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創刊号の課題

―では、実際に今回やられてみて、いかがでしたか。

浜田:まだまだ一合目って感じですね(笑)。

―ええ? そんな(笑)。

浜田:偉そうなことを言っておいて、すみません。原稿はみなさんすばらしいんですけど、まだまだ雑誌側の幅が狭いというか。あと、発売後に大事なことに気づきました。

―なんでしょう(笑)。

浜田:この本って、現状の音楽雑誌にたいする不満みたいなものをハードルにしてたんですね。無意識のレベルですが。でもそのせいで、そのハードルって音楽雑誌の長い歴史から見た場合、ものすごく低すぎるんじゃないか? と(笑)。

―どういうことですか。

浜田:いまの状況に釣られた、ってことです。ハードルを無意識にひざぐらいの高さにしてた、というか(笑)。というのは、先日、たまたま80年前後の『ミュージック・マガジン』をぱらぱらしてたら、ふつうにおもしろいんです。ついでに『ニュー・ミュージック・マガジン』も押し入れから探してきて久々に読んでみたら、やっぱりおもしろい。特に77年あたりから、原稿のテーマが新譜アーティスト以外の評論もちらほらあって、けっこうぼくが求めてるものというか(笑)。その時期は『年鑑』という別冊もあって、79年のそれはイギリスからアパラチア山脈への移民の論考とか、マーダーバラッドの研究とか、ぼく的にはめちゃストライクなんですよね。カントリー好きだから(笑)。

―素直な読者じゃないですか(笑)。

浜田:そうそう。大先生(笑)。だから、こんな雑誌があったら自分で雑誌をつくろうなんて思わないだろうなあと思ったんですけど、「そういえばつくったばっかりじゃん、ヤベエ」みたいな(笑)。ハッとしてしまって......。まあ、季刊誌だし、目指すところも違うから、そんな萎縮する必要もないんですけど。

―同じ土俵じゃなければ大丈夫ですよ(笑)。

浜田:そこは本当に違うんですよ。ぼくはポップミュージックとかクラシックとかの言葉が機能する境界じゃなくて、もっと、根源的なところで機能している音楽を紹介したい気持ちが強いんです。なので、いまは子どもの音楽教育や音楽療法とかの世界を勉強しているんですけど。そのへんは次の創刊号で提示できるといいんですが。

―しかし、税込みで1,575円は高いですねぇ(笑)

浜田:これはね......もちろんぼくとしても本意じゃないですけど、この本を出版社に出してもらう以上はそこにリスクを背負わせるわけだから、ぼくからはある一定のところまでしか言えないんですよね。

―大人の事情ってやつですね。

浜田:いや、単純に売り上げ予測とコストのバランスですけどね。だって、こんな2000部売れるのかどうかもわからないようなジャンルでこの内容にしちゃったら、そりゃあこの値段にはなりますわな(笑)。逆をいえば、こんな本を出してくれるだけありがたい話というか。

―メーカーからの広告は考えなかったですか。

浜田:そういう世界というか、流れみたいなものを再生産しないことがこの本の目的ですからね。それの行き着く先が東電でしょう(笑)?

―広告を入れたらこうはならなかったかもしれませんね。

浜田:出版社のそろばんは大前提ですけど、ぼくの段階でもあえてこの値段を受け入れた部分はあります。というのは、音楽媒体につきものの広告タブーの世界を否定するには、作り手はもちろん、受け手もその分のコストを共有することに慣れていってくれたらなあ、みたいな気持ちが、どこかにあるんですよね。コストアップしてもいいから、安心な発電方法にしようよ、みたいな(笑)。あと、八百屋さんとかは広告なんかなくて、実売で勝負してるわけですしね。

―微妙なところですね。

浜田:うん、こんなことは作り手が言っちゃあいけないことなんですけどね。でも、それは売り上げという数字が判決をくだすことですから、言ったっていいんです(笑)。ぼくがどんな言い訳を言おうが言うまいが、値段と現物の釣り合いが取れてなければ数字で結果が出て、お客に「ノー」と言われればこの世界から退場するだけですからね。でも、現状の数字を見ると、いちおう「ウェルカム」と言ってもらえたようです。とはいえ、もちろん次の創刊号は値下げを前提につくるつもりですよ。

―がんばってください。

浜田:まあ、この準備号は習作ということで、次はもっと自分を問いつめながらつくりますので。なので、その創刊号が出せるように、こんな本ですが、もうちょっとのあいだご支援いただければ、と書いといてもらえますか(笑)。


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