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FEATURE|SWITCH INTERVIEW 金子恵治×尾崎雄飛 服に命を捧げる、愛すべき服バカたち。後編

ー尾崎さんは、最近よく旅に出ていますが、どんな目的があって行ってるんですか?

尾崎:それ最近よく聞かれて、困ってることのひとつなんです(笑)。その答えをかっこよく言うならデザイナーだから色んなところに行ってる、だと思うんです。去年、一昨年ぐらいから、旅をして何かを得て、それでものを作るっていう風にものづくりの姿勢を変えたんです。それが僕の経歴から考えると、一番やりやすい方法であり、僕しかできないなと思うところでもありまして。リサーチということでパリみたいな大都市に行くことってみんなしてると思うんですけど、観光地でもなんでもない、わけのわからない土地に行って、なにかを得るというやり方をしてる人はあんまりいないのかなって。

ー確かにそうかもしれません。

尾崎:さっき金子さんも言ってましたけど、現地の博物館に行って、民族衣装とかを見て、その作りや素材に触れる、そういうことですよね。そういうやり方は何も外国だけではなくて、国内でも同じです。ちょっと前に北海道でアイヌの文化に触れたときも同じようなことを思いました。その土地だからこそ生まれる服ってあるんです。それがちょっと特殊だったりすると金子さんの場合は面白くて買う、僕の場合はそれがどうやって生まれたのか、どんな風に作られているのかを掘り下げる。風が強い土地だから、前が閉めるためのディテールが生まれた、みたいなことを自分なりに解釈して、そのままではないにせよ自分の服作りに生かすんです。それって、すごく難しいことなんですけど、そういう感覚を得るために旅に行ってるんです。現地で色々買っちゃうのは、現物を買ってた頃の癖が抜けないせいですね(笑)

ー自分でも出張のたびに、ものすごい量のものを買うって言ってましたよね。

金子:今回いっしょにマーケットに行って、ややこしいなーって思ったんですが、尾崎くんは「レショップ」では超VIPなお客様なんです。ものすごく買ってくれてる。ということは、僕が現場で選んだものは欲しいものが多いということじゃないですか(笑)。今回も〈ハミルトン〉の「ベンチュラ」の古いモデルを見つけたんですが、、

尾崎:その場で僕が1秒で買っちゃうんです(笑)。

金子:僕の行動が遠くからチェックされてるんです(笑)。

尾崎:金子さんが手にしたバッグ見て「うわ、あれやべえ」って。悔しさもあるんですよね。そういうのって、微妙に勝ち負けがあるんです。たぶん古着のバイヤーをやってる人ならわかると思うんですけど。「あいつがあれ出した」ってやつです。なんであっちを回らなかったんだー、みたいな。それを見つけられるかどうかって、結局は嗅覚なので、ものすごく負けた気になるんですよね。

金子:嗅覚、超大事だね。

尾崎:どこに行ったらいいものがあるのかっていう。運ももちろんありますけど、運を最大限にまで高めるのは嗅覚だと思いますね。

金子:不思議とそういうのってあるよね。でも、ない人はないんだよなぁ。

尾崎:金子さんみたいに、マーケットで見つけたものがすぐに商売になるっていう店も少ないんで、まぁ必ずしもなくてもいいとは思うんですけど。あ、でもさっき金子さんも言ってましたけど、合同展に行ったときの行動にも、嗅覚のあるなしは関係ありますね。

金子:そうだね。

尾崎:そのブースを見つけられるかどうかみたいな。でも、場数は踏まないとだめですね。

ーところで、金子さんは尾崎さんが作るものに関してはどんな印象を持ってらっしゃるんですか? そろそろ、金子さんにも質問をしてもらわないと(笑)。

金子:そうですね(笑)。

尾崎:こわ(笑)。

金子:うーん、尾崎くんだけということではないんですけど、「エディフィス」出身でいまでも親交があるデザイナーに、尾崎、小森、板井(〈フランクリン テーラード(The FRANKLIN TAILORED)〉デザイナー、板井秀司氏)という3人がいるんです。

ーはい。

金子:その3人の趣味趣向はかなり知ってるわけです。その上で彼らが作ったものを見ると、やっぱりみんな自分らしいものを作ってるんですよね。

尾崎:たしかに金子さんは、全員と付き合い長いですよね。

金子:そう。だから作ってるものも、ものすごく理解できるんです、わかるわかるって感じで。そのうえ、3人ともテイストがぶつからずにみんなうまくいってるのが素晴らしいなって。ただ、個人的にはその3人の服を買うことはないんですよね。仕入れも今は〈コモリ〉を少しやってる程度で。なんででしょうね(笑)。

ー前編でもその話になりましたが、答えは出ませんでしたね(笑)。

金子:でも、とにかくみんな自分の持ち味を表現することにかけては、ずば抜けてますよ。頭に描いたものをすーっと具現化できる力というか。それぞれに特徴があるなかで、尾崎くんの場合はとにかく突き詰めるタイプですね。ある物事をきちんと掘り下げて、それを形にする努力を怠っていないというか。

尾崎:ただ、それを人に伝えることがあまりうまくできてないんですよね。

金子:そうなの?

尾崎:はい。多分世間に伝わってることよりも、だいぶマニアックなことを色々やってるんですけど、それを全部挙げて説明したら煩くなっちゃう気がして。

金子:そういう意味では前にも言ったけど、不器用なところがあるのかもね。基本的には、ものすごく器用だと思うんですけど。

尾崎:みなさんご存知ないかもしれませんが、僕結構不器用なんです。いや、本当に。

ーそれは照れみたいなものではないんですか? 全部出すのは、なんだか恥ずかしいなという。

尾崎:うーん、どうなんでしょう。金子さんに言われるまで、僕も自分のことを器用な人だと思ってたんです。でも言われてみるとたしかに不器用かもなって。いろんなことができるようで、俯瞰すると結局それできてないじゃん、みたいな。そもそも自分の言いたいことを人に伝えられてないという。

ー伝えたいけど伝わってないのと、伝えたいけどそこまで伝わらなくてもいいかと思ってるのって、少し違いますよね。

尾崎:確かにそうですね。しかも、あまり言葉を尽くさなくても、伝わる人にはきちんと伝わってるんです。そうなると、言葉にし続けなければ伝わらない人に対して、自分がそうまでして伝えるべきかっていうことも考えてしまうんですよね。そうすると最終的には作るものも変えなきゃいけなくなってしまうと思うんです。

ーもっとわかりやすいものに。

尾崎:はい。すべてそういう考え方で作っているわけではありませんが、〈サンカッケー〉に関しては自分の作るものを変えてまで、たくさんの人にウケようとは思っていません。〈サンカッケー〉のような服が好きな人は絶対にいるはずだという考えのもとに、そこに向けて直球を投げていくんです。これ、もともとは金子さんの考え方なんですけど。

前にインタビューさせてもらったときにも言ってましたね。

尾崎:そうなんです。金子さんといっしょにバイイングしている時期の話なんですが、ちょっと僕が行き詰まってるときに「難しい商品でも、自分が好きなんだったらやればいいと思うよ。お前が1000人とか10000人にひとりの趣味を持ってるとしたら、100万人いたらお前と同じ趣味を持っている人が何人いるの? その1000人なり100人なりには絶対売れるんだから、その数を間違えるな」という話をしてもらったんです。その話をいまだにものづくりの中心に置いています。自分を曲げてものを作るんじゃなく、曲げずに作り続ける方法を考えてるというか。

ーなるほど。

尾崎:〈サンカッケー〉というブランドはやり方も作るものも色々変えてきていて、しかもまたこれから変えようとしてるんですが、芯のところは自分が本当に良いと思うものを何人かにきちっと伝えていくことなんです。そういう人を、毎シーズン1人か2人増やしていくことを大事にしています。まだ製品を見たことないっていう人が 多いんですが、見てもらうと殆どの場合、驚いてくれて、好きになってくれるんです。なので、より多くの場所で見せられる機会を増やしていきたいなって思ってます。昔作った製品が、今見てもだいたいまだ着られるなっていうものが多いので、まだ今のところ“曲げずに”来られてるな、と思っています。

金子:〈サンカッケー〉はもしかしたら、卸しをやめてもいいかもしれないね。

尾崎:うーん。そうなんですよね。。もちろんいきなり完全にやめるということは ないんですけど、より「B to C」な売り方をしていくべきかなとは思っています。バイヤーの立場になると、リスクが大きくてなかなか買いづらいんですよ、〈サンカッケー〉って。そのリスクを回避する方法って、やっぱりお店側が売りやすい状況をブランドとしてど れだけ作っていけるかっていうこともあると思うんですけど、そこまで手が届いていないというのが現状なんです。結局、販促は本当の自分の役割ではないと思ってしまうので。

金子:実は今日、僕もそれと近しい話をしていて。お店で売るのが難しい商品に関しては、バイヤーに見て買ってもらうということを考え直した方がいいのかもしれないのかなって。

尾崎:バイヤーがそれ言いますか(笑)。

金子:バイヤーに売るのに必死になるよりも、直接お客さんに売れる手段を模索するべきというか。「レショップ」でやってる〈サバ〉という靴があるんですが、ここはもともと卸しをしていないブランドで。自分たちのショールームを「サバハウス」って呼んでいて、お客さんがそこに電話でアポイントを入れて買うって商品なんです。

L'ÉCHOPPEさん(@lechoppe.jp)が投稿した写真

尾崎:へー。

金子:そんなビジネスのやり方をしていたブランドなんですが、僕が卸しをしてほしい!と無理にお願いしてウチでやってもらっているんです。あとは地方のイケてるホテルとかで3日間くらいのポップアップショップをやっていて。各地でいい感じのスペースを見つけて、アメリカ中を回りながら、期間限定で売ってるみたいです。

尾崎:さっき〈サンカッケー〉をまた変えようとしてるっていうのはまさにそういうことなんです。ポップアップなどでの直売と、インターネットでの販売を中心にしてみようかなと。僕自身が直接お客さんに伝えられる仕組みを作っていかないと〈サンカッケー〉というブランドの良い部分は解り難いだろうと思うんです。

金子:そうだね。そうするべきだと思うよ。

尾崎:僕もバイヤーをやっていたので、1シーズンにどれだけ買えるのかという数字は見えるんです。なので、ちょっと変えていかないといけないなって。そう考えると、板井の商売のやり方にもちょっと近いのかなって。でも、あいつはお店を持ってるんで、ああいうやり方ができるわけですよね。僕は一人でやっている以上、お店を持つことは不可能なので、どういうやり方がいいのかっていうのをいまも模索中なんです。


尾崎さんの思い出の一品。その2

尾崎:これもまた懐かしい、〈ジョン ピアース〉です。

金子:おぉ、懐かしいねぇ。

尾崎:僕ロンドンに住んでたんで、ロンドン担当になったんです。そこでやった仕事といえば〈ジョン ピアース〉のオーダーでした。これも当時の「エディフィス」を象徴するアイテムですよね。ジョン ピアースってヴィヴィアン・ウェストウッドの友達で、ジャケットとかを作るのを手伝ってたんですよね、たしか。

金子:29000円くらいしたよね、これ。当時としては高いよね。

尾崎:どこかにパンクマインドがあるテーラリングですよね。

金子:そうそうそう。

尾崎:これは最近買ったものです。元々僕が何に惚れて金子さんの弟子になっていったかと言うと、「エディフィス」では、前編で金子さんが出したような〈ジェシカ オグデン〉とか、見たことのないような仕入れのブランドがありながら、〈ダントン〉のワークウェアみたいなものをミックスするというスタイリングがすごく衝撃的だったからなんです。

—なるほど。

尾崎:で、このフレンチワーク的なアイテムとか、ボーダーのTシャツ、あとは〈レペット〉みたいなアイテムって、今着ることはないんだけど、でもやっぱり好きで、持ってない時はないんです。あとは、破れたところを直すっていう方法でここまで来てるのが面白いですよね。アメカジにはそういう考え方ないですし。

金子:ないよね。直して着る文化があるよね。買い換えないというか。

尾崎:主にイギリスとフランスですよね、直すのは。やっぱりアメリカは捨てた方が早いっていう文化なんだと思います。ジーパンですら捨ててたわけですからね。あんなに値段上がるのに(笑)。

尾崎:エスパドリーユ続きで申し訳ないんですけど、「レショップ」で買った衝撃的に良いエスパです。黒はまだ下ろしてないんですけど、白はめちゃくちゃ履いてますね。

金子:うれしいですね。

尾崎:僕本当にエスパドリーユ好きで、夏はエスパドリーユでしょ、みたいな妄想があったわけですよ。フレンチのリゾートでは足元はエスパドリーユみたいな。かなり色々なメーカーのを履き続けてるんですけど、これには本当に衝撃を受けました。こういうレザーものって邪道だと思ってたんですけど、これは普通じゃないです。何がいいって、この爪先のとこなろんですよね。

金子:そうだね。やっぱりいいな。

尾崎:あんまり伸びないですし。名品です、これは。

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