左:〈ネクサスセブン〉デザイナー 今野智弘、中:〈N.ハリウッド〉デザイナー 尾花大輔、右:〈N.ハリウッド〉企画 泉田智則
- ーみなさんはいつ頃からのお知り合いなんですか?
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今野:最初は尾花くんの前に、泉田くんと知り合ってるんです。
泉田:そうですね。
尾花:ちょうどこの間、そんな話をしてたよね。
今野:泉田くんが前職に勤め始めたころだったと思います。2002年~2003年くらいですかね。
泉田:役者の岡田義徳くんがみんな共通の友達で、一緒に遊んでたんです。
今野:10代の頃に遊びに行ってたクラブで、彼がアルバイトしてたりとかで、同じコミュニティーでちょこちょこ会うようになったんです。一方、そのころの尾花くんといえば、僕にとっては雑誌の中のひとでした(笑)。
尾花:いやいや。でも、一回うちの展示会に来てもらったよね。
今野:そうかもしれないですね。でもその頃は会釈する程度で。そのあと、池袋でやった古着のイベントのときに、ちゃんと泉田くんが紹介してくれて。
尾花:池袋! やってたね、そういえば。
泉田:8年前ですね、ということは。
今野:そのときも古着の話を少しした記憶があります。
尾花:そうだね。まぁ、古着つながりで始まった感じではありますね。
- ーやはり二人で会うと、古着の話が多いんですか?
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尾花:はい。なかでも2人とも軍モノが好きなので、そういう話は多いです。あとは、3年くらい前に今野くんがうちの事務所の近く(千駄ヶ谷)にお店を出したので、改めて今野くんの世界をきちんと見せてもらったんですが、こんな角度で古着好きなひとがいるんだなってそのとき思ったんですよね。
- ーというと?
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尾花:いやもう単純に、こんなマニアックなもの普通ピックアップしないよなって。しかも安いし。だいたいそのひとの古着感って、セレクトしてるものでわかるじゃないですか。あー、掘ってるなって。僕と今野くんの古着感は、全部“点”では繋がってるんですけど、“角度”が違うんです。同じものを見ても、違う方向を向いてるというのが面白いなって。
今野:尾花くん世代の先輩たちには、地元でもすごくよくしてもらっていて、その期間がけっこう長かったので、もしかしたら見てきたものが近いのかもしれませんね。ただ、尾花くんは想像以上でしたね…。そこまで見るんだなっていう。ふつうの古着屋さんでは見ないところに注目してるんですよ。
尾花:古着屋さんはやはり、売ることが目的だからね。古着が商売じゃないとなると、より趣味指向に寄せたものがピックアップできるというか。
ーということは、お互い持っているものがカブるということはなさそうですね。
尾花:そうですね。これは僕持ってる、今野くん持ってない、僕ない、今野くん持ってる、みたいな。謎のバックトゥバックっていうか(笑)。知識のバックトゥバックみたいなときもありますね。
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今野:だいたい軍モノって、珍しいものがそもそも少ないので、だれだれが買ったよっていう話も結構回ってきますよね。
尾花:どうしても古着屋で買うとね。今野くん、オークションもやってるでしょ?
今野:たまにやってます。けど、「eBay」で買うときはちょっと心配なので、まずはセラーにメッセージを入れて、アメリカに行ったときにタイミングを合わせて会って、実物を見ながら交渉してます。とにかく軍モノはそんなにいいものが出ないですね。
- ーそうなんですね。
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今野:時代によっても変わりますけどね。自分は40年代からベトナム戦争くらいまでが好きなんですが。
尾花:自分もそうですね。第一次世界大戦あたりはちょっと入りかけたんだけど、やっぱりいらないかなって(笑)。第二次世界大戦からベトナム(戦争)にかけてっていう時期はすごく色が濃いですよね。無駄なものをいっぱい作ってたし。昨今は、どんどん無駄の無いディテール、これもまた見所いっぱいというか。
- ーと、どこまでも話は尽きないんですが、そろそろ今回のプロダクトを作ることになった経緯について聞かせてください。
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今野:まず、前提としてあったのが、「ゴアテックス(GORE-TEX®)」とウチとの契約が今年いっぱいということなんです。生産背景が海外に移ったりするなどの変化があったので、いったん今回で最後にしようかなと。それで、最後に何を作ろうかなと考えたときに、もともと「ECWCS(Extended Cold Weather Clothing System)※拡張式寒冷地被服システムの意」という米軍の迷彩のマウンテンパーカで「ゴアテックス」を使いたいというのが始まりだったので、今回の取り組みでも“軍モノ”という部分で串を通そうと。それで、軍モノができて、自分が好きなブランドというところで、すぐに〈N.ハリウッド〉さんをイメージしたんです。
- ーなるほど。
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今野:それですぐに「ゴアテックス」社の方に連絡を入れて、どういう形であれば取り組みが可能ですか?と相談をしたんです。
尾花:僕らは「ゴアテックス」社さんとは取引がないので。
今野:そうしたら、〈N.ハリウッド〉ではなく、尾花くんの個人としてやるプロジェクトであれば、招聘デザイナーとして、ネーミングを入れられますということだったんです。
- ーそれで今回は「DAISUKE OBANA」というネーミングなんですね。
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今野:そこから、3人で色々アイデアを出して、徐々にすり合わせしていったという流れでした。
尾花:「ゴアテックス」って、古着を通ってる人にとっては、とにかく歴史の中での最新の素材っていうイメージがあるんですよね。実際、今も進化してますし。例えば“ミリゴア”(米軍のために作られたゴアの俗称)っていう、燃えなくて炭化する新素材を作り始めてたりするんです。それと今回、このプロジェクトを進めるにあたって、気をつけたことがひとつあるんです。
- ーなんでしょう?
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尾花:僕らの軍スペック的な部分を提供するだけだと、なんだか今野くんがウチにOEMをお願いするみたいな雰囲気になってしまうと、それはおかしいなって。
泉田:僕らも〈N.HOOLYWOOD EXCHANGE SERVICE〉っていうミリタリーのレーベルをやっているので、なおさらそうなんです。
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尾花:あくまでも15周年のお祝いとして、私的な感覚で協力しましょうというノリがいいよねって。なので、自分が持っている私物をベースに、これを噛み砕いて面白いものができたらと思いました。〈ネクサスセブン〉では、今回のコートくらいの丈のアイテムをあまり作ってないイメージがあったので、逆に面白いかなと思ってハーフコートぐらいの丈のアイテムを私物からピックアップして、これをブラッシュアップしていこうということになりました。今野くん、この生地って使ったことあるの?
今野:いや、初めて使いました。今回は「ゴアテックス」を使ったコートという着地点があったので、それありきで考えました。泉田くんの方から、分量というか、蹴回し(裾回り全体の寸法)を少し広げてドレープ感や動きが出るようにしたほうがいいという提案があったので、そのあたりをイメージして生地を選びました。マイクロリップっていうんでしょうか、リップストップの細かい生地です。これまでにも軍モノでリップストップってあったんですけど さらに細かくて現代っぽい雰囲気になっています。ややストレッチ性もありますね。
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尾花:「ゴアテックス」は物によってタウンユースだとハードすぎて着づらい点が少しあるんだけど、その辺はすごく改善されてるよね。いま振り返ってみて思うのは、自分たちのラインで作るものと違って、いい意味で遊び感覚でものづくりができたなって。うちの〈N.HOOLYWOOD EXCHANGE SERVICE〉でやるとなると、どうしてもこのディテールはあの時代だからこの仕様と紐付けて考えて、みたいなことになるので。そういう決まりごとというか、レギュレーションのようなものを超えた上で、今野くんらしいものをということをすごく考えました。
泉田:とはいえ、細かいことももちろんやっています。付属類のパーツなどは今野くんに探してもらって、本物についてるものに近しいものを再現してもらいました。逆にうちで使っている新しいマジックテープを提案させてもらったりもしています。あと、シルエットとかパターンもこちらから出させてもらいました。
- ーなるほど。本当に両者の意向が混ざり合ってるんですね。
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尾花:僕はどちらかというと、ひとつひとつフィックスしたくなるタイプなんですが、今回は今野くんと泉田にある程度任せました。2人の方が付き合いも古いし、そもそも1型だし、仲間っぽく作るんだったら、まずは2人でいくところまでいって、僕はサンプル提供とあとは監修という形でいいかなと。そういうこともあって、今日は泉田にも同席してもらったんです。
泉田:2人の好きなものは結構共通してるし、共有できてる部分が多いので、難しくなかったですね。自分でもかっこいいものができたなって思います。
- ーちなみに、〈N.ハリウッド〉として、「ゴアテックス」を使って何か作ろうということにはならなかったのでしょうか?
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泉田:「ゴアテックス」の担当者の方を今野くんに紹介していただいたこともあるんです。ただ結局、着地には至らなかったですね。
尾花:もし僕らが「ゴアテックス」と付き合いがあったとしても、もしかしたらここまでは持ってこれなかったかもしれないですね。今野くんのいままでの付き合いとか、信頼があってこそだと思います、やっぱり。
- ー今回は何回かサンプル作ったんですか?
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今野:3回です。「ゴアテックス」って、認定を受けた工場でしか縫えないんです。よく聞く話だとは思うんですが、本当に検査が厳しくて。ちょっとでも水が入るかもという箇所があると、縫い方とか変えられてしまうことがあるんです。なので、その部分だけ直したりしました。
- ーちなみに、これが尾花さんの私物、今回の元ネタですね。
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尾花:〈パタゴニア〉を2つ使いました。
泉田:右のロゴが表にないのは、「マーズ(M.A.R.S = Military Advanced Regulator System)」」です。
尾花:これはレベルいくつなの?
今野:レベル6です。
尾花:今野くん、〈パタゴニア〉“見れる”ひと?
今野:いえ、そこまで詳しくないです。これは®付きの雪ありなので80年代後半〜94年くらいまでのモデルになるんですかね…。 自分も色違いを持っているんですが、このジャケットは名作ですよね。
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泉田:今回のコートってサイズLまででしたっけ?
今野:XLまで展開しています。
- —黒とオリーブ系の2色ありますが、着るならどちらがいいですか?
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泉田:僕はオリーブですね。この色いいですよね。
尾花:黒は僕らもいろいろ作ってるからね。この色出しは今野くんならではだよね。今日履いてる〈コンバース〉の「プロレザー」とかもそうだけど。
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今野:オリーブ系の方の色は、コヨーテが入ってたりとか、オリーブドラブから緑が抜けてきてるような柔らかい感じですね。今回使った生地が今っぽい感じで、マジックテープも同じく新しい雰囲気だったので、どことなく“現代”を感じるような色味に着地したかったんです。最初はコヨーテとか、グレーっぽい色も候補にあったんですけど、グレーと黒だといまひとつミリタリー感が伝わりづらいかなってところもあって、黒を残すなら緑系を入れたいなということで、この色になりました。
- ー基本的に〈ネクサスセブン〉の取り扱い店での販売になるんですか?
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今野:そうですね。あとは、先日リニューアルした「チャオパニック」の新宿店にも、色別注ということでネイビーを少しだけ展開させていただきました。
- ーこのコートはいくらで販売するんですか?
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今野:¥85,000(税抜)です。
尾花:普段「ゴアテックス」を使って作ると、だいたいいくらくらいになるの?
今野:いつもは6万から7万が多いんですけど、今回丈が長かったりで、用尺(ようじゃく 注:服を作るのにかかる布の量)がかかったので、それくらいの金額になりました。
尾花:でも、いま値段聞いても、安く感じたけどね。
今野:生地自体もけっこう高いんです。
尾花:生地はもちろんだけど、縫製のレギュレーションとかも全てテストしてるわけだしね。ものすごい手間だよね。
今野:そうですね。さっきもちょっとお話ししましたけど、「ゴアテックス」には「レインテスト」というのがあって、一着製品の状態でテストをして、一滴でも水が入った形跡があると全部やり直しなんです。ちなみにこのテストは内容非公開です。まぁ厳しいですね。
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尾花:もはや洋服じゃないよね。
今野:確かに。ギアといった方が正確かもしれませんね。
尾花:それくらい徹底的にやってるのって「ゴアテックス」くらいなんだよね。
泉田:アウトドアブランドは、自社でテストをやってますよね。うちでやってる〈マウンテンハードウェア〉もそうですけど。
今野:みなさん、「ゴアテックス」社を超えようとものすごい企業努力をされてますけど、それでもやっぱり「ゴアテックス」はすごいですね。
- ー今野さんは、いつから「ゴアテックス」を使った製品を作ってきたんですか?
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今野:ブランドをスタートして1年目で契約締結できたので、14~15年くらい前ですね。最初、「ゴアテックス」の担当者の方に手書きのラブレターを送り続けていたんです(笑)。
泉田:そうだったんですね。
今野:それで、担当者の方が変わるタイミングで、引き継ぎの時に自分のことも共有していただいたみたいで(笑)。そのとき、ちょうど別のブランドさんが契約を締結したタイミングで、そのブランドの方が自分のことを知っていてくれて。その方が進言してくれて、ようやく話をすることができました。
- ーかなり苦労されたんですね。
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今野:自分の場合は、元○○のような肩書きがあったわけでもなかったので、最初はどこも相手にしてくれませんでした。昔からの友人にお願いして着てもらったり、広げてもらったりしているうちに、いろいろなことが少しずつできるようになってきました。なかでも「ゴアテックス」は何年かかってもいいからやりたかったんです。さっき尾花くんも言ってましたが、古着を通ってる人からすると「ゴアテックス」自体に特別な魅力を感じている人が多くて。自分ももちろんそのなかの一人でした。
- ーそういう意味でもこのコートは思い出深いアイテムになりましたね。
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今野:そうですね。今までも色々なコラボレーションがありましたが、一番アイデアを出してもらったコラボレーションだったと思います。いつもは何かしらベースがあるものに対してアレンジするということが多いのですが、今回は15周年のために元ネタも用意してもらって。セッションしながら作っていった感じがして、本当に楽しいプロジェクトでした。
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泉田:なおかつ、自分でも着たいっていうところがやっぱり大事ですよね。僕もめちゃくちゃ欲しいです。
- ー話を聞けば聞くほど、理想的なコラボレーションのように思えます。
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今野:さっきも話しましたが、同じミリタリーを扱うのでも〈N.ハリウッド〉さんとでは、角度が少しずれているので、毎回すごく勉強になるんです。だから〈N.ハリウッド〉さんの展示会はいつも楽しみですね。
泉田:うれしいですね。
今野:同じネタを見てもアウトプットの仕方が違うっていうのも、今回お願いしたいなと思った大きな要素でした。展示会にしても、角度が違うから安心して見に行けるんですよね。自分とアウトプットの仕方が近かったりすると、刷り込まれてしまうんですよね。なので、最近はそういうことがありそうな展示会には、行かないようにしてました。そんななか、〈N.ハリウッド〉さんが作るものには毎回驚かされています。