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World Street Classic vol.2

2012.06.08

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各方面で話題になりつつある「World Street Classic」。好評だったVol.1に続きまして、第2回目を公開! 今回は、Poggy・小野田両氏がとくに気になっているスーツと、それにまつわるアイテムについて。ストリートな感覚で着崩すのが「WSC」の神髄ではありますが、やはりハズしは王道を知ってから。というわけで、彼らが予習・復習、そして失敗を繰り返して身につけたスーツの諸々について、届けていきます!

Photo_Yuya Wada
Edit_Ryutaro Yanaka

スーツ=カッコいいもの。

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―では、おふたりが気になっているスーツについて、いろいろとうかがっていきたいのですが。

小木 "Poggy" 基史氏(敬称略/以下Poggy):どれも、本に書いてあることですけど...。

小野田 史氏(敬称略/以下小野田):まったくスーツを知らない人や、学生時代にブレザーとか着たことがない人は、とにかく免疫がないから、きっとこのトルソーに着付けした2着を見てもほとんど同じに見えちゃうと思います。

―そういった人の方が多いかもですね。

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[左]〈ブルックス ブラザーズ 〉ノッチドラペル段返り3ボタンスーツ(スタイリスト小野田私物)、〈ブルックス ブラザーズ〉BDシャツ ¥13,650(ユナイテッドアローズ 原宿本店 メンズ館 03-3479-8180)、[右]〈ハケット ロンドン〉ノッチドラペル2ボタンスーツ ¥89,250(ハケット ロンドン 丸の内店 03-3217-8510)、〈ターンブル&アッサー〉シャツ ¥30,450、〈ドレイクス〉ソリッドタイ ¥15,750(ともにユナイテッドアローズ 原宿本店 メンズ館 03-3479-8180)


Poggy:その辺から説明した方がイイでしょうね。今のスーツの原型となっているのが、1900年代初頭から広がっていった「ラウンジスーツ」って呼ばれていたスーツ。それまでのフロックコートとかイブニングコートとかにシルクハットを合わせるようなスタイルから変遷して、食事するスペースの隣にある、食前・食後にお酒を嗜むようなラウンジスペースでリラックスする服から始まっています 。

だから、身体にフィットさせたシェイプのイブニングコートとはまったく異なった、くつろげるシェイプのないシルエットに仕立てられています。それで、向かって左は原型が 1900年に完成 し 、現状の3ボタン段返りモデルは1918年に完成したと言われている〈ブルックスブラザーズ〉のⅠ型、NO.1サックスーツです。このサックというのも、「袋」という意味から来ていて、ゆったりと着られる作りでアメリカのスーツの根底にあります。

―アメリカのザ・スタンダード スーツですね。

Poggy:一方、右のスーツは、英国の流れを踏襲したスーツ。弊社の鴨志田が、アメリカンとブリティッシュの違いは「内蔵物」と言っていましたが、イギリスのスーツの特徴は肩周りがガシッとしていて、ウェストはキュッとシェイプしていて、男らしい作りなんですが、そういったスーツは既成ではなかなか見当たらなくて...。仕立てるしかない中でピックアップしてきた現在も買うことが出来るスーツです。分かりやすいブリティッシュのディティールとしては、ウェストのシェイプとチケットポケットと呼ばれるポケットが付いたり、スラントポケットと呼ばれるポケット口が斜めにカットされたディテールですね。

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小野田:あとは裾はヒップ周りまでゆったりとかぶさるぐらいに、着丈が長めですね。

Poggy:もともとはミリタリー、軍服から始まって、詰め襟を折り返した名残がラペルになっています。1900年代初頭までは4つボタンでVゾーンが狭いモデルが主流で、3つボタンのモデルはモダンだと考えられていました。それが現在では3つボタンがクラシックで、2つボタンのモデルがモダンに変化してきています。こういったことを把握していると2つボタンでモダンに行こうとか、3つボタンでクラシックに行くぞ! とか、選ぶ楽しみも増えますよね。

小野田:それからちょっと余談にはなりますが、18世紀までシャツは下着と考えられていましたから衿しか見えませんでしたし、人前、とくに女性の前でシャツイチになるのは大変非礼であって、ジャケットは絶対に脱ぎませんでした。こと西洋ではまだこの考え方が根付いているので、モダンが良しとされる今の時代でもそれは昔と変わることなく、公式行事などでシャツイチで出席することなど、もってのほかなんですよね。

Poggy:1930年代になると、夏にシアサッカーやリネンのスーツを着るような現代にも通じる着こなしが誕生してきて、1940年代に入ると「ズートスーツ」と呼ばれるスーツが流行します。

―たっぷりとしたシルエットのスーツですね。

Poggy:あれは、大戦時物資が枯渇した状況時に〈リーバイス〉のアーキュエットステッチをペンキで代行したように、パッチポケットを省略したり、ダブルブレストを着たときには見えないという理由で「ウェストコートは着ないでください」という規制が生まれたような時代に、丈が長かったりワイドパンツを穿いたりと、あえて生地を多量に使う反骨精神や、リッチであるという証明だったんですよね。

―そんな意味が込められていたんですね。

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Poggy:1950年代に入ると、それまで大人の服か子どもの服しかなかったところに、エルビス・プレスリーを代表するような若者のためのスーツっていうのが誕生します。そして、1960年代にはアイビースタイルが生まれ、60年代後半にはモードのスーツが出てくるんです。そういった大体の歴史も分かっておくと、いろいろなことへの応用範囲が広がっていくと思います。

小野田:ファッションは感覚だけでなく、国々の裏打ちというか歴史考証が大事なのを理解している小木ちゃんだけあって、さすがにそのあたりのアカデミックな歴史については大変詳しいですね。恐れ入ります。

Poggy:いやいや、全部本に書いてあることを鵜呑みにして話してるだけで(笑)。

小野田:その上でやっぱり、自分達には1950年代以降の、いわゆるロックっぽいとか、IVYっぽいといった近代的なスーツが親しみやすいですよね。確かにその前を追ってしまうとボー・ブランメルだったり、軍服の名残だったり、ウンチクやルールが強くなりがちになってしまい、スーツを難解なものに錯覚させてしまうのも、正直否めないですよね。

―そこまで行くと、またハードル高くて遊びづらそうですからね。

小野田:しかし今は、視点をもっとラクにしてみれば、例えばお国柄などでもスーツを遊ぶのに適している時代だと思うんです。例えば、アメリカでは、トム・ブラウンが出てきてアメリカンスーツをモダナイズしているけど、その一方で、モード出身のトム・フォードは英国のスーツをモダナイズしているっていう。そんな風にアメリカ人のデザイナーの中でも、さらに傾倒はそれぞれに分かれてきていますしね。

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―若い世代から見ると「スーツ=堅苦しい」っていうのはありますよね。実際、自分も若いときは思っていました。それがガラッと変わる瞬間というか、きっかけは何でした? ちなみに自分は、〈トム・ブラウン〉でした。

小野田:スーツの服地が優れてるという側面からスーツに傾倒する人って、10代には恐らくいなくて。発端がカルチャーの場合が多く、僕なんかは「モッズ」でした。モッズのスーツはボタンの数が多いというのを感覚的にしか捉えてなくて、制服の2つボタンのブレザーにボタンホールをひとつ空けて3つボタンにしたり。さらに、サイズダウンするために体格の小さな友だちとトレードして1番小さいサイズをビチビチに着たりとか。スーツに関する素養はカルチャーから学びましたね。だから最初は英国のカウンターカルチャーという文化面から入って、ファッションとしてのスーツの面白さにと、自然に触れていきました。

―カルチャーから入った人達は、お洒落アイテムとしてスーツを取り入れて幅も広がっていくけど、そうじゃなかった人々は型にはめられた、着なきゃいけないスーツという認識が強くなり、温度差が生まれるんですかね?

小野田:例えば歌舞伎町のホストの方でも、若い頃はお金がないから良いスーツが着られないけど、お金が廻るようになると良い時計をしたり、良いクルマに乗ったり、良いスーツを着たりとファッションに貪欲になっていく人も少なからずいると思うんです。そんな流れを解析すると、普段ファッションに従事していない人たちでも、だんだん本物を見る目を養なってくるにつれ、嗜好品も含めて、良い物を求めて王道のクラシックや正統派のクロージングの方向にと流れてくると思うんです。センスはまた別の話ですが。

次のページでは、スーツにおける実体験についての話を聞いていきます。

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