパンツに穴があきました(笑)。そんな僕に〈アニエスベー〉は特別な存在です。飾り気はないのに雰囲気があるでしょ。ボーダーのカットソーは何枚も持っています。あんなボーダー、他にはありません。
しかも〈アニエスベー〉はタイムレスです。先日、タンスの奥に眠っていた〈アニエスベー〉を引っ張りだして驚いたのですが、どれも古びていなかった。
- ーそのひとつが発売されてから30年以上がたつ「カーディガンプレッション」ですね。
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柳楽:ええ。おなじみのカーディガンもボタンひとつでこんなに印象が変わる。これ一枚でも、コートやジャケットを羽織ってもサマになる。年がら年中着ています。
- ー奥さんと娘さんもお持ちとか。
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柳楽:二人は赤で、僕は黒です。凄いのが、ペアルックが成立するところ。お揃いで娘と手をつないで公園に行くこともあります。エイジレスで、ジェンダーレスでもあるんです。ワードローブの大半は〈アニエスベー〉です。
削ぎ落としたデザインとアイデンティティ。
- ー一徹なところはほかの床屋にけしていかない昭和のおやじを思わせます(笑)。
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柳楽:昭和のおやじ、いいですね。そういう意味では中学時代のヤンキーにも一目置いていました。ファッションのセンスはさておき(笑)、スタイルへのこだわりは尋常じゃなかった。おやじもヤンキーも、好きなことからブレないところに共感しますね。
- ーで、〈アニエスベー〉一本槍で、気に入ったパンツは穴があくまで穿いてしまう……。
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柳楽:そこは否定しませんが(笑)、根っこは昭和のおやじでもアンテナを張ることを億劫がっちゃいけないと思っています。これと決めつつ、適度に更新するバランス感覚というか。
〈アニエスベー〉のお店にはシーズンの頭に家族でお邪魔するようにしています。今日の撮影で着たカーディガンもポケットつきとかバリエーションが増えているんで、新たにワードローブに加えようかと画策中です。
- ーあらためてお話をうかがって感じたのは、デザインや作り以上にもっと深い部分で柳楽さんと〈アニエスベー〉には通じるところがあるということです。
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柳楽:答えになっているかどうかわかりませんが、役づくりで体重を増やしたり減らしたりは性に合いません。というか、身体に悪いし(笑)。それよりも中身で勝負したい。ヨーロッパの役者をみていてそう思う。シンプルな中にフランスのカルチャーが香る〈アニエスベー〉に惹かれるのはとても自然なことでした。ほら、「セラビ(C’est la vie.)」なんて言葉しびれるじゃないですか。