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情報弱者がつくる雑誌

―自分のため、ですか。

浜田:モチベーションとしては、それがいちばんですね。ぼくは、音楽は好きだけど、まったく詳しくないんですよ。情報をどうやって収集していいのかわからない。いつも友人に教えてもらって買ってるんですが、なんでこいつらはこんなことをたくさん知ってるんだろう......と不思議でしょうがない。つまり、言葉の使い方がちょっと違いますが、あえて言うとぼくは情報弱者です。だから、自動的に自分好みの情報が入ってくるシステムがつくりたかったんですね。で、そのシステムというのが、ぼくにとっては雑誌なのかなあ、ということです。

―とはいえこの時代に雑誌というのも、チャレンジングかなと。

浜田:やり方はほかにもあるんでしょうけどね。実際、すべてのオンラインショップの試聴をしまくれば、ある程度のリリースは押さえられますよね。だけど、量的時間的な問題ですべてを聴くわけにはいかない以上、どこかで選ぶわけじゃないですか。そこで自分のフィルターが働くのがいやなんです。自分の手ぐせのせいで、永久にある種のカテゴリーをスルーしてしまっているような気がして。
 あと、結局は雑誌が好き、っていうのが大きいんじゃないですか(笑)。元も子もないことを言いますけど。だからこそ、メディアにたいしてはいらだちも多いんです。

―さきほども出た、編集面での話ですか。

浜田:媒体というか編集って、2種類あると思うんですね。簡単に言うと、知ってる人間がそれを教えるためにつくるものと、知らない人間がそれを知るためにつくるもの、です。

―はい。

浜田:まあ、言うほどのことではないですが、前者の場合は、発信側にカリスマ的なブランド力があって、それに盲従する顧客がいれば成り立ちますよね。でも、その発信者にブランド力を感じない人間にとっては、そのひとの発言はただのインクのシミでしょう? 現状の音楽雑誌というのはほぼこれだと思います。カリスマ性に裏打ちされていない媒体であるなら、ブランド力に頼らない編集をしなければならないんです。なのに、ブランド力があると妄想してつくっているから、そこにブランドを感じないぼくのような人間にとっては、それらはただのインクのシミでしかないわけです。

―インクのシミっていうと......。

浜田:インクのシミっていうのは......たとえるなら、目の前の聴衆はみんな退屈で居眠りしてるのに、それに気付かずに延々と演説してる校長先生みたいなひとのこと(笑)。つまり、自分が書いたことを、一文一文、読者がうなずいてくれているのか、それともさっさとページをめくっちゃったのかにたいする想像力が欠如している状態のことです。というか、自分の美文や編集に酔いしれちゃってるから、読者のことなんか見向きもしないんですよね(笑)。自分にとっていいものをつくれば、読者も受け入れてくれるとでも思っているわけです。

―きびしいお言葉です。

浜田:だからそのときに、編集の人間がそのあいだに立って、「いま、この先生はこれこれについてしゃべってるんですよ」と、講座のお題を細かく分けて、聞き手が理解しやすいようにしないといけないんです。  あと、えてして、知ってる人間はぼくたち知らない人間の気持ちがわからないでしょう(笑)? つまり、優等生で学校の教師になった人間には、劣等生の気持ちはわからないのと同じです。ぼくは子どものころ、「何度言ったらわかるんだ、お前は」ってよく言われましたけど、わからないから何度もやるわけですよ(笑)。

―わかりますねえ(笑)。

浜田:それと同じで、音楽雑誌が前提としているものって、ものすごく狭いんですよね。文章を読んでいると、わかっている者同士が暗号でやりとりしているのを見せつけられている気になります。これ、誰に向かってしゃべってんだろう? って。そうすると、こちらは妙な疎外感に襲われるんです。それは、音楽雑誌のほとんどが、前者の思想でつくられているからだと思います。思想というか、考えてないだけだけど。ぼくは劣等生なので、そういう気配りのなさには厳しいんです(笑)。もちろん、逆にまったく知らない名詞が矢継ぎ早に出てくることによって好奇心を刺激されることはよくあります。なのでそのへんは紙一重ですが、意識してつくっているかどうかで読者の受け取り方も違ってくると信じています。

―ただの自慢か戦略かの違いは、読者も無意識に感じとるでしょうね。

浜田:そう。醜い自己愛から出たものなのか、それとも読者のための情報なのかは、人間であればわかります(笑)。結果的にページを飛ばしてしまったとしたらただの自己愛としてしか読まれなかったんだろうし、そこに出てくる作品に興味をもって、検索でもしてくれたら好奇心を刺激できたんだろうし。

―なんというか、無意識に仕事できませんね。

浜田:人気作家じゃないですからね、無意識じゃ困るんです。そもそも、ぼくがこうやって文句ばっかり言ってるのは、ひとりの消費者として、雑誌に馬鹿にされているという思いが強いからです。同業者として、ではないんです。雑誌から離れていった読者サンプルだと思ってほしい。読者はこんな声すら発さずに、黙って去っていくだけですからね。事態は深刻ですよ。最近の雑誌を見ていると、雑誌離れという事態が、まさか自分たちに起因しているとは夢にも思わずに作り続けている、という印象を受けますからね。脳天気というか。

―意外と問題点があるものなんですね。

浜田:たくさんありますよ。あと目に余るのは、サブカルチャーの世界の有名人みたいなひとをブッキングしてしゃべってもらって終わり、みたいな編集も多いですよね。だけど、有名人のスケジュールと喫茶店を押さえるだけで雑誌ができるなら、誰だってできますよ。ぼくはそういう知名度に頼った編集がいちばん嫌いなんです。人名が並んでるだけの雑誌なんて。そんなの思考停止でしょう? そういう方法論が同じ限り、似たような媒体しか生まれませんしね。本当はもっともっと変てこな雑誌が生まれてもおかしくないと思うんですけど、どれもこれも想定内でしょう? だから読者は立ち上がるべきなんです、こんなもん買わないぞって。あ、もう買ってないのか(笑)。