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オノ セイゲン空間デザイナー/ミュージシャン録音エンジニアとして、82年の「坂本龍一/戦場のメリークリスマス」にはじまり、多数のアー ティストのプロジェクトに参加。87年に川久保玲から「洋服が奇麗に見えるような音楽を」という依頼により作曲、制作した『COMME des GARCONS / SEIGEN ONO』ほか多数のアルバムを発表。Photo by Lieko Shiga

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オノ セイゲン
空間デザイナー/ミュージシャン

録音エンジニアとして、82年の「坂本龍一/戦場のメリークリスマス」にはじまり、多数のアー ティストのプロジェクトに参加。87年に川久保玲から「洋服が奇麗に見えるような音楽を」という依頼により作曲、制作した『COMME des GARCONS / SEIGEN ONO』ほか多数のアルバムを発表。

Photo by Lieko Shiga

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サイレンスを売るアムステルダム「コンセルトへボウ」

2010.12.16

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今週は、極寒のアムステルダムに来ている。朝はマイナス5度。明るいのは9時から5時までだけ。レンガ造りの建物が多いレジデンスエリアはニューヨークに似ている。いやニューヨークがアムステルダムに似せたのだった。東京都心の喧噪とは大違いで、ここには毎晩、サイレンスを売る「コンセルトへボウ」がある。都市生活者にこそ「サイレンス」は必須アイテムだと思う。サイレンス=静寂。音楽のサイレンスは物理的な無音ではない。楽譜で音符の書かれていない部分。サイレンスには、音楽としてもっとも重要な少なくともふたつの情報が入っている。1:記譜された音を発音した楽器の余韻と響き(ホールの初期反射や残響もデジタル・リバーブでも)。2:もうひとつは、音楽自体でもある「間」や「心」である。アムステルダムのコンセルトヘボウでは音楽にかかせない響き、また楽曲、演奏家の心を伝達する空間、そして「サイレンス」が伝統的価値となっている。

Amsterdam_Dec2010_490.jpg

 以下、コンセルトヘボウ J.H.ヴァン・ヴィアード氏(音響責任者)との会話より:
『我々は、照明、空調、またセキュリティーに至るまで、オーケストラに必要なことのすべての部門との調整を45人のフルタイムのスタッフで、つまりコンセルトヘボウの建物すべての管理をしているのです。録音やPAなどサウンドのテクニシャンは外部からです。テレビ、ラジオ、レコードなど年間180回程度は録音(公開録音含む)にも使用されます。コンセルトヘボウ・オーケストラは優先的に、メインホールと小ホールで年間850ものプログラムをこなしています。19:30にドアオープン。20:15にコンサートがスタート。21:00頃インターミッション、22:15〜22:30ころには終演です。土曜は、大小ホールで午後に2つ、夜も2つ。日曜はさらに朝10:00〜11:00のプリコンサート、11:00〜12:00はレギュラーでラジオの録音があり、14:15には午後のコンサートが始まります。これが毎日ですから、プログラムが入れ代わる時間のバックステージはたいへんな忙しさなのです。レセプションやレコーディングではメインホールの椅子をすべて地下スペースに撤収したり、これにはスタッフ8人で3時間半かかります。デッカなどが1週間もホールでオーケストラのレコーディングをする場合でも夜は通常プログラムがあるわけですから毎日これです。
 サイレンスなしにして音楽のクリエーションはあり得ません。サイレンスがないと音楽を演奏できませんよね。ボストン(シンフォニーホール)が20世紀、ウィーン(ムジークフェライン)がバロックで、アムステルダム(コンセルトヘボウ)が19世紀の音楽に最適であると言われています。我々は、なぜここの音響が優れているのか誰も知りません。世界一流ですが、それを意識したこともありません。秘密は何もありません。』

 参考までに、メインホールの残響は2.8秒、観客入りで2.2秒。マーラーなどに最適。ピアノは14台あり、ピアニストが好きなものを選ぶことができる。何度も改修されたコンセルトへボウのオルガンは2726本のパイプがある。A=442Hz。(ちなみにオルガンのAのピッチはベルリンは445Hz、ロンドンは440Hzである。)

公式ホームページ: concertgebouw