- ーまずは〈フライターグ〉が出来た経緯を教えてください。
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マーカス:自分たちが使いたいようなメッセンジャーバッグがなかったから作ったのが最初です。1993年です。当時、住んでいた家が高速道路の見えるところだったので、トラックタープを使おうというアイデアが浮かびました。使っていたら周りのひとが「いいね」と言ってくれて、そこからビジネスとして徐々にスタートしました。
- ー〈フライターグ〉は、ユーズドのトラックタープのデザインを活かしたバッグといのが特殊であり、魅力ですよね。いわゆるファッションブランドとはちがった、デザインアプローチと哲学が両立していますが、デザイン哲学はどんなものでしょうか?
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マーカス:そうですね。グラフィックだけでなく、ユーズドがゆえの汚れや傷などもデザインとして捉えています。
- ーそんなところも、いわゆるファッションブランドとはちがった、デザインアプローチと哲学を両立されていると感じますが、デザイン哲学はどんなものでしょうか?
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マーカス:まず、大前提として“リサイクル”は常に意識しています。それはユーズドの素材を使うだけでなく、たとえばアパレルのひとつ、パンツのボタンはほかのものに取り付けられるし、生地は土に還るものを使います。製品として寿命を迎えた後の、環境への具体的な配慮がブランドの根底に流れていると言えるでしょう。あとは、プラスチックも使いませんし、モノを作るときには、必ずそれがリペアできる仕様にしています。
- ー〈フライターグ〉はリペアなど、購入した後のフォローもしっかりしてますよね。
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マーカス:ユーザーに長く使ってもらうとなると、一見すればモノが売れないのではと思われるかもしれません。でも、そのモノに満足しているお客さんは、そのモノのよさを周りのひとに伝えてくれます。いいモノって、そうして口コミで売れて行くとわたしは信じていますね。
- ースイスではリサイクルはこれほど盛んなのか、マーカスさんが特別なんですか(笑)?
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マーカス:どうでしょうね。幼稚園くらいのときから、バナナの皮を土に還すというリサイクルの授業があったのを覚えています。個人的には、私は小さいころ近所のゴミ箱から鉄クズを拾ってきて、一緒に〈フライターグ〉を立ち上げたダニエル(マーカスの兄弟)といろいろなものを作っていたことも影響があると思います。
- ーなるほど。
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マーカス:世の中には、エコのプロダクトはあふれていますけど、エコのものって、デザインがよくないと買ってくれないわけです。だからエコを前提としつつ、デザイン単体として見たときに、いいものを作ることを心がけています。
- ーそういったデザインやアイデア、コンセプトをどうやって生み出していますか?
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マーカス:そうですね、たとえば家にバッグ、自転車、家具とか、トピックごとに分けて、大量のキリヌキを集めています。妻には捨てなさいって言われ続けていますが(笑)、雑誌や新聞などのキリヌキですね。いつもカッターを持って出かけていて、かつては飛行機に搭乗したときに、機内でキリヌキ作業をよくやっていました。最近は飛行機にカッターは持ち込めないので、よく電車を使っていますね。
- ーどんなものを集めていますか?
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マーカス:写真が素敵な記事、快刀乱麻のアイデアなどの記事だけでなく、世界の紛争や社会問題などの記事も、何か身の回りで起きたときの解決策のヒントとして読んでいます。たとえばこれは、チューリッヒで新しくできたレンタサイクルで、荷物が載せられるカーゴ付きの自転車の話ですね。〈フライターグ〉のチューリッヒのお店では、自転車の貸し出しをしていたんですが、こういうカーゴ付きのバイクのアイデアはあったんですが、ほかの人に先行してやられてしまいました。なので、その先の動きとしてたとえばそこと協業し、カーゴ部分をトラックタープで作ったりできないかなとか考えています。
- ーウェブではなく、紙なのはなぜですか?
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マーカス:ワンクリックすると、要らない情報も含めて頭に入ってしまうので、紙を使うことで無駄な情報は削るようにしています。
- ー地道な作業の積み重ねなんですね。
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マーカス:カッターでカットした記事は、ペンでマークして、従業員に見せたりすることもありますよ。
- ーほかになにかありますか?
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マーカス:思いつくのは、アイデアはポストイットに書いて置いておくとかですね。一緒に〈フライターグ〉を立ち上げたダニエル(マーカスの兄弟)は、会社を運営するのに、ポストイットだけでいいと言い切るほど、ポストイットが好きなんです。
理想的な環境で働くこと。
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マーカス・ダニエル兄弟がはじめた〈フライターグ〉はいまやスイスを代表する企業のひとつへと成長しています。
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本社があるのは、スイスのチューリッヒ。〈ヴェトモン〉がパリから本社を移転するなど、ファッション界隈でにわかに注目を浴びているのがこの街。世界中のお金が集まるスイス銀行など、欧州でも随一の裕福な街として、クリーンで治安がよく、デザインも盛ん。トラムが走るその街の一角で、〈フライターグ〉はコンクリートの筐体の建物をほかの会社とシェアする形を取っています。
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ランチやコーヒーを楽しめる屋内外の食堂、ソファなどが並ぶ広々としたスペース、そのそばにはクラシックなテーブルフットボールのゲームが置いてあるなど、その雰囲気は、俗にいうシリコンバレーのIT企業のそれ。高い天井、段差の少ないユニバーサルな設計、たっぷりと採光できる大きな窓など、働くひとたちのことを最大限に考えた環境は、デザイン大国であるスイスの面目躍如といったところでしょうか。その恵まれた環境をうらやましく思いつつ、その生産工程を順繰りに案内してもらいました。
素材としてのタープを切り分ける。
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ヨーロッパ各地から集められているのは、新品ではなく“中古”のトラックタープ。製品のために新しく作り出すのではなく、すでに使われているタープを確保するという、徹頭徹尾貫かれている、エコフレンドリーなブランド哲学が早くも垣間見えます。
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ちなみに、タープとは日本でいうところの幌。ヨーロッパではタープを使ったトラックが主流だと言えるほど、数多く走っています。
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タープには、余分な金具やテープなどが付随しているので、屈強なスタッフが素材であるタープを大きな台に載せて、バッグの素材となる“宝”の部分と、余分な部分を切り分けていきます。ただし、余分な部分もちゃんとお金をかけてリサイクルに回します。
スタッフのID写真も、一つひとつがユーモアにあふれて、各々の仕事に対するこだわりが感じられる。
エコな水を使ってのタープ洗浄。
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建物の敷地地下に貯めた雨水を使用し、トラックの荷台で付いたほこりや土などで汚れたタープを洗浄します。環境負荷はもちろん、経済的視点からも雨水を使うことは理にかなっていて、“二兎を追って二兎を得ている”そのアイデアがすばらしい。とくに環境保護の視点は、〈フライターグ〉のDNAとして当たり前のごとく、組み込まれていると言います。
大きなタープから型を切り出してバッグに。
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洗浄され、しっかりと乾燥したタープから、バッグの型を切り出します。〈フライターグ〉では、素材であるタープのデザインが、そのまま製品のデザインとして受け継がれるので、どんなプロダクトに仕上がるのかは、ここでの作業が左右します。文字をはじめとするグラフィック要素を入れるか入れないか、入れるとすればどれぐらいのボリュームか、単色にするか複色するかなどその組み合わせは、無数に考えられます。
出来上がったものを管理。
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〈フライターグ〉の製品は、世界に二つとないオンリーワンのデザインです。だからこそ、そのデザインに出合えるかどうかはとても重要で、その出合いの機会を増やすためにもオンラインショッピングに力を入れています。デザインがしっかりとわかるように、社内で360°全方位で撮った写真をアップ。
欧州各所からトラックタープの素材を買い付ける。
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欧州を走るトラックの帆は、ターポリン素材ものが少なくありません。買い付け人が欧州各所から、さまざまな条件をクリアしたタープを購入します。トラック会社からすれば、それまではゴミ同然どころか、廃棄するのに費用がかかっていたタープがお金になるということで喜んだということです。この部署では、時にはトラック雑誌をチェックすることも。
トラックタープの買い付けを告知する、「CASH FOR TRASH」(ゴミにお金払います)。
見たことのないスペシャルな店。
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フライターグの旗艦店のひとつは、チューリッヒ市内にありますが、コンテナを積み上げたエクステリアは、デザインに優れた建物が多いチューリッヒでもひときわ目を惹きます。もちろんコンテナは使われていたものを再利用しています。
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エコフレンドリーでクリーン。コンセプトからデザインまで、哲学が詰め込まれた〈フライターグ〉。マーカスの話の端々にも、会社の隅々にも、そのスタイルが見て取れるのではないでしょうか。
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次回は、マーカスの私物を紹介します。