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自分が楽しみにしているものが存在しない不幸

―最近の音楽業界は景気が悪い、というのが一般的な認識だと思います。そんなときに、あらたに音楽雑誌を創刊されるというのは、どういった気持ちなのでしょうか。

浜田:何年か前にふと、"かならず買う雑誌がなくなったなあ"って思ったんです。これはちょっとおかしいんじゃないか、と(笑)。だって、楽しみにしているものが存在しないわけですからね。それって相当不幸じゃないですか? そういう気持ちの蓄積がきっかけかもしれません。これは、自分がイベントをはじめたときも同じ感覚でした。"なんか足んないんだよねえ"みたいな。

―情報を摂取するための最初の扉が、ネットに移行しちゃってますからね。

浜田:もちろんネットである程度の情報は入ってきますけど、それは、信頼する相手からまとまった情報を供給してもらう、という関係ではないんですよね。ぼくはそういう先生が欲しいんです(笑)。で、それが雑誌。雑誌という容器を用意しておけば、たくさんのひとがいろんなことを教えてくれますからね。単に怠け者なだけなんですけど。

―既存の雑誌ではだめなんですか。

浜田:ちょっと私事になるんですが、ぼくは自分がやっていたイベントのせいで、何年間かほとんど買い物ができない時期があったんですね(笑)。だけど、じょじょに状況が回復してきて、そうすると、がぜん音楽が聴きたくなったんです。

―それは良かったです(笑)。

浜田:でも長いあいだ音楽の情報をシャットアウトしてたから、急に新譜が聴きたくなっても、なにを買っていいのかわからないんですね。で、「じゃあ音楽雑誌見るでしょ」ということで、長いあいだ見てなかった音楽雑誌にあたってみたんです。「これを読めば、いまおれが買うべきCDを教えてくれるんでしょう?」という気持ちで。1万円札握りしめてね(笑)。

―子どもが駄菓子屋に行く前みたいですね(笑)。

浜田:3年ぶりぐらいですから、相当高揚してましたね。で、どれとは言いませんが(笑)、3冊ぐらい雑誌を選んで、1ページずつあますところなく、はしからはしまで読みこんだわけです。

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浜田 淳さん
1972年鳥取市生まれ。編集者。
ハリ・ハウ編集室主宰。
『音盤時代』の編集長を務める。主な著作に『ジョニー・B・グッジョブ 音楽を仕事にする人』(カンゼン)、『LIFE AT SLITS』(P‐Vine BOOKS)などがある。
holly-howe.blogspot.com/ onbanjidai.blogspot.com
取材協力/食堂カルン