ディレクターとしての責務。

ー ところで森川さんは、もともとスポーツに興味があったんですか?
森川: 割と好きな方ですよ。なんなら学生時代はサッカー部だったので、〈ヒュンメル〉とは近いところにいました。
ー 近年の〈ベイシックス〉を見ていると、スポーツ要素を感じるアイテムが増えている印象を受けるのですが、そこには森川さんの過去が反映されていたり…?
森川: そういうわけではないんですが、確かに〈ベーシックス〉でそういうアイテムを増やしてはいますね。お客さんの動きを見ていても、スポーツ由来のアイテムへの興味関心が高いなと常々感じます。そんな最中、〈ヒュンメル〉からお声がけいただき、いまに至るという。
ー なにかとスポーツに縁がありそうですね。森川さんの方から働きかけたりもあったんですか?
森川: いえ、本当に偶然なんです。急にお声がけいただき、なんでなんだろう、みたいな(笑)。だけど、ぼくの〈ベーシックス〉でのアプローチを見てくださってたんでしょうね。嬉しい限りです。


ー 2025AWシーズンからディレクターに就任し、今回発表した2026SSシーズンで2シーズン目。前回と今回とで気持ちの変化や、ものづくりを進める上で変わったことはありますか?
森川: 売りやすい服ではあると思うんです。だけどそれをどう落とし込んでいったらいいのか、どういうアプローチを世間は求めているのか…、日々模索するなかでの今回のインスタレーションでした。
スポーツブランドとしての〈ヒュンメル〉は知られている。でもそれも男性が中心で女性にはあんまりかもしれない。さらに〈ヒュンメル オー〉になるとなおさら知名度は下がる。そういった層にどのようにリーチしたらいいのか…、単純にクリエーションを突き詰めていくだけではダメだろうし、マーケティングも含めて細かくやっていく必要がありますよね。もちろん一朝一夕でできることではないし、〈ベーシックス〉のときも4、5年かかってるので、少しずつでも成長させていきたいですね。


ー 〈クリスチャンダダ〉も〈ベーシックス〉も森川さんがゼロから生み出したブランド。一方で〈ヒュンメル オー〉は〈ヒュンメル〉の100年の歴史があった上で、そこに森川さんがエッセンスを加えている形だと思うのですが、その全く異なるアプローチの仕方に戸惑いなどはありませんでしたか? これまでゼロから生み出してきた森川さんにとって、難しさや苦悩、葛藤などがあったのではないでしょうか。
森川: 確かにアプローチの仕方は異なりますが、ぼくを指名して依頼いただいている時点で、ぼくはぼくの思うファッションを貫くだけ。だれがやってもかっこいいものっておもしろくないから、ぼくにしかできないクリエーションを追求し続けていきたいです。もちろん多少の葛藤はありますが、それは〈ベーシックス〉でも〈ヒュンメル オー〉でも同じこと。とはいえ〈ヒュンメル オー〉では、みなさんが思っている以上にのびのびとやらせてもらっているので、ありがたい限りなんですけどね。

ー 〈ヒュンメル オー〉の今後の展望を聞かせてください。
森川: この先2、3年で卸先はグッと増やしたいですね。やっぱりポイントは“知名度”。まずはなにがなんでも認知を拡大させること。そして目指す先は直営店オープンです。それも〈ヒュンメル オー〉だけではなく、〈ヒュンメル〉の全ラインを扱うような店。
そこで何かつくれたり、体験できたりと、ハブ的な役割を果たすスポットができたら、さらにひとつもふたつも上のステージに上がれると思うんです。それも含めてぼくの役割であり、目指すべきことだと考えています。そのためにどうしたらいいか、考えることはたくさんありそうです。


ー 伸び代だらけですね。
森川: 本当にそう。でもやることは明確ですよ。〈ヒュンメル オー〉でスポーツと関係ない生地を使ってもしょうがないですから。あくまでスポーツブランドという土台の上で、ぼくの経験や知識、アイディアを使って、どこまで新しいチャレンジができるか。それに尽きると思います。
そういう意味では、シューズの開発とかおもしろいと思っているんですよね。スポーツブランドとしてノウハウは絶対あるわけで、そこにファッション的知見を取り入れることでみんなに愛される新しいカタチのシューズを世に送り出す。そんなスポーツブランドならではの強みや特権をフル活用して、ブランドを大きくしていきたいと思っています。

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