渋谷慶一郎×太田莉菜×伊藤直樹×清水幹太 スペシャル座談
2012.02.15
―太田さんは今回の楽曲を聴いて、どのように歌おうという考えはありましたか?
太田:楽曲は、渋谷さんが映画用に作っていたものをピアノソロで聴いたのが最初だったんですけど、まずイメージとして自然風景が思い浮かんできました。私の場合は、暗い海だったり岩肌だったり深い森だったり、そういう感じですね。歌詞は菊地さんにお願いすると聞いていたのですが、最初に出てきたものはちょっと歌いずらいかなぁと言って...(笑)
渋谷:そうそう、ダメ出しがあったんですよ。莉菜ちゃんから「私こんなイタい子じゃないですよ! よくそうやって思われるんですよね...はぁ」って。それで「分かった分かった」とか言って(笑)。
―ボツ案かなり気になりますね。
渋谷:綾波レイのテーマと呼んでいて。
太田:そう、"残酷な"とか"生け贄の少女が"とか...
渋谷:そうそう、生け贄感はすごく強かったよね。
太田:なんかちょっとそれは嫌だなあって言って。
伊藤:それを自分で歌うんだもんね。
太田:そうですよ。
渋谷:歌いたくないことだけは歌うのが難しいんですよね。
太田:色んな試行錯誤があって、今の「曖昧さ」をテーマにした歌詞になったんですけど、実際に歌うときに何かを考えたかと言われると、何も考えていないですね。できるだけ作り込まずに、自然に歌ってほしいということは言われていたので、必要な部分だけ自分の中に取り込んで、無意識に近い感じで歌いました。曲に対する主観性はほとんど無い状態で。
伊藤:そこ大事ですよね。
渋谷:ヴォーカリストの主観性なんていらないからね。
伊藤:確か、歌詞もバラバラに解体してるんですよね。そこら辺をPVで上手く表現できれば良いですね。ベタベタの感情というよりはちょっと引いた感じで歌っているし、言葉も解体されているしで、少し不思議なものになるのかなと思いますよね。
渋谷:恋愛がテーマというかいわゆるラブソングみたいに聴こえるけど、歌詞を読むと3.11以降をすごく冷徹に、空から俯瞰して見ているようでもあるという二重の意味がずっと続いているんです。
―渋谷さんと太田さんにしてみれば、PVで山や自然が登場するのもイメージした通りといった感じでしょうか。
渋谷:いや、でも僕には思い付かないアイディアです。山というかランドスケーブがメインなんだけど、そこに光ファイバーが走っているとテクノロジーと自然のバランスはすごくいいんじゃないかなと思いますよね。
清水:製作のことを考えると、自分でできる分ある程度想像できたりするわけですよ。だから、どうすればコントロールし易いかが分かる。コントロールしやすいということはクオリティが上げられるし、自分が目指したい表現に近づけると。環境やランドスケープの解像度は、(カメラを)引いたり寄ったりしながら良い画にもっていけるように努力しましたね。まだ途中ですが、今のところ上手くいってるんじゃないでしょうか。
伊藤:ここまでの進行は素晴らしいですよ。
―ちなみに渋谷さん自身はPVに出演されるのは初めてですか?
渋谷:相対性理論と一緒にやったときに1度あるんだけど映ってないんですよね(笑)。車が燃えているPVがあるんですが、実は全員車の中に乗ってるんですよ。
一同:はははは!
渋谷:しかも全員ヘアメイクまでして(笑)。みんな黒い服着て乗ってるんだけど誰一人一瞬も映らないっていう(笑)。
伊藤:それすごいっすね。
渋谷:映らないっていうのは前提としてあったんだけど、車に誰か乗ってるっていうことは必要だったんですよ。で、乗ってるとすれば自分たちじゃなきゃおかしいでしょ。エキストラが乗ってるってなったらすごくダサい。それで、万が一ちょっとでも映り込んだときに間抜けな感じがしたらダサいよね、ってことでヘアメイクして撮影したんです。なんか髪とか造形的に計算されてないと、家族旅行の車が炎上したみたいになっちゃうから(笑)。だから、ちゃんと映るのは初めてです(笑)。
―今回のPV撮影はみなさん演技をされてるんですか?
伊藤:一応、意味付けするためにも演技は色々やってもらってますよ。
清水:ミュージックビデオは何度か作らせていただくんですけど、んー、なんというか色々とアンビエントな部分があるなかで、展開に様式美っていうのがあると、割とうまくいきますよね。様式美をちょっとだけ組み込んで起伏を作るというか。ガチガチじゃないけど定石っぽい。その辺りを演技とかで補ってもらってる感じですね。
伊藤:そうですね。つまり、演技がないとアブストラクトになりすぎるんですよ。山とか人がいるだけじゃ抽象的になりすぎる。
清水:ただでさえ、展開に関してはすごくチャレンジングなことをしているので、ちょっと戻すというか、よりパブリックにアピールできるようになるよう、想像しながらやっている感じですね。
―その辺りは今回のPVの見所ですね。
渋谷:アブストラクトすぎるのは面白くないな、という気分はあります。アブストラクトで有効なものがあるとしたら、限りなく無意味で解体したようなものの方がいい。「一応、曲なんだけどアブストラクトな部分もある」っていうのは、90年代っぽいというか新鮮さを感じない。
清水:音楽に映像をつけるっていうことは、音楽を増幅させなくてはならないということですから。今回のPVではその辺りについて本当に考えましたよ。
渋谷慶一郎
1973年生まれ。音楽家/「ATAK」主宰。東京芸術大学作曲科卒業。2002年に音楽レーベル「ATAK」を設立し、国内外の先鋭的な電子音響作品をリリース。2012年2月、同レーベルより映画『セイジ/陸の魚』のサウンドトラック『ATAK017 Sacrifice Soundtrack for Seiji "Fish on Land"』を発売。
太田莉菜
1988年生まれ。千葉県出身。モデル/女優。数多くのファッション誌でモデルとして活躍するほか、2004年に映画『69 Sixty Nine』でスクリーンデビュー。映画『セイジ/陸の魚』のイメージソング、渋谷慶一郎 feat. 太田莉菜「サクリファイス」ではボーカルを務める。
伊藤直樹
1971年生まれ。静岡県出身。早稲田大学法学部卒業。「PARTY(パーティ)」CCO。「Weiden+Kennedy Tokyo」のクリエイティブ・ディレクターとして、数多くのCMやウェブサイトの制作を手掛けた後、2011年、清水幹太や原野守弘らとともにクリエイティブラボ「PARTY」を立ち上げる。
清水幹太
東京大学法学部在学中に(株)マガジンハウス『ターザン』編集部でDTP組版などに従事。大学中退後、(株)イメージソースに入社しエンジニア/ディレクターとして、数多くの広告制作を担当。2011年、伊藤直樹らとともにクリエイティブラボ「PARTY」を立ち上げる。